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第3章 竜使いであること
フールからの注文
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口を開くと面倒なので、とにかく体を動かそう。
そんなフールの提案により、キリハとルカは半ば引きずられる形でシミュレート室へと連行されていた。
通常シミュレート室には訓練を行う人間しか入らないのだが、今日はキリハたちが逃げないかという監視目的か、サーシャとカレンに加えてターニャまでついてきていた。
「さてさて、ダブルモードで三十分コースかな~。」
上機嫌のフールがタッチペンを両手で持ち、器用にタッチパネルとボタンを操作していく。
「ねえねえ、どっちが焔を使う?」
フールがくるりと振り返って、キリハとルカに訊ねる。
《焔乱舞》は一本しか存在しない剣だ。
故にシミュレーション訓練においても、設定でその使用者は一人に限定されている。
未だに睥睨し合うキリハたちは何も答えない。
すると。
「あ、じゃあ!」
カレンが元気よく手を挙げた。
「あたし、いつもルカとペアでやってて、キリハが焔を使うところ見たことがないのよね。だから、キリハに使ってほしいな。」
「ほうほう、なるほどね。」
まさにその言葉を待っていましたとばかりに声を弾ませ、フールはキリハを見やる。
「だって。ご指名だよ、キリハ?」
「……分かったよ。」
キリハは諦めの息を吐き出し、レプリカの剣を手に取る。
一方のルカはラックにしまわれた数々の武器の中から、得意とする二刀の短剣を取り上げた。
シミュレーション用なので、もちろん刃は潰してある。
「………」
ルカはキリハに意味ありげな視線を投げ、結局何も言わずに実践場へと入っていった。
どうやらここで無駄口を叩くほど、ルカは剣技においての実力差を蔑ろにはしていないらしい。
何を言われるのかと少し身構えていたキリハは、ふうと肩の力を抜く。
その背中に。
「キーリハ♪」
フールが猫なで声で呼びかけた。
「今日はルカとの共闘がメインだし、ギャラリーもいるからね。いつものやり方じゃあつまらないから、その辺りよろしくね~ん。」
キリハは思わず、フールにきつい目を向けた。
気持ちの悪い声で、わざわざ注文をしてくるとは。
「……何分?」
「んー…。ターニャが取れる時間も少ないし、十分ってとこで。」
「分かった。」
渋々頷き、キリハは実践場に向かう。
「フール。あなた、キリハさんに何か仕込みましたね?」
「えっへへ~♪」
すでに何かを察しているターニャに、フールははぐらかすように笑うだけだ。
「ねえ、キリハとペア組んだことあるよね? 何かすごいことでもあるの?」
フールの隠し事の真相を探ろうと、カレンはサーシャに訊ねる。
しかし、サーシャはそれに対して難しそうに首を捻った。
「うーん……剣の腕が文句のつけようもないのは確かだよ。キリハとやると、すっごくやりやすいし。でも、あとはなんだろう? キリハって、ペア組む時はいつも私に焔を譲ってくれるから、実は私もキリハが焔を使うのは久しぶりに見るの。」
「おーおー。二人とも気になってるね?」
フールはご機嫌でカレンとサーシャの周囲を飛び回る。
「まあ見ててよ。面白いものが見れるからさ!」
宙で跳ね回るフールの目は、まるで宝物を自慢する子供のようにきらきらとしていた。
そんなフールの提案により、キリハとルカは半ば引きずられる形でシミュレート室へと連行されていた。
通常シミュレート室には訓練を行う人間しか入らないのだが、今日はキリハたちが逃げないかという監視目的か、サーシャとカレンに加えてターニャまでついてきていた。
「さてさて、ダブルモードで三十分コースかな~。」
上機嫌のフールがタッチペンを両手で持ち、器用にタッチパネルとボタンを操作していく。
「ねえねえ、どっちが焔を使う?」
フールがくるりと振り返って、キリハとルカに訊ねる。
《焔乱舞》は一本しか存在しない剣だ。
故にシミュレーション訓練においても、設定でその使用者は一人に限定されている。
未だに睥睨し合うキリハたちは何も答えない。
すると。
「あ、じゃあ!」
カレンが元気よく手を挙げた。
「あたし、いつもルカとペアでやってて、キリハが焔を使うところ見たことがないのよね。だから、キリハに使ってほしいな。」
「ほうほう、なるほどね。」
まさにその言葉を待っていましたとばかりに声を弾ませ、フールはキリハを見やる。
「だって。ご指名だよ、キリハ?」
「……分かったよ。」
キリハは諦めの息を吐き出し、レプリカの剣を手に取る。
一方のルカはラックにしまわれた数々の武器の中から、得意とする二刀の短剣を取り上げた。
シミュレーション用なので、もちろん刃は潰してある。
「………」
ルカはキリハに意味ありげな視線を投げ、結局何も言わずに実践場へと入っていった。
どうやらここで無駄口を叩くほど、ルカは剣技においての実力差を蔑ろにはしていないらしい。
何を言われるのかと少し身構えていたキリハは、ふうと肩の力を抜く。
その背中に。
「キーリハ♪」
フールが猫なで声で呼びかけた。
「今日はルカとの共闘がメインだし、ギャラリーもいるからね。いつものやり方じゃあつまらないから、その辺りよろしくね~ん。」
キリハは思わず、フールにきつい目を向けた。
気持ちの悪い声で、わざわざ注文をしてくるとは。
「……何分?」
「んー…。ターニャが取れる時間も少ないし、十分ってとこで。」
「分かった。」
渋々頷き、キリハは実践場に向かう。
「フール。あなた、キリハさんに何か仕込みましたね?」
「えっへへ~♪」
すでに何かを察しているターニャに、フールははぐらかすように笑うだけだ。
「ねえ、キリハとペア組んだことあるよね? 何かすごいことでもあるの?」
フールの隠し事の真相を探ろうと、カレンはサーシャに訊ねる。
しかし、サーシャはそれに対して難しそうに首を捻った。
「うーん……剣の腕が文句のつけようもないのは確かだよ。キリハとやると、すっごくやりやすいし。でも、あとはなんだろう? キリハって、ペア組む時はいつも私に焔を譲ってくれるから、実は私もキリハが焔を使うのは久しぶりに見るの。」
「おーおー。二人とも気になってるね?」
フールはご機嫌でカレンとサーシャの周囲を飛び回る。
「まあ見ててよ。面白いものが見れるからさ!」
宙で跳ね回るフールの目は、まるで宝物を自慢する子供のようにきらきらとしていた。
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