19 / 598
第2章 竜騎士隊へ
交わらない主張
しおりを挟む「なんで……あんな連中の肩を持つ? 気に食わないとは思わないのか?」
休みなしに双剣を繰り出しながら、ルカはキリハに訊ねた。
「いつも散々馬鹿にしておいて、こんな時だけ…。いや、竜騎士なんて立場があったって、あいつらが持つ感情は変わらない。竜使いだってだけで、オレたちが何をしていても奴らは気に食わないんだ。なのにどうして……オレたちが、あいつらのために戦わなきゃいけないんだ? あいつらは、オレたちのことを助けなかった。なのに…っ」
キリハは黙って、ルカの剣を受け続ける。
しかしその目だけはしっかりとルカの顔に向けられており、ルカの言葉に真剣に耳を傾けていることが分かった。
「オレは、あいつらのために動いてやる気なんかさらさらない。いつか絶対に見返して、オレたちを馬鹿にしたことを後悔させてやる。そうじゃないと、オレもみんなも報われない。だからオレは、ここにいるんだ!」
悲痛な叫びと共に、ルカは勢いよく剣を突き出した。
その剣がキリハの防御をすり抜け、二の腕をかする。
「……なんで、避けなかった。」
ルカは低く訊ねた。
悔しいことこの上ないが、キリハなら今の攻撃くらい、簡単にいなしたはずだ。
この少年の剣の腕前は、天の才をいただいているとしか思えないほど卓越したものなのだから。
うつむくキリハの二の腕から鮮血があふれ、服の袖を赤く染めていく。
だがキリハはそんなことは気にせずに、剣を下ろしてルカのことを間近から見つめた。
そこにあったのはどこか悲しそうで、それでいてどこまでも純粋でまっすぐな眼差し。
「つらくない?」
ぽつりと、それだけが口腔から漏れた。
その問いに気を取られたルカの動きが、ピタリと止まる。
「そんなに無理矢理全部を敵に回して、肩に力入れて……つらくないの?」
「何、言って……」
「俺は、俺以外に竜使いがいない場所で暮らしてた。」
「!!」
唐突なキリハの告白に、ルカが面食らったように目を見開く。
「でも、みんな優しかったよ。竜使いだって知ってても、俺を大事にしてくれた。竜使いを嫌う人はたくさんいるけど、そういう人だけじゃない。目を見れば、相手が自分を嫌ってるかそうじゃないかくらい分かるよ。」
「……随分と、生ぬるい環境にいたんだな。」
「そうかもしれない。でも―――」
キリハは堂々と前を向く。
「俺は、自分の世界を閉ざして可能性を捨てたくない。そう生まれてしまったものは仕方ないんだ。竜使いとかそうじゃないとか関係なく、俺は俺が守りたいと思うものを守っていきたいだけだ。」
「黙れ!! お前は、何も知らないからそんなことが言えるんだっ!!」
至近距離から、なんの前触れもなく襲ってきたルカの三連撃。
それを、キリハは圧巻の速さでさばく。
最後の一撃で、二人の剣が大きな音を立ててぶつかった。
「よく分かった。オレとお前には、分かり合う余地がないってことがな!」
剣を薙ぎ払い、ルカはその勢いを使って大きく飛びのいた。
そのまま休むことなく、キリハに向かって突進する。
「もうやめて!!」
甲高い声が響いたのはその時だ。
「!?」
それぞれ互いの姿しか眼中になかったキリハとルカは、自分たちの直線状に飛び込んできた人影に息を飲んだ。
まずい。
キリハは唇を噛む。
このままでは、ルカが勢いを落とし切る前に事故が起こる。
彼女の前に出てルカの剣を弾くことは可能だが、弾いた剣の行く先までは制御できるか分からない。
一秒にも満たない脳内のやり取りの末、キリハは思いきりそこから駆け出した。
それと同時に、右手の剣を離す。
剣という重りをなくした全力疾走のおかげで、自分とルカの間を阻むその背中が瞬く間に眼前に迫る。
キリハは左手を伸ばすと、自分とルカの間に割り込んできていたカレンの腕を強く引いた。
声もなくバランスを崩したカレンを抱いて、ルカの剣から逃れるために大きく跳躍しながら地面に転がる。
「くっ…」
二の腕が地面とこすれて、激痛が走る。
キリハは歯を食い縛り、カレンを地面との摩擦から守ることに徹した。
ほんの数秒の出来事の後に訪れる静寂。
ようやく停止したキリハのうなじに、背後から冷たい金属があてがわれた。
「ルカ!!」
キリハの腕の中からカレンが金切り声をあげる。
しかしルカは眉一つ動かさずに、冷やかな表情で言い放った。
「お前の剣は認める。でも甘すぎる。これが罠だったら、どうするつもりだ。」
キリハのうなじに当てた剣にわずかに力を込め、ルカは次に双剣をその場に捨てた。
興ざめしたと言わんばかりに鼻を鳴らし、くるりと背を向けて出口に向かって歩き出す。
「でも、一応礼は言っとく。お前のおかげで、余計な奴に怪我を負わせずに済んだ。」
そうとだけ残し、ルカは今度こそ姿を消した。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる