竜焔の騎士

時雨青葉

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第2章 竜騎士隊へ

勝負にならない戦い

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「―――まさか、キリハのお師匠があのディアだったとはねぇ。」


 二人の戦いを見ながら、フールが感心したように呟いた。


「フールちゃん、知ってるの?」


 口も挟めず見物人となっていたサーシャは、フールにそう訊ねる。
 同じく見物人状態のカレンは、はらはらして二人に見入っているせいで、こちらの会話には気づいていないようだった。


 フールはこくりと頷く。


「知ってるも何も、生ける伝説とまで言われてる剣の名士さ。特例で入軍した二十一歳の時に宮殿の大会を最年少で制覇、その後に前人未踏の三連覇を成し遂げて殿堂入りだもの。彼独自の剣技である流風剣りゅうふうけんの名をもじって、通り名は〈風魔ふうまのディアラント〉。宮殿内じゃ、知らない人はいないよ。そういえば、ディアもレイミヤの出身だったっけ。」


 言いながら、フールはまたキリハたちに目を向ける。


「これじゃあ勝負にならないね。キリハが速すぎるよ。」


 猪突猛進に攻撃を仕かけるルカを、キリハは涼しい顔で受け流している。


 相手の攻撃を利用する流風剣は、攻めよりも受けを得意とする流儀。
 ルカはキリハのリズムを崩そうと必死だが、あれはむしろ、キリハにとって有利な状況に飛び込んでいる自殺行為でしかない。


 それを熟知しているはずの猛者もさでも、いつの間にか使い手のペースに巻き込まれているというのが、この流風剣の真に恐ろしいところなのだが。


 全身を包むのに感触が掴めない空気のように敵の攻撃をかわし、時に巨大な竜巻のように敵を飲み込む。
 まさに、流れる風のごとき剣技。


 ここ数年で生ける伝説とまで呼ばせた剣技を、ディアラントの他に使いこなす人物がいたとは。


「どうりで最初から、あのほむらをそれなりに使うわけだ。」


 納得したようなフールの独り言は、当然ながらキリハたちには届いていなかった。

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