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6.地元福岡での授業

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 「直美、今度のGW、私福岡に帰るのね。」
 「そうなの?何日いるの?」
 「2泊3日。そのうち、一日は福岡で教えてくるの。」

 うちの事務所は地方にいる人の為に、年に何回か地方で単発の声優教室を開いている。今年のGWでは初めて福岡開催ということになり、地元福岡出身の私がやることになったのだ。

「お土産は甘いものと辛いものどっちがいい?」
「甘いもの。あの南蛮往来かってきて。」
「分かった」

 飛行機の中で雲を見ながら、自分のことを思い出していた。
 今でこそ声優の教室に限らず、演劇スクールは福岡でも増えてきたが私が学生のころは本当に養成所が少なく、高校でも演劇部はなく、東京では高校生から養成所に通っている人もいると聞いた時はいいなーと羨ましく思ったものだ。それだけではない、アニメのイベント、声優のライブもほぼ東京。もしくは大阪、名古屋までで、幽遊白書のライブなんて夢のまた夢。東京に知り合いもなく福岡在住の私はどれだけ悔しい思いをしたか・・・。
 今は配信でどこにいても視聴可能なので便利な世の中になったものだ。
 そんなことを考えながら、眠りについた。

 声優教室は思ったより人数が集まっていた。高校生から社会人まで様々。私も気合を入れていつもは私服だがジャージに着替えて参戦。まずは肉体訓練。二人一組になって、体をほぐす。
 「はい、では後ろの人は前の人を押してください」
 あちこちで悲鳴が上がる。よしよし、これは体をほぐすことよりも緊張をほぐすこと為にやっているので緊張はとけてきたかな。
 まず発生や早口言葉。活舌などはまだまだだが、一生懸命口を開いて言ってくれる。目を輝かせて言ってる子達に対して私も答えてあげたい。後半のエチュードが思いのほか盛り上がり、あっという間に時間はすぎていった。
 さて、そろそろ終わりだが私はどうしても伝えたいことがあった。これを伝えるためにここに来たと言ってもいい。
「一つ約束してほしい。必ず何がなんでも東京に出てきてほしい。私もかつて福岡の養成所に通ってたのね。で、いざ卒業間近で今後どうするかという話になった時に、ほとんどの人、99%の子がお金がないからバイトをしてお金がたまったら東京に出てくるといってたの。でも、そうやって東京に出てきた人は誰もいなかった。」
 一旦、ここでみんなを見渡す。
 「住み慣れた地元を離れるって、本当に労力が必要なのよ。手続きやらもろもろめんどくさいし。だから、養成所でも劇団でも決まってなくていい。とにかく何が何でも東京に出てきてほしい。」
 これで授業は終わった。教室を出た時、さてこの中から何人の子が東京に出てくるかな。

 
 
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