人狼物語

千響

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第一章

目醒め(3)

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 「確かに…水の匂いが、濃い」

 虎杖いたどりも以前はここの見張りを務めたことのある、薄霞うすがすみの先輩に当たる。

 一族の子供は、一定の年齢になると、ここの見張りの任を与えられる。この聖域を守ることが一族の使命だと教えられ、その実感を得るためにここの見張りを任されるのだ。

 この聖域からは、常に清浄な気が漂っている。薄霞も初めて来た時は驚いたものだ。

 「しかし、どうしようもない。聖域がどうなったとしても、私たちには手を出すことはできない」

 「でも…」

 「御爺様に、そのまま御報告するしかないだろう。おまえは交代が来るまでここにいろ」

 「…わかりました」

 曾祖父ならば、きっと何か知っているはずだと思い、薄霞は頷いた。
 だが、虎杖が踵を返しかけたその時。

 ざあっと風が吹き抜けた。

 聖域の奥からだ。
 虎杖も薄霞も、思わず暗闇に続く道を見やった。先ほどとは比べ物にならないほどの濃い水の匂いが漂う。

 手燭の灯りすら届かない闇の奥から、かすかな音がした。
 よく耳を澄ますと、足音だった。

 「は、母上…」

 薄霞は、竦む足を叱咤する。母の方を見やれば、虎杖も緊張した面持ちだった。

 「しっ……黙って」

 足音は段々と近づいて来ている。
 薄霞は、手燭を前に翳すが、闇はちっとも明るくはならない。

 二人揃って息を詰める。
 心臓の音がうるさく響く中、その足音の主は現れた。
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