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6章:スタンピード!

敵戦力は強大です。逃げるか戦うか?

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リーゼン達が急ぎ戻って来る頃には、落とし穴の準備も【半分】は終わっていた。前回より時間があるとはいえ、逆に数を多く作っているので時間が掛かっていたのだ。ただ、今回は落とし穴に尖った槍様な針山のみで火炎魔石や油は入れていない。全ての穴に用意することは出来ないからだ。
落とし穴に落ちた時は上から魔法を浴びせる手筈になっている。

落とし穴を作っている横をリーゼン達が猛スピードで掛けて素通りしていく。

「大将シャーマン!斥候が戻って来ました!」

城壁からの物見から報告があり、急ぎ城門前で出迎える。

「良く戻ってきた!随分と早かったな?」

軍部の予想よりかなり早く戻って来たので何かあったのかと顔付きが険しくなる。

「ただいま戻りました!すぐに報告したいので、また兵舎に人を集めて下さい!我々の予想より最悪な事態です!」

切羽詰まったサクラの報告に、すぐに兵舎で作戦会議が開かれた。

「報告します!現在、こちらに向かってくる土龍を確認しました!」

この報告に一同がやはりか……と落胆する。わかってはいても嘘だと思いたかったのだ。次の報告で更に青ざめるのではあるが。

「現在、【2体】の土龍は列を成して真っ直ぐ向かって来ています!先頭の土龍の背にはナーガらしき人物を確認致しました!」

報告を続けるサクラとエミリアの言葉に待ったが掛かる。ちなみに、リーゼンは報告が下手ので説明は丸投げである。

「ちょっと待て!今、聞き違いか2体と言わなかったか?」

「いいえ、聞き間違えでは御座いません。【2体】の土龍がこちらに向かって来ております!」

!?

辺りは騒然となる。1体でも倒せるかわからない龍が2体も向かってくるのだ。下手をすれば全滅もあり得る!

「1体でも勝てるかわからない土龍が2体とは……どう対処すれば良いのか……」

流石のシャーマンも作戦が思い付かない。1体倒せても多大な被害が出るだろう。もう1体なんて不可能だ。

「犠牲者が増える前に、この城塞都市を放棄して逃げる……撤退もありなのではないでしょうか?」

シャーマンの近くにいた高位官僚が遠慮がちに挙手をして意見を述べる。土龍と戦うのが怖いのはわかる。しかし、軍人とはいえ人である。家族や恋人だっているのだ。多大な被害が出るとわかっていて戦う事の他に、逃げる事も【あり】なのだ。土龍は足が遅い。ずっと追ってくる事も無いだろう。1度引いて無理矢理でも他の軍を呼んで挑めばまだ活路があるのも事実だ。

「逃げるのもあり……か?」

シャーマンがそう呟いた時だった。

バッン!!!

誰かがテーブルを強く叩いたのだ。突然の大きな音にびっくりするが、音の方を見るとテーブルを叩いたのはイルベルトだった。

「……逃げたい者は逃げて下さい!しかし私は最後までここで戦います!」

イルベルトの発した言葉には、胸の奥から絞り出すような凄みがあった。

「ここは長年住んだ故郷です。みすみす魔物に襲われたからと言って逃げ出したくない!」

シャーマンはイルベルトをなだめる。

「落ち着け!イルベルト!貴様らしくないぞ?」

いつも冷静なイルベルトの激昂に側にいたアルフも驚いた。

「私は敬愛するアルフ元近衛騎士団長を追って、この城塞都市に勤務しました。約10年近く住んで第2の故郷となったこの街を捨てる事など出来ない!」

アルフはイルベルトの言葉に感銘を受けた。自分もジークを本当の子供として育てて来たのだ。この街に愛着だってある。

「大将シャーマン、これからの戦いは希望者のみにしないか?後は、最近子供の産まれたやつなどは除外してな……」

「そうだな……これからの戦いは多大な被害が出るだろう。志願者だけにするのが正解か……」

シャーマンも重たい言葉を吐いた。

「すみません、まだ報告が終わっていません。大変申しにくいのですが、土龍の周りをワイバーンが【最低】5匹旋回して飛んでいるのが確認されました」

「おいおいおい!土龍だけでもいっぱいいっぱいだって言うのにまだいるのかよ!?」

敵戦力の強大さに士気は駄々下がりだった。そして、そこからのシャーマンの行動は早かった。すぐに、これから戦うであろう敵の情報を帝国軍、冒険者に公開し帝国軍はここで逃げても罰しないので、志願者だけ残るようにいった。

土龍が近付く中、城塞都市は混乱していくのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【後書き】

シオン
「現場が混乱していますわ!なんとかしなければ!?」

愚者の声
………………

シオン
「こうなれば、いよいよ私の出番ですね!」

愚者の声
…………………

シオン
「なにを黙っていますの……?って居ない!?」

!?

シオン
「あぁんのぉ~愚者の声め!!!!にげやがりましたわね!」
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