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王妃か女王になるのは確定事項です
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本日は成人になった記念パーティーの会場である。
その記念パーティーは貴族として1人前になったと言うことで、我が国の王城のホールで大々的に行われていた。
ザワザワ
ザワザワ
皆が成人した嬉しさから雑談に華を咲かせていた。しかし、その会場にて一際目に付く人物がいた。
大勢の生徒………いや、仲間達に囲まれている女性がいた。
【シオン・グローリア公爵令嬢】
この【カース王国】で圧倒的な影響力を持つグローリア公爵家の長女である。下には弟がいてグローリア家は弟が継ぐので、シオンはその家柄により、王家に嫁ぐ事が決まっていた。
故に、周りの同級生達はオコボレをもらおうと、シオンに媚を売っているのだ。
そんな有象無象を笑顔で捌きながらいると、婚約者であるグレイ・カース王太子が近づいてきた。
「すまない。シオン、少し時間を貰えないだろうか?」
少し申し訳なさそうに言ってきた。
「はい。もちろんです。皆様、少し席を外しますね」
優雅に頭を下げるとグレイ王子に付いていった。
外のバルコニーに出ると、グレイ王子は言い難そうに言葉を吐いた。
「シオン、大変申し訳ないが、婚約を解消して貰えないだろうか?」
!?
まさかの言葉であった。
「ど、どういう事ですか!?後、半年後には結婚する予定で、準備もかなり進んでいるのですよ?」
流石のシオンも淑女の顔をする事が出来なかった。
「本当にすまない。きちんと違約金は支払うつもりだ」
グレイ王子は深く頭を下げた。
「せめて理由を教えて下さい」
何かしら重要な理由があるならと、自分に言い聞かせるシオンだったが───
「好きな人が出来たんだ。その人と結婚したい」
聞かなければ良かった。
グレイ王子は王族でも『まとも』な人物だと思っていたのに。まさかの馬鹿だったなんて…………
空いた口が塞がらないシオンだったが、どうしても聞かねばならない事があった。
「そ、それはどこのどなたなのです?」
「少し前に街の視察に出掛けた時に出会ったんだ」
????
街の視察で出会った?
夜会とか、パーティーとかじゃなく???
「まさかとは思いますが、平民ではありませんよね?」
「うん?彼女は平民だが………?」
またもや絶句した。
平民が王太子と結婚なんてできる訳ないでしょうに!?
「………まず、確認します。現実的ではないかと思いますが?」
「確かに障害は多いだろう。でも、愛する彼女と結婚して、この国を豊かにして行きたいと思っているんだ。平民の彼女なら、民に寄り添う事が出来るだろう?」
いやいや、今から王妃教育を受けたとしても、間に合わないでしょう!
「1番現実的なのは、私が王妃となって表の政治を仕切り、その平民の彼女さんは【愛妾】にするのが現実的ですが?」
「いや、それはない!シオンにも苦痛を強いるのは私の思う所ではないのだ。それに彼女にも辛い想いをさせてしまう」
いやいや、私の事を思うなら浮気なんてすんなよ!と、思っても口には出せないシオンだった。
「グレイ王子、このまま平民の彼女を王妃にしても、誰も幸せにはなりませんよ?少なくとも、グレイ王子が【やろうとしている】ことは実現出来ません。その覚悟があるのですか?」
「無論だ。ここ最近、ずっと考えていた事なんだ。後悔はしない」
力強くシオンを見詰める王子に、シオンは小さく、わかりましたと答えた。
「なら、最後は私のワガママも聞いて下さい」
「できる限り叶えよう」
そう言うとシオンはグレイ王子の唇を奪った。
「私、初めてだったんですよ?」
「私もだよ」
シオンは涙を流しながらその場を離れるのだった。
『君は強い人だ。きっと私の気持ちにも気づいてくれたんだな』
誰もいなくなったバルコニーから空を見上げるのだった。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
シオンはすぐに実家に帰った。
そして、グレイ王子から婚約解消の事を伝えた。
「そうか。グレイ王子はそういう【結末】を選んだか」
お父様とお母様は怒る訳でもなく静かに言った。
次の日には、王宮から婚約解消の書類が届いた。
しかし、シオンが先に帰った成人式パーティーで、世間では『婚約破棄』された事になっており、悪意ある噂はあっという間に王国中に広まった。
「誰かがワザと噂を広めているな」
「別に良いでしょう。これからの事を考えるなら」
このカース王国は大陸の最南西に位置している小国だ。たいした産業もある訳ではないが、グローリア公爵家の領地は山脈の麓に面しており、そこには【黒の森】と呼ばれる『魔物の森』が存在している。グローリア家は砦を建て、国境の様に頑丈な防壁を作ることで、魔物の侵入を防ぐ事を目的として作られた家系である。
倒した魔物から、素材と魔石と呼ばれる日常生活の燃料になる魔石を、王国中に卸している。
しかし、いつの頃か、平和なのを良いことにカース王国の貴族は堕落してしまい、民に重税を課す事が当たり前になっていた。そして自分達は贅沢三昧の日々である。
グローリア公爵家と、その周囲の数少ない良識ある貴族達が他の貴族を取り締まる事で、現在ギリギリなバランスで王国は保っていたのだ。
グレイ王子はシオンと結婚すると同時に、貴族の権限を弱める政策を考えており、一部の貴族達は不穏な動きを見せていた。
すでにシオンは何度も暗殺者に狙われているのだ。
それがここにきて、まさかの婚約解消である。
自分達の利権が脅かされると思っていた貴族達は、『婚約破棄』されたと吹聴し、グローリア公爵家の力を削ごうと動きだしたのだ。
そして、グレイ王子が平民の女性を妻にすると宣言した事は大きな波紋を呼んだが、意外にもそれほど反対の意見が出なかった。
「バカな貴族達は平民の王妃を傀儡にして、王子に側妃を娶させるつもりなんだろうな」
「私の娘より御しやすいと思ったのでしょうね」
「それで、グレイ王子が好きになった平民の女性は、どんな方なんですの?」
配下の者に調べさせた女性の情報をみて深いため息を吐いた。
「………本当に全て理解した上での婚約解消だったのね」
シオンの顔を見て両親は心が傷んだ。
「シオンよ。お前はグレイ王子を愛していたんだな」
「どうでしょうか?自分ではわかりません。でも、グレイ王子の想いに共感して、戦友とは思っていました」
涙を流している事に気付いていないシオンに、母親はシオンを優しく抱きしめるのだった。
そして、半年後、準備をしていた結婚式は、シオンから平民の女性、【ジャンヌダルク】に代わって行われた。
「永遠の愛を誓う口づけを」
神父の言葉に、綺麗なウエディングドレスをきた平民の女性であるジャンヌダルクは、そこいらの貴族令嬢より綺麗だった。
そして1年後─────
あれほど壮観だったカース王国の王城は、真っ赤に燃えていた。
結婚と同時に現国王と王妃は退位して、【田舎】へと引っ込んだ。そして、結婚と同時にグレイ王子が国王へとなったのだ。
グレイ国王は、平民のジャンヌには政策や社交はできないと言ってきた貴族達に勧められて側妃を5人も娶った。
その側妃達は仕事もせず贅沢三昧を続け、あっという間に国庫は空になった。
グレイ王子はお前達が勧めた妃達のせいだと言って、側妃を勧めてきた貴族達に重税を課した。
その貴族達は自分の領民から重税を課して、金額を捻り出そうとしたが、ただでさえ重税で、生きるだけで限界だった民は耐えきれず、反乱を起こした。
無論、善政を敷いていた我がグローリア公爵家が旗印となり、武器を提供し、悪徳貴族達は自分達の領民に殺させた。
それから多くの貴族が処刑されたり惨殺されたりした。
そしてついに王城にまで反乱軍が押し掛けて落城したのだ。
「君は生きろ!これは最初からの計画通りだ」
グレイ国王はジャンヌを逃がそうとしていた。
「いいえ、私も一緒に参ります。私の復讐は成就されたのです。グレイ様には感謝しかありません。せめて最後くらいは貴方の側に………それくらいしか私にできる事がありませんので………」
ジャンヌは涙を流してグレイ国王の手を掴んだ。
グレイが王子だった頃、地方の街の視察の時に、とある貴族が、面白半分にジャンヌの家族をなぶり殺している現場に遭遇した。グレイ王子は御忍びの視察の為に、助ける事が出来ず見ていることしか出来なかった。
もし助けに入れば自分は殺されていただろう。ただでさえ、貴族に不利益をもたらす政策を奏上して疎まれている状態だ。婚約者のシオンの所にも、何度も暗殺者が送られていると聞く。
当時のグレイ王子は疲れていたのかも知れない。
目の前で両親と弟を殺されて、泣き叫んでいるジャンヌに近付き、復讐したいか?と持ち掛けた。
正直、愛する婚約者のシオンを危険な目に合わせるのも、もう嫌だった。だったら貴族に恨みを持つ家族のいない人物を復讐者として側に添えるのはどうだろうか?
貴族の専横を止めようにも、力の無い王家、王子の自分にはどうする事もできない。自分の父と母も、貴族に対抗して疲れてしまったのだ。
今は現状維持を求めるだけになってしまった。
おそらく、シオンと結婚しても、改革はそう簡単には進まないだろう。
それどころか、どちらかが倒れる(殺される)のが先かも知れない。
それなら────
全部壊してしまおう。
そして、自分が壊した後は、再生をシオンに頼もう。
身勝手な元婚約者でごめん。
せめて君は新しい良い人を見つけて、幸せになって欲しい。
「私は貴方の役に立てましたか?」
ジャンヌは復讐の協力者としてグレイに付き合う事を承諾した。
そして、最後に死ぬ事も覚悟していた。
でも、唯一の誤算があった。
それはグレイを本当に愛してしまった事だ。
最初は協力者として──
次に戦友として──
最後に、愛する者として──
貴族の横暴を止めようと、苦悩しながら政策を考えるグレイを見ている内に芽生えた恋。
そう遠くない内に、死ぬとわかっているのに止められなかった。
「ああ、だからもういい。君は自分の人生を幸せに生きなさい」
「嫌です!私は最後まで貴方と共にいます!でないと、貴女は本当に1人になってしまうわっ!」
本当の愛する人と別れて、愛する民に憎まれて殺される。どうしてそこまで国を愛する貴方が、恨まれて死ななければならないの!?
泣きながら駄々をこねるジャンヌを、無理矢理隠し通路の場所に案内しようとした時、反乱軍が王城のプライベートのエリアまで突入してきた。
「ちっ、まさかこんなに早く突入してくるとは!?」
バンッ!?
扉が乱暴に開けられると、そこに居たのは見知った顔の者だった。
「………シオン?」
「間に合いましたね」
シオンは手を上げると一緒に突入してきた者達が部屋に押し入った。
「時間がありません。グレイ国王には死んでもらいます!」
そう言ったシオンに、ジャンヌは両手を広げて止めた。
「待って!彼を殺さないでっ!代わりに私が処刑されますから!?お願いします!」
どうか!この自身を悪として死のうとしているグレイ国王を助けて!?
しかし、シオンの口からは無常の言葉が放たれた。
「それは無理よ。諸悪の根源である国王を大勢の目の前で処刑しなければ、この反乱は終結しないわ」
遠くから暴徒の声が聞こえてくる。
国王を殺せっ!と。
「ううぅぅ…………」
ジャンヌは無力な自分に膝を付いた。
そこに意外な人物の声が聞こえてきた。
「今まで辛い思いをさせたな息子よ。不甲斐ない父親ですまない」
ハッと見上げると、兵士の鎧を着た元国王陛下だった。
「ど、どうして父上が…………」
「田舎に隠居したと言うのは嘘ではない。グローリア公爵家の領地で、見守らせてもらっていたんだ。お前が何を成そうとしているのかをな」
!?
「だから最後くらいは父親として責任を取らせて欲しい。母親も一緒にだ」
後ろから元王妃である母親まで現れた。
「グレイ、貴方をそこまで思い詰めさせたのは私達の責任よ。だから貴方達は逃げて幸せに暮らしなさい。ジャンヌのお腹には子供もいるのでしょう?」
誰にも言っていないのにと思ったが、驚いた顔をしただけで、聞き返す事はなかった。
「時間がありません。お早く!」
元国王は【ペンダント】を取り出すと、グレイとジャンヌの目の前に出して呪文を唱えた。
すると、元国王と元王妃の両親の姿がグレイとジャンヌの姿に変化した。
「これは王家に伝わる魔導具だ。我々が身代わりになる。お前達は生きろ!」
「ち、父上………」
いつの間にかグレイも涙を流していた。
「愛する人は変わったけれど、大事にしなさい。そして1番辛い役目を押し付けてごめんなさいシオン」
「いいえ、この混乱に満ちたカース王国を立て直すのは大変でしょうが、やり甲斐はありますので」
シオンは2人に最上位の礼をして敬意を示した。
その後、変身した国王夫妻はギロチンの刑に処され命を散らした。
そして、グローリア公爵家はカース王国に終止符を打ち、新たなグローリア王国を建国した。
内乱中に隣国の干渉が心配されたが、隣国も王位継承権争いが勃発しており、他国に干渉する事が出来なかったのも大きかった。
グローリア王国の初代国王にはシオンが女王となり、王配として、一族の分家から見繕った男性がなった。そしてシオンは女王となり、荒廃した王国の再建に尽力した。
シオンは夫となった人を尊重し、王配となった男性もシオンを愛した。二人の間には3人の子供が生れた。王子2人と、姫が1人。
これにより長くグローリア王国は繁栄していく。
そして、グローリア公爵領の片隅で、元国王と王妃に似た家族が子供と一緒に平和に暮らしていたという。
【FIN】
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
【あとがき】
現在連載中の小説の息抜きで書きました。
たまにはこんなエンドもありかな?
連載中の小説
【悪女と言われた令嬢は隣国の王妃の座をお金で買う!】
現在、毎日更新中です!
イラストを多く載せてますので、こちらもよろしく!
※現時点での非公開イラスト。
その記念パーティーは貴族として1人前になったと言うことで、我が国の王城のホールで大々的に行われていた。
ザワザワ
ザワザワ
皆が成人した嬉しさから雑談に華を咲かせていた。しかし、その会場にて一際目に付く人物がいた。
大勢の生徒………いや、仲間達に囲まれている女性がいた。
【シオン・グローリア公爵令嬢】
この【カース王国】で圧倒的な影響力を持つグローリア公爵家の長女である。下には弟がいてグローリア家は弟が継ぐので、シオンはその家柄により、王家に嫁ぐ事が決まっていた。
故に、周りの同級生達はオコボレをもらおうと、シオンに媚を売っているのだ。
そんな有象無象を笑顔で捌きながらいると、婚約者であるグレイ・カース王太子が近づいてきた。
「すまない。シオン、少し時間を貰えないだろうか?」
少し申し訳なさそうに言ってきた。
「はい。もちろんです。皆様、少し席を外しますね」
優雅に頭を下げるとグレイ王子に付いていった。
外のバルコニーに出ると、グレイ王子は言い難そうに言葉を吐いた。
「シオン、大変申し訳ないが、婚約を解消して貰えないだろうか?」
!?
まさかの言葉であった。
「ど、どういう事ですか!?後、半年後には結婚する予定で、準備もかなり進んでいるのですよ?」
流石のシオンも淑女の顔をする事が出来なかった。
「本当にすまない。きちんと違約金は支払うつもりだ」
グレイ王子は深く頭を下げた。
「せめて理由を教えて下さい」
何かしら重要な理由があるならと、自分に言い聞かせるシオンだったが───
「好きな人が出来たんだ。その人と結婚したい」
聞かなければ良かった。
グレイ王子は王族でも『まとも』な人物だと思っていたのに。まさかの馬鹿だったなんて…………
空いた口が塞がらないシオンだったが、どうしても聞かねばならない事があった。
「そ、それはどこのどなたなのです?」
「少し前に街の視察に出掛けた時に出会ったんだ」
????
街の視察で出会った?
夜会とか、パーティーとかじゃなく???
「まさかとは思いますが、平民ではありませんよね?」
「うん?彼女は平民だが………?」
またもや絶句した。
平民が王太子と結婚なんてできる訳ないでしょうに!?
「………まず、確認します。現実的ではないかと思いますが?」
「確かに障害は多いだろう。でも、愛する彼女と結婚して、この国を豊かにして行きたいと思っているんだ。平民の彼女なら、民に寄り添う事が出来るだろう?」
いやいや、今から王妃教育を受けたとしても、間に合わないでしょう!
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「いや、それはない!シオンにも苦痛を強いるのは私の思う所ではないのだ。それに彼女にも辛い想いをさせてしまう」
いやいや、私の事を思うなら浮気なんてすんなよ!と、思っても口には出せないシオンだった。
「グレイ王子、このまま平民の彼女を王妃にしても、誰も幸せにはなりませんよ?少なくとも、グレイ王子が【やろうとしている】ことは実現出来ません。その覚悟があるのですか?」
「無論だ。ここ最近、ずっと考えていた事なんだ。後悔はしない」
力強くシオンを見詰める王子に、シオンは小さく、わかりましたと答えた。
「なら、最後は私のワガママも聞いて下さい」
「できる限り叶えよう」
そう言うとシオンはグレイ王子の唇を奪った。
「私、初めてだったんですよ?」
「私もだよ」
シオンは涙を流しながらその場を離れるのだった。
『君は強い人だ。きっと私の気持ちにも気づいてくれたんだな』
誰もいなくなったバルコニーから空を見上げるのだった。
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シオンはすぐに実家に帰った。
そして、グレイ王子から婚約解消の事を伝えた。
「そうか。グレイ王子はそういう【結末】を選んだか」
お父様とお母様は怒る訳でもなく静かに言った。
次の日には、王宮から婚約解消の書類が届いた。
しかし、シオンが先に帰った成人式パーティーで、世間では『婚約破棄』された事になっており、悪意ある噂はあっという間に王国中に広まった。
「誰かがワザと噂を広めているな」
「別に良いでしょう。これからの事を考えるなら」
このカース王国は大陸の最南西に位置している小国だ。たいした産業もある訳ではないが、グローリア公爵家の領地は山脈の麓に面しており、そこには【黒の森】と呼ばれる『魔物の森』が存在している。グローリア家は砦を建て、国境の様に頑丈な防壁を作ることで、魔物の侵入を防ぐ事を目的として作られた家系である。
倒した魔物から、素材と魔石と呼ばれる日常生活の燃料になる魔石を、王国中に卸している。
しかし、いつの頃か、平和なのを良いことにカース王国の貴族は堕落してしまい、民に重税を課す事が当たり前になっていた。そして自分達は贅沢三昧の日々である。
グローリア公爵家と、その周囲の数少ない良識ある貴族達が他の貴族を取り締まる事で、現在ギリギリなバランスで王国は保っていたのだ。
グレイ王子はシオンと結婚すると同時に、貴族の権限を弱める政策を考えており、一部の貴族達は不穏な動きを見せていた。
すでにシオンは何度も暗殺者に狙われているのだ。
それがここにきて、まさかの婚約解消である。
自分達の利権が脅かされると思っていた貴族達は、『婚約破棄』されたと吹聴し、グローリア公爵家の力を削ごうと動きだしたのだ。
そして、グレイ王子が平民の女性を妻にすると宣言した事は大きな波紋を呼んだが、意外にもそれほど反対の意見が出なかった。
「バカな貴族達は平民の王妃を傀儡にして、王子に側妃を娶させるつもりなんだろうな」
「私の娘より御しやすいと思ったのでしょうね」
「それで、グレイ王子が好きになった平民の女性は、どんな方なんですの?」
配下の者に調べさせた女性の情報をみて深いため息を吐いた。
「………本当に全て理解した上での婚約解消だったのね」
シオンの顔を見て両親は心が傷んだ。
「シオンよ。お前はグレイ王子を愛していたんだな」
「どうでしょうか?自分ではわかりません。でも、グレイ王子の想いに共感して、戦友とは思っていました」
涙を流している事に気付いていないシオンに、母親はシオンを優しく抱きしめるのだった。
そして、半年後、準備をしていた結婚式は、シオンから平民の女性、【ジャンヌダルク】に代わって行われた。
「永遠の愛を誓う口づけを」
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そして1年後─────
あれほど壮観だったカース王国の王城は、真っ赤に燃えていた。
結婚と同時に現国王と王妃は退位して、【田舎】へと引っ込んだ。そして、結婚と同時にグレイ王子が国王へとなったのだ。
グレイ国王は、平民のジャンヌには政策や社交はできないと言ってきた貴族達に勧められて側妃を5人も娶った。
その側妃達は仕事もせず贅沢三昧を続け、あっという間に国庫は空になった。
グレイ王子はお前達が勧めた妃達のせいだと言って、側妃を勧めてきた貴族達に重税を課した。
その貴族達は自分の領民から重税を課して、金額を捻り出そうとしたが、ただでさえ重税で、生きるだけで限界だった民は耐えきれず、反乱を起こした。
無論、善政を敷いていた我がグローリア公爵家が旗印となり、武器を提供し、悪徳貴族達は自分達の領民に殺させた。
それから多くの貴族が処刑されたり惨殺されたりした。
そしてついに王城にまで反乱軍が押し掛けて落城したのだ。
「君は生きろ!これは最初からの計画通りだ」
グレイ国王はジャンヌを逃がそうとしていた。
「いいえ、私も一緒に参ります。私の復讐は成就されたのです。グレイ様には感謝しかありません。せめて最後くらいは貴方の側に………それくらいしか私にできる事がありませんので………」
ジャンヌは涙を流してグレイ国王の手を掴んだ。
グレイが王子だった頃、地方の街の視察の時に、とある貴族が、面白半分にジャンヌの家族をなぶり殺している現場に遭遇した。グレイ王子は御忍びの視察の為に、助ける事が出来ず見ていることしか出来なかった。
もし助けに入れば自分は殺されていただろう。ただでさえ、貴族に不利益をもたらす政策を奏上して疎まれている状態だ。婚約者のシオンの所にも、何度も暗殺者が送られていると聞く。
当時のグレイ王子は疲れていたのかも知れない。
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正直、愛する婚約者のシオンを危険な目に合わせるのも、もう嫌だった。だったら貴族に恨みを持つ家族のいない人物を復讐者として側に添えるのはどうだろうか?
貴族の専横を止めようにも、力の無い王家、王子の自分にはどうする事もできない。自分の父と母も、貴族に対抗して疲れてしまったのだ。
今は現状維持を求めるだけになってしまった。
おそらく、シオンと結婚しても、改革はそう簡単には進まないだろう。
それどころか、どちらかが倒れる(殺される)のが先かも知れない。
それなら────
全部壊してしまおう。
そして、自分が壊した後は、再生をシオンに頼もう。
身勝手な元婚約者でごめん。
せめて君は新しい良い人を見つけて、幸せになって欲しい。
「私は貴方の役に立てましたか?」
ジャンヌは復讐の協力者としてグレイに付き合う事を承諾した。
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最初は協力者として──
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バンッ!?
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「待って!彼を殺さないでっ!代わりに私が処刑されますから!?お願いします!」
どうか!この自身を悪として死のうとしているグレイ国王を助けて!?
しかし、シオンの口からは無常の言葉が放たれた。
「それは無理よ。諸悪の根源である国王を大勢の目の前で処刑しなければ、この反乱は終結しないわ」
遠くから暴徒の声が聞こえてくる。
国王を殺せっ!と。
「ううぅぅ…………」
ジャンヌは無力な自分に膝を付いた。
そこに意外な人物の声が聞こえてきた。
「今まで辛い思いをさせたな息子よ。不甲斐ない父親ですまない」
ハッと見上げると、兵士の鎧を着た元国王陛下だった。
「ど、どうして父上が…………」
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!?
「だから最後くらいは父親として責任を取らせて欲しい。母親も一緒にだ」
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「グレイ、貴方をそこまで思い詰めさせたのは私達の責任よ。だから貴方達は逃げて幸せに暮らしなさい。ジャンヌのお腹には子供もいるのでしょう?」
誰にも言っていないのにと思ったが、驚いた顔をしただけで、聞き返す事はなかった。
「時間がありません。お早く!」
元国王は【ペンダント】を取り出すと、グレイとジャンヌの目の前に出して呪文を唱えた。
すると、元国王と元王妃の両親の姿がグレイとジャンヌの姿に変化した。
「これは王家に伝わる魔導具だ。我々が身代わりになる。お前達は生きろ!」
「ち、父上………」
いつの間にかグレイも涙を流していた。
「愛する人は変わったけれど、大事にしなさい。そして1番辛い役目を押し付けてごめんなさいシオン」
「いいえ、この混乱に満ちたカース王国を立て直すのは大変でしょうが、やり甲斐はありますので」
シオンは2人に最上位の礼をして敬意を示した。
その後、変身した国王夫妻はギロチンの刑に処され命を散らした。
そして、グローリア公爵家はカース王国に終止符を打ち、新たなグローリア王国を建国した。
内乱中に隣国の干渉が心配されたが、隣国も王位継承権争いが勃発しており、他国に干渉する事が出来なかったのも大きかった。
グローリア王国の初代国王にはシオンが女王となり、王配として、一族の分家から見繕った男性がなった。そしてシオンは女王となり、荒廃した王国の再建に尽力した。
シオンは夫となった人を尊重し、王配となった男性もシオンを愛した。二人の間には3人の子供が生れた。王子2人と、姫が1人。
これにより長くグローリア王国は繁栄していく。
そして、グローリア公爵領の片隅で、元国王と王妃に似た家族が子供と一緒に平和に暮らしていたという。
【FIN】
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
【あとがき】
現在連載中の小説の息抜きで書きました。
たまにはこんなエンドもありかな?
連載中の小説
【悪女と言われた令嬢は隣国の王妃の座をお金で買う!】
現在、毎日更新中です!
イラストを多く載せてますので、こちらもよろしく!
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