悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪

naturalsoft

文字の大きさ
上 下
63 / 100

苦悩する国王や宰相

しおりを挟む
エリックがシオン令嬢を修道院送りにした事で、王国中の貴族達から嘆願書や抗議文が山の様に送られてきていた。

「はぁ~、まったくどうしたものか………」

書簡の山を見てため息を付く国王がいた。最初に言っておくが、現国王は無能ではない。むしろ有能な部類に入る国王であった。
故に、現国王に忠誠を誓っている貴族は意外と多いのだ。

しかし─

植物を操る稀な魔法を使うシオン令嬢は、自身が知らないだけで、王国中にその名を轟かせていた。飢饉が起きても解決出来る魔法使い。そして、新しい農業方法の確立で収穫高を3倍にもした。それを秘匿せず、王国中に教えを広めた事で、農民の生活は向上し王国の税収も増加した。
公爵令嬢でありながら民と一緒に泥だらけになりながら働くシオンの姿は、【貴族の鏡】として、一部の貴族が民と一緒に働く事で、関係が改善され友好な状態になったのだ。

シオン令嬢が王妃となって国王を支えれば、どの貴族も派閥を気にせず、飢饉の時に助けて貰えると期待していた。
(貴族には派閥があり、他の派閥に助けを求めると、見返りを求められるので、お願いしにくいのです)

まぁ、能天気な令嬢シオンはお茶会や社交界でも派閥を気にせず話掛けるので、貴族令嬢達にもウケは良かった。

「わたくし、シオン様に話し掛けられましたわ!」
「わたしなんて、実家のお菓子を褒められて大口の取引までしたいと言われて感激ですわ!」

と、まぁアイドルのように居ても居なくても、話題に事欠かない人物であった。
それは人柄なのか、シオンを悪く言う令嬢はほとんどいなかった。悪意のない向日葵のような笑顔で話し掛けられれば、憎み難いというものだ。

そんな聖女のような人物を不当に扱ったとなれば、当事者だけではなく、その父親にも責任が及んだ。

「アクエリアス公爵家の引っ越しが完了したそうです。また公爵家に繋がりのある人々も移動を開始したと報告がありました」

宰相の言葉に、国王はホッと安心した。

「そうか、少し安心したな。これで引き継ぎの手続きが終わればアクエリアス領は、しばらく【王家の領地】として管理していくとが出来るな」

「ええ、アクエリアス家は大量の資産を持っていますからな~、辺境の地では商会など誘致しても軌道に乗るまで何年も掛かります。当面は資産を切り崩しながら、領地を治める事になるでしょうな?」

「うむ!正直な所、領地経営に失敗してそれを王家が援助することで妥協してもらえるのが1番良いのだが…………」

国王と宰相は腕を組んで考えた。

「傑物揃いのアクエリアス家です。数年で領地の税収を黒字にしそうで怖いですな………」
「ああ、ワシも同じ事を思った」

何とも言えない空気が流れた時─

コンッ!コンッ!

「失礼します!火急にお知らせしたい事があります!」

扉の外から緊迫した声が聞こえた。

「入れ!」

扉から騎士が1人入ってきた。

「はっ!失礼致します!帝国の軍が南に兵を集めております!騎士団長殿は先に出立されました!」

その報告に驚いた国王と宰相だった。

「なんだと!?規模は分かっているのか!?」

「少なくとも5千ほどは確認されております!」

宰相が騎士に怒鳴った!

「どうして気付かなかった!南の国境砦には精々200人ほどしか滞在していなかったはずだ!」
「はっ!帝国は軍を分隊に別けて、少しずつ兵士を移動させたのでは?と騎士団長が言っておりました!」

!?

「騎士団長はどれだけ連れていった?」

「すぐにかき集められる兵士3千を引き連れて行きました!」

王国も睨みあう南の国境砦に200人ほどしか詰めていない。5千もの帝国兵が攻めてこれば1日も持たずに落とされるだろう。

「残った者にも緊急徴収を掛けて、騎士団長の後を追わせろ!」
「承知しました!」

伝令の騎士は慌てて出ていった。

「どうしてこの時期に帝国が動いたんだ?」
「いえ、この時だからではないでしょうか?守りの要であるアクエリアス家が北の辺境へ移動し、現状のアクエリアス領は後任の執政官の引き継ぎが終わっていなく、何をどうしてよいのか分からない状態でしょう?」

国王は真面目な顔で宰相に尋ねた。

「やられたな。アクエリアス家の事ばかり目がいってしまって、現状のアクエリアス領の脆さを把握していなかった。………帝国は本気で領地を狩り取ってくると思うか?」
「私なら本気で取れる所まで取るでしょうな。好機ですから」

国王と宰相は騎士団長に望みを託すのであった。

しかし、帝国は南の方に意識を向ける事が目的であり、その目論みは成功したのだった。

そして王国がその事に気付くのはもう少し後の事になる。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!

菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...