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心に光を灯せ!

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ざわざわ………
ざわざわ…………

私は大勢の観衆の中、ギロチンの処刑台に首をセットされて、命を断たれる寸前であった。

どうしてこうなったのだろう?
いや、理由はわかっている。

私の事を気に入らない、この国の第二王子であるケイン・ブランダルに嵌められたのだ。

ああ、恨めしい………
私はもうすぐギロチンの刃が落ちてくる時に、走馬灯のように今までの経緯を思い出した。








「今日も良い天気ね~」

私は空を見上げて言った。

「お姉様!早く馬車に乗って下さい。遅くなってしまいますわ!」
「あら?シシリーが早く行きたいだけじゃないかしら?」

姉であるシオンが言い返すと、妹のシシリーは頬を膨らませて言った。

「もうっ!お姉様の意地悪!?」

シオンは苦笑いをしながら急いで馬車に乗るのだった。
私はシオン・オリオン公爵令嬢。この国で4つしかない王家に次ぐ大貴族の令嬢である。

シオンとシシリーは仲の良い姉妹であった。妹のシシリーは少しツンデレであり、たまに厳しい言葉を吐くが、テレて本気で言っているのではないとわかるので愛おしく思うのだ。

今からシオンとシシリーは孤児院に向かう所である。昔のシシリーはもっと我が儘な令嬢であった。姉である完璧超人のシオンに劣等感を抱いていたからだ。しかし、シオンが無理矢理、孤児院に連れていった事で好転した。

シオンが院長と話をしている間、妹のシシリーに子供達の相手をさせたのだ。最初は嫌々構っていたシシリーだったが、しつこく構ってくる子供達相手にブチキレて、シオンが部屋から出てくると、令嬢とは思えない顔で子供達を追っかけ廻していた。

まぁ、子供達はきゃーっ!と笑いながら逃げて、体力のないシシリーは追い付くことができずにムキーッと地団駄を踏むことになるのだが………

この一件で、シシリーのストレスが解消され、素の自分を出せる憩いの場となり、姉であるシオンとも和解出来たのだった。

そして、私は『転生者』なのです。

目が覚めると赤ちゃんになっており、金髪碧眼の両親を見て驚いた。しばらく観察して過ごしているとここが乙女ゲームの世界だと気付いたのですよ。

「そう言えば見たことあるかも………」

国の名前など一致してるしなぁ~
しかし、私は人気のあった乙女ゲームをそこまで熱中してプレイしていなかったので、うろ覚えの状態で取り敢えず納得した。そして、他の小説でも良くある知識チートで成り上がろうと思ったのだった。

「時代は内政チートよ!!!」

まず私がしたのは領地の農業改革だった。両親には書物で知った知識だと言って、畑の肥料などを改良して、病気や冷害に強い作物を生産して領民を飢饉から救ったのだった。
さらに、医療では『抗生物質』を開発した。私は医療ドラマが好きだったので抗生物質の作り方など知っていたのだ。これによりこの世界での医療学が飛躍的に進歩したのだった。

こうして異世界生活を満喫しながら過ごしていたところ王家から打診があり、第二王子の婚約者となりました。私の功績を見て王家に取り込もうとしたのだ。

しかし、この第二王子のカール王子はシオンの事が気に入らなかった。自分より功績があり、目立っているシオンをなんとかしたいと思っていたのだ。

「お前に頼みたい事がある」

いつも不機嫌そうな顔で会いにくるカール王子が珍しく頼みごとをしてきたのだ。なんでも隣国との国境にある山にトンネルを作りたいとの事だった。
なんで私に?と思うも、トンネルの工事にも私の知識チートを期待していてという事と、工事には莫大な資金が必要なので、メインはその資金の出資をお願いにきたようだった。相変わらず不機嫌そうな顔でお願いしてきたので、父親の国王様に言われてしぶしぶ来たって感じだった。

私は断る理由も無かったので王子の頼みを了承した。無論、大事業なので当主である父にも許可を取って開始した。

隣国と挟むようにある山にトンネルが出来れば迂回する時間が短縮され物流の流れがスムーズになるだろう。人々の生活が良くなるなら悪くない仕事であった。
ただかなり崩れ易い山だったようでトンネルの穴堀は困難を極めた。崩落事故が無いように何度も調査をして、天井を支える工事も通常より多く実施した。まぁ、バカ王子から工事の進捗が遅いと何度も催促があったが、これで事故起きたら私のせいにするのは目に見えていたので、無視することにしていた。

そんな時、もう少しで向こう側に繋がるという所で大型の台風がやってきた。
勿論、危険なので工事は中止の指示を出して台風が去るのを待った。

しかし─

ドンドンッ!!!!
激しくドアを叩く音が聞こえた。

「どうしたのですか?」
「お嬢様!大変です!?トンネル工事で落盤事故が起こりました!何人も閉じ込められているとの事です!」

!?

私は戸惑いを隠せなかった。

「どういう事ですか!台風の間は工事は中止と通達していたはずですよ!?」

すると執事はとんでもないことを言ってきた。

「そ、それが伝令の者の話では、お嬢様が許可を出して遅れている工事を続行するようにと指示があったと………」
「そんな!?私はそんな指示は出してません!」

くっ、そんな事を論じている訳ではないですね。

「仕方ありません!今は救出が先です。急いで人手を集めて下さい!それと、王都にいるお父様にも急ぎ伝令を出して下さい」

「はっ!かしこまりました」

執事は急ぎ出ていきました。私も大急ぎで着替えて工事現場へと向かいました。暴風で移動も大変でしたが、なんとかたどり着くと現場の人々が雨具を来て入口に集まっていた。

「皆さん!状況はどうなっているのですか!?」

工事現場の作業員達は私がきた事に驚いた顔をした。

「お嬢様、こんな嵐の時に来るなんて危険ですよ!」
「そんな事を言っている場合じゃありません!救出はどうなっているのですか?」
「それが、二次災害になる可能性があるため、余り進んでいません………」

シオンはすぐに的確に指示を出した。

「入口の補強工事をしながら救出に全力を出しなさい!各自、水筒と携帯食を忘れないように!」

「「「了解しました!」」」

トンネル工事には、一定間隔に補給所を設置してあった。湿度の高い所での水分補給は欠かせないのと、こういった崩落事故で閉じ込められた時の生命線になる為だ。

嵐の酷い夜であったため、無理せず近い所を補強しながら、焦らずに気を付けながら崩れた所を掘っていった。
一夜明けると台風は去り太陽が出てきた。

「油断しないでね。地盤が緩んでいるから慎重に掘り進めなさい。とにかく小さな穴でもいいから向こう側に繋ぐように」

小さな穴でも出来れば状況を確認出来るし、食糧など送れる。時間との勝負だ!

シオンは3日間もの間、必死に救出作業に参加した。そして─

「お嬢様!朗報です!?向こう側へ通じる穴ができました。幸い、中腹が崩れただけでもうすぐ開通する奥は崩れなかったので作業員15名は無事との事です!」

小さな怪我はあるそうだが、水分補給と携帯食で食い繋いだため、ほぼ健康だということだった。

「よかった………」

シオンは泥だらけの作業服のままその場で座り込んでしまった。

「お嬢様、前から聞きたかったのですが、本当に台風の時に工事を指示したのですか?」
「そうなのよ、私は工事をしないように指示していたのにどうして工事を再開したの?」

周囲を見渡すと作業員の1人慌ててやってきた。

「あの、第二王子の使いの方が来て、お嬢様の指示で工事を続行するようにと………」
「なんですって!?」

「台風でもトンネル内部は大丈夫だと言って、お嬢様の手紙もお持ちだったので………」
「俺も第二王子の使者より、お嬢様の手紙を読んで工事を続行したんだ」

「私はそんな手紙なんて書いていないわ!」

!?

「そんな!?まさか…………」

第二王子の悪質な嫌がらせに顔をしかめるも、救出した作業員の病院の搬送と、緩んだ地盤の補強工事などやることがいっぱいであった。

そして一段落した時、第二王子が私兵を連れてやってきた。

「ずいぶんと良い格好じゃないか?シオン」
「カール王子…………」

シオンは睨め付けるようにカール王子を見ると、カール王子は不敵に嗤うとシオンの拘束を命令した。

「これはどういうことですか!?」
「なに、自分の利益の事しか考えていない婚約者殿に罰を与えるだけだ」

どういうことだ?と思いながら拘束されるシオンにカール王子は言った。

「この間の台風の時でも従業員に無理矢理トンネル工事を命令して落盤事故を起こして『数十人』もの尊い命を奪った貴様を連行する!」

この時初めて嵌められたと気づいた。

「貴方の使者が私の指示書を持って来たと伺いましたが?私はそのような手紙は出しておりませんよ?」
「ふん、そんな者は知らん。貴様の指示に従っただけであろう?この後に及んで悪足掻きをするな!最後は大人しくしていればいい!」

有無を言わさず護送用の馬車に乗せられた。

「おい!お嬢様をどうする気だ!お嬢様3日間も従業員の救出に尽力されていたんだぞ!それに台風の時の指示書はどういうことだ!?」

現場監督や他の従業員が詰め寄るが、王子の私兵が剣を抜いて近付けなかった。

「黙れ、貴様らは黙って働いていれば良いのだ。責任はこの重罪人のみあるので貴様に咎はないので安心しろ」

カール王子の言葉に全員が安心など出来なかった。カール王子はそう言うと私兵達で圧力を掛けながらシオンと一緒に王都へ帰っていった。

「だれか大至急、公爵様に伝えるんだ!」

シオン令嬢が訳もわからず連れていかれて、我に返った者達が慌ただしく動きだした。

そして領地の屋敷にて、姉であるシオンが救出作業により動けない事で、妹のシシリーがシオンの代わりに仕事をしていた。

「お姉様大丈夫かしら?」

よし、昼から差し入れを持って行こうと席を立った時、屋敷の外が騒がしくなった。

「何かしら?」

屋敷の外に出て見ると、トンネル工事をしていた作業員が数名、息を切らしてやって来ていた。

「貴方達は………どうしたの?」

守衛と一緒に用件を聞くと真っ青になった。
『どういうこと?お姉様が罪人として連れて行かれたですって?しかも、台風の時の指示書はカール王子の偽物の可能性があるなんて………』

シシリーはシオンとカール王子が上手くいっていないことは知っていた。いや、その周囲の者はほとんど知っている事実であった。男尊女卑の思いのある王子が一方的にシオンを嫌っていることは公然の秘密だった。

しかし、ここまでやるとは思っても見なかったのだ。王子達は馬車と馬で帰ったそうだが、馬車で移動であれば、余りスピードは出さないと予想して、シシリーは公爵家で飼っている緊急時用の連絡手段である伝書鳩を使い、王都にいる父親に火急の手紙を送った。







王都の執務室にて─

「クソガキ王子が!!!!!!!」

伝書鳩の手紙を読んだシオンの父親である公爵は叫んだ!

「国王の王命だから断腸の思いでクソガキの婚約者にしたのに、あの第二王の母親である側妃はどんな教育をしやがった!」

国王と王妃の実子である第一王子であり王太子は隣国の皇女と既に結婚している。自国での利益を出している公爵家を取り込みたい国王が、公爵家に配慮しつつ無理を言ってシオンを婚約者にしたのであった。

「貴方、大変よ!」

妻が執務室に飛び込んできた。

「どうした!?こっちも大変な事になった!」
「屋敷の外に騎士団が待ち構えているのよ!私達を外に出さないように命令されてるそうよ」

!?

「なんだと!?…………あのクソガキが!!!!!!!」

夫である公爵の叫びにビクッとなる夫人であったが、理由を聞くと─

「あのゴミクズバカ王子がーーーーーー!!!!!!!!!ぶっ殺してやりますわ!!!!!!!」

公爵より酷い言葉が発せられた。

「私達を助けに向かわせない為か。まずいな、国王と王太子は隣国の王族の結婚式に呼ばれていないのだ。帰りの道が台風で土砂崩れになって、帰国が遅くなると連絡があったばかりだぞ」
「この機会を狙っていたのね」
「そうだろうな。あのゴミクズはシオンをどうするつもりだ?王城の牢屋にでも閉じ込めるつもりなのか?」

通常であれば罪を犯した貴族は牢屋に入れられるが、それは一般的な牢屋と違い、普通に暮らせるような部屋の牢屋に軟禁されるのである。

そこに血相を変えた執事がやって来ていた。

「大変です!シオンお嬢様が処刑されると連絡があり、屋敷の入口を塞いでいる騎士団も動揺しております!」

!?

「し、処刑だと…………」
「そこまでするなんて…………」

プチッと何かがキレる音がした。

「ふ、ふふふふ……………まさかここまで我が公爵家をコケにするとは………な?」
「私の大切な娘を処刑ですって?よろしい、では全面戦争と行きましょう!」

ここに最強の夫婦が暗いオーラを出しながら立ち上がったのだった。

「あなた、入口の騎士団はどうします?」
「あいつらは詳しい事情は知らないようだな。王族の命令で動いたに過ぎない。半殺しでいいだろう」

ゆっくりと執務室から入口に向かって行くと、通路で、屋敷で働く執事やメイド達が左右に別れて立っていた。公爵は何も言わずに通ると、その後ろを順番に執事とメイドが後に続いた。

「いいのか?お前達まで反逆者になるぞ?」

屋敷の扉を開く前に一言いうと執事長が代弁した。

「ここにいる者はお嬢様に救われた者が多くいます。無実の罪で処刑されそうになっているお嬢様を救うのであれば喜んで反逆者となりましょう!」

公爵は無言のまま屋敷をでるのであった。

一方シオンは─

『これは予想していなかったわ。せいぜい牢屋に入れられて、損害賠償と婚約破棄ぐらいだと思っていたのだけれど…………』

王都に着くとあらかじめ用意してあったギロチン(処刑場)に連れて行かれた。

ざわざわ
ざわざわ

「なぁ、何が始まるんだ?」
「バカか?ここに連れて来られるってことは、誰かが処刑されるんだろう?」
「だから、誰が処刑されるんだよ!」

ざわざわ
ざわざわ

騎士達が緊張した雰囲気で処刑場の準備をしていたため住人達が集まってきたのだ。
そして処刑場の準備を行っている側で、側近達や騎士団の上官達がカール王子を説得していた。

「カール王子!正気ですか!?シオン公爵令嬢を処刑するなどと!」
「そうですぞ!我々はトンネル工事の事故の原因を作った人物を捕えるためと言われて付いていきましたが、即座に処刑などあり得ません!処刑は国王陛下の許可なくして行えない事をお忘れですか!?」

なんとか説得しようにも返ってカール王子を不愉快にしただけだった。

「黙れ!国王と王太子兄上がいない今、最高責任者は俺だ!これ以上わめくなら貴様も死刑だぞ!」

そう言われて口を閉ざす側近達に騎士団の上官が詰め寄った。

「カール王子、貴方の一存では処刑は出来ませんぞ。万が一シオン公爵令嬢を処刑した場合の覚悟はあるのですか?」
「覚悟だと?無論、あるに決まっているだろう!それにあいつは公爵令嬢の立場を利用して、台風の時に無理矢理作業員を働かせて『何十人』もの作業員を崩落事故で死なせたんだぞ?十分に処刑に値する!」
「カール王子は何もわかっておられない。確かに政治的判断で裁判なしで処刑される例はありますが、今回の事故については然るべき調査をした上での判断になります!このまま刑を執行すれば貴方の立場も危うくなりますぞ!」

騎士団の者の言う事は正論であった。しかし、ここまで進めた計画を止める訳にはいかなかった。

「くどいぞ!準備ができしだい、刑を実行する!」

そう言うとカール王子は行ってしまった。

「どうしましょう………」
「王子はわかっていない。オリオン公爵家の恐ろしさを………」

本当に罪を犯したのであれば、どんな恐ろし相手でも職務を全うする気持ちはあるが、あの王子の為に命を掛けるのはごめんだという気持ちがあった。せめて準備に時間を掛けて時間稼ぎをする嫌がらせをするのだった。

しかし、ここでも少し問題があった。ここには王子直属の私兵(近衛兵)と王国の騎士団の2つの組織が存在していた。カール王子は準備が遅いと、私兵に準備を代わらせたのだった。

「お前達、本当にこの処刑を行うつもりか?」
「我々はカール王子の近衛兵です。王子の命令は絶対です」
「本当の忠臣なら主を止めるものではないか?」
「…………これでいいのです。今にわかります」

言葉を濁してその近衛兵は去っていった。







そして準備が整い、下がっていたギロチンの刃が上に引き上げられた。シオンは救出作業で泥だらけの格好で護送用馬車から連れ出された。
そして処刑台に首を設置された。

シオンの姿を見た民衆はすぐにシオン公爵令嬢とはわからなかった。

ざわざわ
ざわざわ

「静まれーーーい!これより重罪人シオン・オリオン公爵令嬢の処刑を執り行う!」

!?

カール王子の言葉に市民が衝撃を受けた。

「はぁ?シオン御令嬢の処刑だって?」
「そんなバカな!」
「同名の別人でしょう?」
「いや、家名がオリオン公爵家と言っていたよな?」
「どういうことだ!?」

ざわざわ!
ざわざわ!

柵をしてあるので市民は処刑場に入ってこれないが、ざわめきが大きくなった。

「この者は台風の時に、工事が遅れていると言う理由で、作業員を無理矢理働かせた上に、落盤事故を起こして数十人もの命を奪った重罪人である!よって、私利私欲に目の眩んだこの者を王国法に則り処刑に処す!」

ざわざわ!!!
ざわざわ!!!

「おいおい、マジかよ?」
「バカな!俺の知り合いが働いているが、シオン御令嬢は無理をさせないと嬉しそうに言っていたぞ!そんな訳ないだろう!?」
「あ、私聞いたわ。第二王子は婚約者が人気があるからって塩対応で有名だと………」
「えっ、それじゃ第二王子に嵌められたんじゃ………」
「きっとそうよ!シオン様の今までの偉業を知っているでしょう?私の夫もシオン様が開発された薬で助かったのよ!」
「それだけじゃないぞ?儲けたお金を孤児院やスラムの救済に寄付しているそうじゃないか!」
「ああ、そんな御方が台風の時に無理矢理働かせるか?」
「絶対あるわけないだろう!万が一、事故が起こったとしても処刑されるほどの罪になるわけないぞ!」

市民に人気のあるシオンの処刑に疑問のある民達は騒ぎ出した。それに動揺したのがカール王子であった。何十人もの作業員を死なせた事で、罵られて民から石など投げられると思っていたのに、多くの民が自分を非難し始めたからだ。

「おい!この処刑を止めさせろ!」
「そうだ!ちゃんとした証拠はあるのかよ!」
「おい!騎士団!!!本当にシオン様が罪を犯したのか!?」
「国王様がいないのに、第二王子の権限で処刑なんてできるの?」
「お前がシオン様を嵌めたんじゃないだろうな!もしそうなら俺が貴様を殺してやるぞ!!!」

市民の声が大きくなり柵を揺らしたり、乗り越えようとする者が現れたため、騎士団達は止めに入った。

「静まれ!処刑場に無理矢理入ると逮捕するぞ!!!」
「落ち着け!柵を壊すな!!!」

すでに市民は興奮して聞く耳を持たなかった。そして遂に騎士達は剣を抜いたのだった。

「これ以上騒ぐなら痛い目を見ることになるぞ!!!」

一触即発の状況に凛とした声が響いた。

「やめなさい!」

首を上げて目の前を見据えたシオンがいた。決して大きな声ではなかったが、不思議とその場に響いたのだった。

「私の為にお互いが傷つく事はありません。そして騎士の皆さんも、守るべき民を傷付ける行為は止めなさい!己の騎士としての誇りがあるのなら、その剣が誰の為に振るわれるべきか、今一度思い出しなさい!」

シーン……………

シオンの演説に辺りは静まり返った。

「し、しかし!このままでは貴女様が死んでしまいます!そんな事は許せません!」

それでもシオンを助けたい民は声を上げた。

「………私も死にたくはありません。私はただの令嬢であり、聖女ではないですからね。でも、貴族としての矜持を最後まで捨てませんわ!私のせいで皆さんが傷付くのであれば、謹んで死を受け入れましょう!そしてこの事件の真実が必ず明らかになると信じています!」

そう言い切ったシオンの顔は真っ青であり、目には涙を浮かべて震えていた。明らかに強がりだとわかる状態であったが、逆にその姿を見た市民は……いや、騎士達も何も言えなくなった。

そしてこの令嬢を死なせてはいけないと心が叫ぶのだった。

「おいっ!いつまでくだらない事を話している!?早くロープを切れ!」

カール王子がイラつきながら指示を飛ばすが、側にいた騎士は嫌だ!といって斧を投げ捨ててしまった。

「使えぬクズめが!」

カール王子が斧を拾い、振りかぶってロープを切った。

「これでお前の最後だ!」

ギロチンの刃が落ちてシオンの首を飛ばし─

ガッギーーーーーーーン!!!!!!!

周囲に金属音が響いた。

「貴様ら!どういうつもりだ!!!!」

周りにいた騎士達が自らの剣を間に挟んでギロチンの刃を防いだのだ。それも一本では折られていただろうが、10本近くの剣をそれぞれが咄嗟に差し込んだのだった。

「はぁはぁ…………」
「よかった」
「早くシオン御令嬢を!」

周りの騎士達はシオンをギロチンの設置から外した。それとほぼ同時に市民の後ろの方が騒がしくなってきました。

「シオーーーーーン!!!!!無事かーーーー!!!!!!」
「お姉様ーーーーーー!!!!!!!」

シオンの家族がやってきたのです。ちょうどここに向かう途中で、領内からやってきた妹のシシリーと合流して、ちょっとした大所帯できたのです。トンネルの作業員さんも何人か一緒にきていました。

公爵は処刑所の柵を魔法で吹き飛ばすとシオンに向かって走り出した。

「シオン、無事か?」

公爵は周りを見渡し、娘を救ったであろう騎士達に説明を求めた。事情を知ったシオンの父である公爵は顔色を変えずにそうか………と一言呟いた。

「私は間に合わなかったのだな…………娘を救ってくれたこと感謝する」
「………いえ、王族の命令とはいえ御令嬢を連行したのは我々と王子の私兵である近衛兵です。感謝される言われはありません」

その騎士は拳を強く握りしめて俯いて震えていた。己の不甲斐なさと悔しさにだ。

ざわざわ
ざわざわ

今度は王城側が騒がしくなってきた。

ガラガラガラ…………ズッサーーーーーーー!!!!!

1台の馬車が飛び込んできた。その後ろから複数の馬に乗った騎士達も雪崩れ込んできた。

バンッ!!!

「シオン令嬢は無事か!?」

馬車から出てきたのは国王様と王太子殿下でした。

「これは………」

その場の状況を見て大体の事を把握した国王はカール王子に詰め寄った。

「これはどういう事だ!!!!」
「ひぃぃぃぃ!!!!」

本気の国王様の怒気に尻餅を付いて引き下がるカール王子は弁明した。

「こ、この者は台風の時に無理矢理、作業員を働かせて落盤事故を起こしたのです!その事故で何十人もの尊い命が失われたので、重罪人として私が裁きを下そうと─」

「黙れ!この愚か者が!!!!!」
「がはっ!?」

国王様はカール王子を本気でぶん殴りました。

「貴様にそんな権限などないわ!あれほど婚約者であるシオン令嬢を大切にしろと言い聞かせておったのに!貴様の行動が目に余り、世間でも噂になっておったから、貴様を廃嫡してこちらから婚約を白紙に戻す提案をしておったのじゃぞ!?」
「なっ、なぜ!?」

「なぜ?だと!王族としての義務も果たさず、貴様に従わない近衛兵士の家族を人質にして無理矢理言うことを聞かせていただろう!」
「そんな事はしておりません!」

後ろから兄である王太子が書類を出した。

「愚弟よ、貴様がここまで腐っていたとはな。王族として近衛兵に言うことを聞かないとクビにするぞ、家族を捕まえて牢屋へ閉じ込めるぞなどと脅していたそうだな?」

!?

「そ、それは無能な兵士を鼓舞する為であって、本気でやろうとは………」

そこに近衛兵の1人が膝を付いて口を開いた。

「恐れながら申し上げます。王太子殿下の仰った通りでございます。家族を人質に私は逆らえずこの手を汚してしまいました。どうぞ厳罰に処して下さい」

その近衛兵に続いて多くの者が膝を付いた。

「貴様ら!?」
「黙れ!貴様はもう口を開くな!」

王太子は国王を落ち着かせて兵士達に言った。

「貴様らの罰は追って沙汰を下す。それまでは謹慎するように。今はやることがあるのでな」

王太子と国王陛下は保護されたシオンの元へ向かった。

「オリオン公爵、シオン令嬢は無事か?」
「………はい、緊張の糸が切れたようで眠ってしまいました」

国王はシオンの姿を痛々しそうに見て頭を下げた。

「オリオン公爵、謝って済む事ではないが謝らせて欲しい。本当に愚息がすまなかった!」
「私からも、恩を仇で返してしまい本当に申し訳ありませんでした!」

深く頭を下げる二人に公爵は軽くため息を付いて謝罪を受け入れた。
そして、お互いに事件の全容を知らなかったのでその場で情報交換を始めた。無論、カール王子は国王付きの騎士に取り押さえられている。

「公爵からトンネル事故の事を伝書鳩で知って、なんとか飛ばしてきたのだが、シオン令嬢の偽物の指示書を使い工事をさせたのか……なんと言う事を」

側近が全てを吐いたので、すぐに真相が判明した。ただ嬉しい情報も含まれていた。

「あの、シオンお嬢様は3日間もの間、必死に救出活動に尽力していました!そして、トンネルの崩落事故では『誰も』死んでいません!」

「バカな……………」

カール王子は唖然としていた。
シオンが給水場を作っていたことと、運が良かったことなど作業員は説明した。

「うははは!すまぬ、笑う所ではないがこれはシオン令嬢が起こした奇跡に他ならないな!」

王様は豪快に笑いました。

「全く、笑いごとではありませんぞ!」

口ではそう言った公爵であるが、公爵も笑っていた。

「………本当に素晴らしい娘を持ったな」
「はい、しかしシオンだけではありません。妹のシシリーもシオンの仕事を手伝い、そして冷静に私に事件の内容を私に伝えてくれたのです」

公爵はシオンを支えていたシシリーの頭を撫でた。

「本当に御無事で良かったです。正直、昔は何でもできるお姉様を疎ましく思っていた時期もありました。でも、お姉様も苦労と葛藤をしている事に気付いて支えたいと思ったんです。優しいですしね」
「シシリー、貴女も私達の大事な娘に変わりないわ。何かあれば溜め込まずに相談してね」
「はい………」

公爵家の絆が深まる瞬間であった。
そして─

「さて、カールよ?この落とし前、どうしてくれようか?」

国王の問い掛けにビクッと震えた。

「公爵令嬢を陥れただけではなく、独断で王の許可も無しに処刑しようとした事、さらに赤の他人ではなく、まがいにも婚約者であった者に危害を加えた事は許しがたい。よって、貴様が殺りたがっていたギロチンの刑に処す!」

!?

「ま、待って下さい!実の子を処刑するつもりですか!?」
「貴様が言っていたそうではないか。重罪人は王国法に則り処刑すると。ああ、心配はいらない。貴様の母である側妃も同罪だ。一緒に送ってやる」

!?

向こうからギャーギャーと甲高い声で叫びながら連行されてくる女性がいた。それも含めて何人もの人物が捕縛されてきた。

「ようやく来たか」

連れてこられた人物を見てカール王子が叫んだ!

「は、母上!?」
「おお、カール!私を助けなさい!この無礼者どもが…………陛下!?」

側妃は国王を見て驚いた顔をした。まだ隣国から戻ってないと思っていたからだ。

「さて、側妃よ。覚悟は良いか?」
「な、何のことでしょうか?」

王太子が国王に書類を渡した。

「私がいない間にやってくれたな?いや、水面下でオリオン公爵の令嬢の処刑と、事故に見せ掛けての私と王太子の暗殺と、まぁやりたい放題であったな!」

!?

「国王陛下、事故に見せ掛けての暗殺とは?」
「帰りに土砂崩れに巻き込まれそうになったのだ。間一髪で助かったがな。護衛の者から爆発音が聞こえたと言っていたので、魔法で爆発させて土砂崩れを起こしたのだろう」

「それで帰りが遅くなったのですね」

まさか、国王達まで罠に嵌めて殺そうとするとは………側妃が驚いたのは国王が生きていたからだったのか!

「わ、私はそんな事はしておりません!」
「うむ、金でプロを雇ったのだろう。暗殺者と交わした契約書も押収したぞ?貴様の血で交わされた魔法の契約書だ」
「し、知りませんわ!」

側妃はガタガタと震えていた。その姿が証拠だと言わんばかりに。







シオンが眠っている間に断罪劇が繰り広げられていたは、シオンは脳内で昔の記憶を思い出していた。

ああ、そうだ。この乙女ゲームは主人公がどんな行動を起こしたかで、ルートが分岐して聖女にも悪役令嬢にもなるんだった。

そう、最近の乙女ゲームでは珍しく主人公自身がヒロインであり、悪役令嬢なんだ。

シオンは微睡み(まどろみ)の中で思い出していた。








「う……ん……?ここは?」

シオンは目が覚めると知らない部屋のベットで寝ていた。

「お目覚めになられましたか!?」

あれ?いつも屋敷にいる専属の侍女だった。

「すぐに旦那様やシシリー様を呼んで参ります」

そう言うと急いで出ていった。わたしは首だけ横にして見渡すと、やっぱり知らない部屋だった。

ドタドタドターーーー!!!!!

騒がしい音が聞こえてきたと思ったら、扉が派手に開いて家族が飛び込んできた。

「シオン大丈夫だったかい!」
「どこか痛い所はない!?」
「お姉様!心配しました!」

ガバッと抱き付かれて苦しいです!

パン!パン!
「あ~はいはい、皆さんどいて下さいねー!シオンお嬢様はまだ病み上がりなんですから、悪化したらどうするんですか?」

私の専属侍女が手慣れた様子で、家族を引き剥がした。
助かりましたが、なぜか釈然としないのは何故でしょうか?影の番長なのでしょうか?

「シオン、ここは王城の一室だよ。シオンは3日間も寝込んでいたんだよ?」

あの断罪劇から3日も経っていた。
お父様があらからの事を話してくれた。

あれからカール王子とその母親である側妃様が処刑された。そしてそれに加担した貴族達も軒並み処刑されたり、牢屋に入ったりと思った以上に関わっていたそうだ。
キレ者の王太子より、扱い易いカール王子を推す貴族が多かったようだ。そして、私のせいでバブルに沸いていたオリオン領を削って自分達の物にしたい思惑もあったと教えてもらった。

「いいかい?シオンのせいじゃないからね?バカな愚か者が多くいただけだからね?」
「そうよ。シオンは責任感が強いから、自分のせいかと思うかも知れないけど、気にしてはダメよ?」

両親にそう言われて頷いたのだった。
その後、国王様と王妃様に何度も頭を下げられました。そしてあの日の出来事は噂となって王国中に広まりました。いえ、正確には隣国にも伝わりました。そして小説になり、演劇も上映される事になりました。

そのおかげで実話の小説、演劇として末永く語られることになるのでした。


「はぁ、領内の見廻りの際にも私を聖女とか呼ばれるんですが………」
「まぁ、お姉様があれだけの事をしたんですからね。お姉様の言葉がみんなの心にそれだけ響いたんですよ♪」


あれから特別な力もないのに、聖女と呼ばれて辟易している私でした。そして遂にトンネルが開通して隣国との交易が盛んになり、良くある隣国の王子様に求婚されるのはもう少し先のお話です。

やっぱり平和が1番です!
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