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春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)
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最後に残ったジグモはシオンに背を向けた所で、アキが飛び出した。
「逃がすかっ!」
大型ナイフで斬り掛かるがジグモもいつの間にか手にした同じナイフでガードした。
「おいおい?せっかく引いてやるって言うのによぉ~」
「黙れ!ようやく見つけた!【マナツ】と【マフユ】の仇!」
!?
ガギンッ!!!
力の差か、アキは大きく弾かれた。
ザザッと地面に後を残しながら後ろず去った。
「何度驚かせりゃ~気が済むんだ?お前達、春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)かよ?まさか、生き残っていたとはな~~まっ、それはオレ達も同じだがな」
ジグモの殺気が跳ね上がった。
「そこまでよアキ!止めなさい!」
シオンはアキを制止させると慎重に言った。
「私の部下が失礼したわ。まさか【蜘蛛】の名前を頂いている幹部がいるなんて、こちらも予想外だったわ?私達の目的はクズドラ息子の確保と、売られた女性達の保護なの。しばらくは手を出さないから、早く行きなさい」
「お嬢様!ヤツを見逃すのですか!今ここでヤツを───」
アキは振り返り抗議するが………
「黙りなさい………二度は言わないわよ?」
シオンの氷の様に冷たい声にグッ、と悔しそうに歯を喰い縛るアキを抑えてシオンはジグモを見送った。
ジグモが去り、蚊帳の外だったカノンが声を掛けた。
「シオン令嬢、先程のヤツはいったい………」
「ごめんなさい。詳しくは言えないの。奴らの存在を知るだけでも命を狙われるから。でも貴方は皇帝に報告しないといけないから、少しだけ教えるわね」
一度周囲を見渡してから言った。
「奴らはこの大陸に昔からある裏の組織よ。【常闇の蜘蛛】(とこやみのくも)。裏の世界から表の世界を蜘蛛の糸の様に操る事を生業にしている凶悪な組織ね。過去に私の王国にも手を伸ばしたのだけれど、王国にも暗部を司る組織があってね。常闇の蜘蛛とうちの組織が、総力戦でぶつかってお互いに壊滅的被害を出したのよ」
「それが常闇の蜘蛛と春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)……」
「それは他言しないでね?もしベラベラ喋ると………わかるでしょう?」
カノンは背筋が冷えるのを感じた。
『これはとんでもない令嬢だな。戦場にも出るし、しっかりと配下の者も従えている。しかし常闇の蜘蛛だと?オレは何も知らされていないぞ?宰相に確認が必要だな』
「わかっている。陛下の報告以外では絶対に話さないと誓う」
「ありがとうございます」
そこに、中々戻ってこないジグモや衛兵達を探しに、目的の人物であるエチゴーヤ・ワルヨノー伯爵子息が入り口を開けて出てきた。
※今更だが、爵位は父親が持っており、その子供は爵位を継ぐまでは伯爵ではありません。故に子息と書いてます。
「こ、これはいったい!?」
目の前に屋敷を守る衛兵が軒並み倒れており、エチゴーヤは腰を抜かした。
「ようやく見つけましたわ。エチゴーヤ殿。覚悟は出来ていまして?」
ハッと声の方を見る、貴族の令嬢が騎士を従えて立っているのが見えた。
「なななっ、貴様ら!こんな事をしてただで済むと思っているのかっ!」
どうしてこうも同じ事を言われるのか………
「貴方に心配されなくても構わないから大丈夫よ」
シオンが目配りするとハルとアキがスタスタッと向かって行った。
「く、くるなっ!俺は伯爵家の嫡男だぞ!何かあれば親父が黙っていないぞ!オレの親父は皇帝陛下にも謁見できる立場なんだからなっ!」
シオン達はドン引きした。
「うわぁ~ここまで自分の力じゃなくて、親の威光に縋るヤツ初めてみたわ~」
「これは『ナイ』わ~」
「知っていたけど引くな」
「アイツ何歳だよ?そんな事を言うのは5歳ぐらいまでだろう?」
仲間内からも非難の声がここぞとばかり響いた。
そんな時、後ろから大勢の足音が聞こえてきた。
「お前達!何をしている!?」
街の南側に詰め所がある憲兵達だった。数は30人ほどだ。目立つ赤色の制服に金のボタンを着けている。
「おおっ!オレだ!早く賊を捕まえろ!!!」
助けが来たと喜ぶエチゴーヤに軽くため息を付いた。
「我々は皇帝陛下直属の憲兵である!大人しく投降しろっ!逆らえば皇帝陛下に弓引くものとなるぞ!」
シオンは振り向くと指を差して言った。
「あなた達、どうしてそこのゴミクズを捕まえないのかしら?」
憲兵は向こうにいる伯爵の子息をみて視線を逸らした。
「何の事だ?この街の領主だぞ!捕まえる理由がない」
「街の人々から多くの嘆願書が届いているハズですよね?中には憲兵の目の前で女性が拐われても動かなかったそうじゃないですか?」
!?
シオンの言葉にカノンが驚いた。
まさかそこまで腐っていたのかと。
「そ、そんな事実はない!それより実際に領主の屋敷を襲撃した現行犯で貴様を逮捕する!」
明らかに動揺している憲兵達に、シオンより隣にいる騎士カノンの顔が恐ろしい事になっていた。
コソッ
「拳の力を抜いて下さい。血が出ております」
シオンに言われてフッと我に返ると、無意識の内に手に力が入っていたようだ。
「ここからですわ」
シオンが憲兵達の前に出るのだった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
【作者からの補足事項】
名前は関係ありませんが、
『常闇の蜘蛛』と『春夏秋冬』は、
忍者の【伊賀】と【甲賀】の様な関係をイメージして貰えればと思います。敵対している勢力として。
もう少し後に、その内容も出てきますのでお楽しみに。
「逃がすかっ!」
大型ナイフで斬り掛かるがジグモもいつの間にか手にした同じナイフでガードした。
「おいおい?せっかく引いてやるって言うのによぉ~」
「黙れ!ようやく見つけた!【マナツ】と【マフユ】の仇!」
!?
ガギンッ!!!
力の差か、アキは大きく弾かれた。
ザザッと地面に後を残しながら後ろず去った。
「何度驚かせりゃ~気が済むんだ?お前達、春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)かよ?まさか、生き残っていたとはな~~まっ、それはオレ達も同じだがな」
ジグモの殺気が跳ね上がった。
「そこまでよアキ!止めなさい!」
シオンはアキを制止させると慎重に言った。
「私の部下が失礼したわ。まさか【蜘蛛】の名前を頂いている幹部がいるなんて、こちらも予想外だったわ?私達の目的はクズドラ息子の確保と、売られた女性達の保護なの。しばらくは手を出さないから、早く行きなさい」
「お嬢様!ヤツを見逃すのですか!今ここでヤツを───」
アキは振り返り抗議するが………
「黙りなさい………二度は言わないわよ?」
シオンの氷の様に冷たい声にグッ、と悔しそうに歯を喰い縛るアキを抑えてシオンはジグモを見送った。
ジグモが去り、蚊帳の外だったカノンが声を掛けた。
「シオン令嬢、先程のヤツはいったい………」
「ごめんなさい。詳しくは言えないの。奴らの存在を知るだけでも命を狙われるから。でも貴方は皇帝に報告しないといけないから、少しだけ教えるわね」
一度周囲を見渡してから言った。
「奴らはこの大陸に昔からある裏の組織よ。【常闇の蜘蛛】(とこやみのくも)。裏の世界から表の世界を蜘蛛の糸の様に操る事を生業にしている凶悪な組織ね。過去に私の王国にも手を伸ばしたのだけれど、王国にも暗部を司る組織があってね。常闇の蜘蛛とうちの組織が、総力戦でぶつかってお互いに壊滅的被害を出したのよ」
「それが常闇の蜘蛛と春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)……」
「それは他言しないでね?もしベラベラ喋ると………わかるでしょう?」
カノンは背筋が冷えるのを感じた。
『これはとんでもない令嬢だな。戦場にも出るし、しっかりと配下の者も従えている。しかし常闇の蜘蛛だと?オレは何も知らされていないぞ?宰相に確認が必要だな』
「わかっている。陛下の報告以外では絶対に話さないと誓う」
「ありがとうございます」
そこに、中々戻ってこないジグモや衛兵達を探しに、目的の人物であるエチゴーヤ・ワルヨノー伯爵子息が入り口を開けて出てきた。
※今更だが、爵位は父親が持っており、その子供は爵位を継ぐまでは伯爵ではありません。故に子息と書いてます。
「こ、これはいったい!?」
目の前に屋敷を守る衛兵が軒並み倒れており、エチゴーヤは腰を抜かした。
「ようやく見つけましたわ。エチゴーヤ殿。覚悟は出来ていまして?」
ハッと声の方を見る、貴族の令嬢が騎士を従えて立っているのが見えた。
「なななっ、貴様ら!こんな事をしてただで済むと思っているのかっ!」
どうしてこうも同じ事を言われるのか………
「貴方に心配されなくても構わないから大丈夫よ」
シオンが目配りするとハルとアキがスタスタッと向かって行った。
「く、くるなっ!俺は伯爵家の嫡男だぞ!何かあれば親父が黙っていないぞ!オレの親父は皇帝陛下にも謁見できる立場なんだからなっ!」
シオン達はドン引きした。
「うわぁ~ここまで自分の力じゃなくて、親の威光に縋るヤツ初めてみたわ~」
「これは『ナイ』わ~」
「知っていたけど引くな」
「アイツ何歳だよ?そんな事を言うのは5歳ぐらいまでだろう?」
仲間内からも非難の声がここぞとばかり響いた。
そんな時、後ろから大勢の足音が聞こえてきた。
「お前達!何をしている!?」
街の南側に詰め所がある憲兵達だった。数は30人ほどだ。目立つ赤色の制服に金のボタンを着けている。
「おおっ!オレだ!早く賊を捕まえろ!!!」
助けが来たと喜ぶエチゴーヤに軽くため息を付いた。
「我々は皇帝陛下直属の憲兵である!大人しく投降しろっ!逆らえば皇帝陛下に弓引くものとなるぞ!」
シオンは振り向くと指を差して言った。
「あなた達、どうしてそこのゴミクズを捕まえないのかしら?」
憲兵は向こうにいる伯爵の子息をみて視線を逸らした。
「何の事だ?この街の領主だぞ!捕まえる理由がない」
「街の人々から多くの嘆願書が届いているハズですよね?中には憲兵の目の前で女性が拐われても動かなかったそうじゃないですか?」
!?
シオンの言葉にカノンが驚いた。
まさかそこまで腐っていたのかと。
「そ、そんな事実はない!それより実際に領主の屋敷を襲撃した現行犯で貴様を逮捕する!」
明らかに動揺している憲兵達に、シオンより隣にいる騎士カノンの顔が恐ろしい事になっていた。
コソッ
「拳の力を抜いて下さい。血が出ております」
シオンに言われてフッと我に返ると、無意識の内に手に力が入っていたようだ。
「ここからですわ」
シオンが憲兵達の前に出るのだった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
【作者からの補足事項】
名前は関係ありませんが、
『常闇の蜘蛛』と『春夏秋冬』は、
忍者の【伊賀】と【甲賀】の様な関係をイメージして貰えればと思います。敵対している勢力として。
もう少し後に、その内容も出てきますのでお楽しみに。
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