悪女と言われた令嬢は隣国の王妃の座をお金で買う!

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面白い女☆

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シオンが大立ち回りした翌日、急いで手紙を書くと、証拠書類と一緒に、護衛騎士1人に持たせて早馬で帝国の王宮に向かわせた。辺境の地である為に、早馬でも数日は掛かる距離だ。

あの夜、アクダイカーン男爵を粛清した後、シオンは空の馬車を引き連れ、引き渡し場所まで向かった。

すでに相手は着いていて待っていた。

「遅かったな。何やら街の方が騒がしかったようだが何かあったのか?」

「ええ、面白い事がありましたの」

!?

「誰だ!お前は!?」

相手はパッと見て5人ほどだが、男爵のゴロツキと違い手練れだった。男爵と違うとわかった途端に、後ろに飛び去り、剣を構えた。

こいつらやりますわね。
シオンもすぐに合図を出した。

「売られた女性達の居場所、吐いて貰うわよ!」

メイド二人と、護衛騎士3人(二人は男爵家の後始末の為に残してきた)が行動を起こした。

ガギンッ!!!
ガギンッ!!!

お互いに斬り合いになったが、すぐには決着が付かなかった。何合か打ち合いの音が響き渡る。

「私の側近と互角とは、なかなかやりますわね」
「クソッタレ!お前はいったい何者なんだ!」

シオンは目だけ左右に巡らせ、周囲の気配を探った。

「さぁ?私に勝ったら教えて上げますわ♪」

ガッギーーーン!!!

アキの抑えていた敵が、アキを弾くとシオンに襲い掛かった。

「ならテメェが先に死にやがれ!!!」

駆け出して、勢いのあるままシオンに斬り掛かった。



お互いが交差すると、敵は血を吹き出して倒れた。

「フッ、私は剣の方が得意なんですの」

シオンの剣技を見て、形勢が不利だと悟ると相手はすぐに逃げ出した。流石としか言いようがないくらい手際がいい。

「ハル、アキ!絶対に逃さないで!」

「「ハッ!!!」」

素早さではハルとアキの方が早くすぐに敵に追いついたが、敵はすぐに散開し、全員別々の方への逃げた。

『こいつら慣れていますね。鎧を着た騎士達では追い付けない。これは1人逃がしてしまいますね」

敵は4人、こちらはシオンを入れて3人。
しかし、ここでハルがいい仕事をした。
クナイを投げて敵2人の足を貫いた。

「足を怪我したヤツは騎士に任せて、残り2人を追って!」

返事をする時間も惜しい為にもそのまま残りの敵を追った。
結果的には全員を押さえる事には成功したが──

その全員が歯に仕込んだ毒で死んでしまった。
売られた女性達の情報が無くなり、悔しがるシオンであった。

とはいえ、まだ少ないが情報が全くない訳では無かった。倒した敵の荷物など調べると、奴らの身体の何処かに【蜘蛛】のタトゥーがあったのだ。
有名な闇組織のメンバーの証拠である。

「………やれやれ、『また』こいつ等ですか因果なものね」

シオンの呟きは風に消えるのだった。











──エスタナ帝国の王宮にて──

「ゼノン皇帝陛下、例の妃候補の使者が来ました。今回は手紙だけではなく至急お会いしたいとの事ですが、いかが致しますか?」

あの顔見せのお茶会から、他の妃候補達は実家への報告の為に全員帰っている。

「辺境伯の令嬢の使者か。すぐに通せ!」

前回の手紙から気になっていたので、使者から詳しい話を聞きたかった。
執務室にやってきた騎士は部屋に入ると片膝を着いて挨拶をした。

「よい、時間が惜しいのでな。緊急の話だったが、シオン令嬢はどうした?」

まず、騎士から話を聞くとすぐにゼノン皇帝の顔色が変わった。現在、執務室には宰相と、警護の近衛騎士が数名いるだけだった。シオンの護衛騎士もまさか、こんな重要な部屋に通されるとは思っていなかった。最悪、手紙だけ渡して、数日待たされてから謁見の間で説明するのだと思っていた。

胃をキリキリさせながら護衛騎士はシオンを恨んだ。

『お嬢!戻ったら高い酒を買って貰いますからねっ!』

手紙と証拠の書類を皇帝が見てから宰相に渡した。

「お前達!ここでの会話は箝口令を敷く。誰にも漏らすなよ?」

部屋に居た近衛騎士はバッと敬礼をして了解のポーズをした。

「宰相、どう思う?」
「はい陛下、これは由々しき事態ですな!早急に王宮にいる騎士団の小隊………いえ、中隊規模を派遣して街の住民からも話を聞かなければなりません。いくら治める領地の税率を領主の裁量で、ある程度融通ができるといっても、これはやり過ぎです!」

「そうだ。水税など水不足の時に一部の地域で節制の為に行うものだ。水の豊富な場所で取るものではない。言い訳として、帝国法の上限まで税率を上げて、別の項目での税の徴収か。法には違反していないと言い訳のできる、法の穴を付いた上手い手だな?」

ニヤリッと笑う皇帝の言葉には怒気が含んでいた。

「これを1年以上前から行っていたのですか。よくも今まで気付かれなかったものです」

「男爵のみでは不可能だろう。使者から聞いた話では男爵は無能だ。後ろに付いて知恵を貸したヤツがいる。それと王宮から使わせている税務官も賄賂を貰い見逃していた。すぐに捕縛しろ!俺の顔を潰しやがって!」

苛立つ皇帝に宰相は冷静に言った。

「状況的に見て寄親のヴァイス侯爵でしょうな。自分の娘を上位の妃に推す為に、かなりの金銭を動かしたと、囁かれていましたからな」

この宰相はゼノン皇帝が信頼する数少ない協力者で、相談相手だった。ゼノン皇帝の後ろ盾にもなっているので、父親の様に話せる間柄だった。
ゼノン皇帝幼少の頃の家庭教師も務めていた知恵者でもある。

「その金銭を捻出する為に領民から金を巻き取っているとは………クズ野郎が!」

皇帝の暴言にコホンッと宰相は咳をすると、使者に話し掛けた。

「それでシオン令嬢は他にも何か言っていましたかな?」

護衛騎士は平常心を装いながら伝えた。

「はっ!シオンお嬢様は、これを期に北上して他の領地も見て周るおつもりです。そして、もし王宮騎士団が派遣されるのであれば、抜き打ちで他の領地も調べて欲しいと言っていました。それと、また似た様な状況が起こった場合の時の、直通の連絡網を作って欲しいとの事です」

ゼノン皇帝は手を頭にやり呟いた。

「はぁ~お前の所のお姫様は何をやっているんだ?こちらの不手際ではあるが、領主の不正を暴いて粛清するなんて普通の令嬢には無理だぞ?」

口ではそう言っているは、顔は笑っていた。

「シオンお嬢様は本気で日曜の妃を目指しております。そして贔屓目抜きで、この国をもっとよくしたいと考えておられます。4月には必ず王宮へ登城すると言っておりますので、そこはご安心下さい」

「ふっ、本当に面白い女のようだ。会うのが楽しみだな」

そう言うとすぐにシオンへの手紙を書くと同時に王宮騎士団の派遣の準備に取り掛かるのだった。






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