My heart in your hand.

津秋

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キヨ先輩が、自分にとって特別な場所であの星空を俺に見せたいと思ってくれたのは、もしかしてこういう気持ちからだろうか。先輩はあのとき、俺のことが好きだから誰にも教えたことがなかったというあの場所に俺を連れて行ってくれたのだろうか。
―尋ねれば、きっと肯定が返ってくる。今の俺には、恥ずかしいくらいにその推測が自意識過剰でもなんでもない自信があった。

だって俺がこの空を見せたいと思ったのは、キヨ先輩だからだ。キヨ先輩が、好きだからだ。俺とキヨ先輩の「好き」は同じだった。

親愛や尊敬や友情に、複雑に織り込まれていた先輩と同じ意味の好意が、はっきりと自分の中にあることが今なら分かる。それは昔の俺が思っていたような執着と欲で濁ったものではなく、やはりキヨ先輩から差し出されたものに似ていた。温かくて水の中から見上げた光みたいに綺麗なものに思えた。

欲や執着がないわけではなくて、それを含んでいても濁ってしまわないくらいに強いものらしい。そしてそれは、家族に対する思いとも岩見が好きだという気持ちとも異なる思いだった。
いろいろなものを与えたい人はいても、分け合いたいと思う人はキヨ先輩だけだ。どうしてその違いの大きさに気付かずにいられたのだろう。

俺は、俺が大切に思うものや特別だと感じるものを、キヨ先輩と分け合いたい。そうして先輩があの、俺の大好きな表情で笑ってくれて、同じようにそれを綺麗だとか特別だとか感じてくれたら、最高だ。
――俺の好きはそういうものだった。

理解と納得が染み渡っていく。気持ちが変化して好きになったのではなくて、好きであるということに気が付いたのだ。
とても深くに溶け込んでいて、恋愛感情というものを軽視していた俺にはそれがどんなに他の好意と違っていて、特別なものであるかが本当の意味で分かっていなかったのだと思う。
探していたものを最初から持っていたことにようやく気が付いた間抜けさに、つい、気の抜けた笑い声が漏れる。

あの感情はやはり嫉妬だった。そしてそれはキヨ先輩が好きだから生まれたもの。先輩が俺を目に映してくれないのではと考えるだけで動けなくなりそうなのも、同じ理由。
あれほど目を背けたくて、嫌々ながらに向き合った感情なのに、キヨ先輩が好きだからこそだと確信できた今は、拒絶感が溶けていくようだった。それが彼への好意の一部というだけで、急に得体のしれない不気味さが消えた。曖昧だった輪郭が確固たるものになった。

この先同じ感情を抱くことがあっても、俺はそれに以前ほど振り回されたりはしないだろうし、キヨ先輩の目を見ることだって出来るはずだ。

空は未だ多彩さを失っていない。今すぐキヨ先輩に会いたいと思った。
全部伝えたかった。俺が考えたことと、感じたこと、それから、キヨ先輩への想いも。
自らの言葉と反したことをした俺に、キヨ先輩は俺の考えすぎなどではなく本当に愛想をつかしているかもしれないとも思ったが、もしそうだとしても自業自得だ。
先輩は俺なんかのために言葉でも行動でも精一杯に頑張ってくれていたのだ。それくらい、俺でもわかっている。今度は、俺が頑張る番だ。


吹き付けた風に押されるように、踵を返す。今、先輩がどこにいるかなんて分からない。もう寮に帰ってしまっているかもしれない。けれど無駄足だってかまわないから行こうと、真っ先に思い浮かんだ場所があった。
俺の足が向かう先は、決まっていた。
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