187 / 192
last.
39
しおりを挟む
キヨ先輩が、自分にとって特別な場所であの星空を俺に見せたいと思ってくれたのは、もしかしてこういう気持ちからだろうか。先輩はあのとき、俺のことが好きだから誰にも教えたことがなかったというあの場所に俺を連れて行ってくれたのだろうか。
―尋ねれば、きっと肯定が返ってくる。今の俺には、恥ずかしいくらいにその推測が自意識過剰でもなんでもない自信があった。
だって俺がこの空を見せたいと思ったのは、キヨ先輩だからだ。キヨ先輩が、好きだからだ。俺とキヨ先輩の「好き」は同じだった。
親愛や尊敬や友情に、複雑に織り込まれていた先輩と同じ意味の好意が、はっきりと自分の中にあることが今なら分かる。それは昔の俺が思っていたような執着と欲で濁ったものではなく、やはりキヨ先輩から差し出されたものに似ていた。温かくて水の中から見上げた光みたいに綺麗なものに思えた。
欲や執着がないわけではなくて、それを含んでいても濁ってしまわないくらいに強いものらしい。そしてそれは、家族に対する思いとも岩見が好きだという気持ちとも異なる思いだった。
いろいろなものを与えたい人はいても、分け合いたいと思う人はキヨ先輩だけだ。どうしてその違いの大きさに気付かずにいられたのだろう。
俺は、俺が大切に思うものや特別だと感じるものを、キヨ先輩と分け合いたい。そうして先輩があの、俺の大好きな表情で笑ってくれて、同じようにそれを綺麗だとか特別だとか感じてくれたら、最高だ。
――俺の好きはそういうものだった。
理解と納得が染み渡っていく。気持ちが変化して好きになったのではなくて、好きであるということに気が付いたのだ。
とても深くに溶け込んでいて、恋愛感情というものを軽視していた俺にはそれがどんなに他の好意と違っていて、特別なものであるかが本当の意味で分かっていなかったのだと思う。
探していたものを最初から持っていたことにようやく気が付いた間抜けさに、つい、気の抜けた笑い声が漏れる。
あの感情はやはり嫉妬だった。そしてそれはキヨ先輩が好きだから生まれたもの。先輩が俺を目に映してくれないのではと考えるだけで動けなくなりそうなのも、同じ理由。
あれほど目を背けたくて、嫌々ながらに向き合った感情なのに、キヨ先輩が好きだからこそだと確信できた今は、拒絶感が溶けていくようだった。それが彼への好意の一部というだけで、急に得体のしれない不気味さが消えた。曖昧だった輪郭が確固たるものになった。
この先同じ感情を抱くことがあっても、俺はそれに以前ほど振り回されたりはしないだろうし、キヨ先輩の目を見ることだって出来るはずだ。
空は未だ多彩さを失っていない。今すぐキヨ先輩に会いたいと思った。
全部伝えたかった。俺が考えたことと、感じたこと、それから、キヨ先輩への想いも。
自らの言葉と反したことをした俺に、キヨ先輩は俺の考えすぎなどではなく本当に愛想をつかしているかもしれないとも思ったが、もしそうだとしても自業自得だ。
先輩は俺なんかのために言葉でも行動でも精一杯に頑張ってくれていたのだ。それくらい、俺でもわかっている。今度は、俺が頑張る番だ。
吹き付けた風に押されるように、踵を返す。今、先輩がどこにいるかなんて分からない。もう寮に帰ってしまっているかもしれない。けれど無駄足だってかまわないから行こうと、真っ先に思い浮かんだ場所があった。
俺の足が向かう先は、決まっていた。
―尋ねれば、きっと肯定が返ってくる。今の俺には、恥ずかしいくらいにその推測が自意識過剰でもなんでもない自信があった。
だって俺がこの空を見せたいと思ったのは、キヨ先輩だからだ。キヨ先輩が、好きだからだ。俺とキヨ先輩の「好き」は同じだった。
親愛や尊敬や友情に、複雑に織り込まれていた先輩と同じ意味の好意が、はっきりと自分の中にあることが今なら分かる。それは昔の俺が思っていたような執着と欲で濁ったものではなく、やはりキヨ先輩から差し出されたものに似ていた。温かくて水の中から見上げた光みたいに綺麗なものに思えた。
欲や執着がないわけではなくて、それを含んでいても濁ってしまわないくらいに強いものらしい。そしてそれは、家族に対する思いとも岩見が好きだという気持ちとも異なる思いだった。
いろいろなものを与えたい人はいても、分け合いたいと思う人はキヨ先輩だけだ。どうしてその違いの大きさに気付かずにいられたのだろう。
俺は、俺が大切に思うものや特別だと感じるものを、キヨ先輩と分け合いたい。そうして先輩があの、俺の大好きな表情で笑ってくれて、同じようにそれを綺麗だとか特別だとか感じてくれたら、最高だ。
――俺の好きはそういうものだった。
理解と納得が染み渡っていく。気持ちが変化して好きになったのではなくて、好きであるということに気が付いたのだ。
とても深くに溶け込んでいて、恋愛感情というものを軽視していた俺にはそれがどんなに他の好意と違っていて、特別なものであるかが本当の意味で分かっていなかったのだと思う。
探していたものを最初から持っていたことにようやく気が付いた間抜けさに、つい、気の抜けた笑い声が漏れる。
あの感情はやはり嫉妬だった。そしてそれはキヨ先輩が好きだから生まれたもの。先輩が俺を目に映してくれないのではと考えるだけで動けなくなりそうなのも、同じ理由。
あれほど目を背けたくて、嫌々ながらに向き合った感情なのに、キヨ先輩が好きだからこそだと確信できた今は、拒絶感が溶けていくようだった。それが彼への好意の一部というだけで、急に得体のしれない不気味さが消えた。曖昧だった輪郭が確固たるものになった。
この先同じ感情を抱くことがあっても、俺はそれに以前ほど振り回されたりはしないだろうし、キヨ先輩の目を見ることだって出来るはずだ。
空は未だ多彩さを失っていない。今すぐキヨ先輩に会いたいと思った。
全部伝えたかった。俺が考えたことと、感じたこと、それから、キヨ先輩への想いも。
自らの言葉と反したことをした俺に、キヨ先輩は俺の考えすぎなどではなく本当に愛想をつかしているかもしれないとも思ったが、もしそうだとしても自業自得だ。
先輩は俺なんかのために言葉でも行動でも精一杯に頑張ってくれていたのだ。それくらい、俺でもわかっている。今度は、俺が頑張る番だ。
吹き付けた風に押されるように、踵を返す。今、先輩がどこにいるかなんて分からない。もう寮に帰ってしまっているかもしれない。けれど無駄足だってかまわないから行こうと、真っ先に思い浮かんだ場所があった。
俺の足が向かう先は、決まっていた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
告白ゲーム
茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった
他サイトにも公開しています
漢方薬局「泡影堂」調剤録
珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。
キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。
高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる