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three.
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「あー、それいい!」
「だよね! お友達も妹さんも一緒にさ。ね?」
「お前ら、普段とキャラ全然違うな……」
「ちょっと、あんたは黙ってて!」
顔を引きつらせた先輩の友達が、一喝されて両手を肩の辺りまで持ち上げる。降参の姿勢だ。
そんなやり取りに苦笑してから、キヨ先輩は首を振った。
「悪いけど、遠慮する」
「ええ、なんでー?」
「ばぁか。連れがいるんだから、当たり前だろ。ほらほら。もう行くぞ」
よいしょ、と立ち上がった谷田さんが、面倒くさそうな表情で友人達に方向転換をさせる。きゃいきゃいと高い声で文句を言われてもどこ吹く風だ。仲は良さげなので問題もないだろう。
彼は最後に振り返って俺たちに手を振った。
「邪魔してごめんなー。清仁、また連絡するわ。江角くんもあやめっちもばいばい」
「ああ」
「谷田くん、ばいばーい」
俺ももう一度会釈をして、まるで嵐のようだったな、と遠ざかる数人分の背中を見送った。
「お姉ちゃんたち、一緒に見たいって言ってたね」
「うん。でも俺はハルとあやめと見たかったから」
俺たちに向かって笑いかける先輩を見て、ふと先程の言葉を思い出した。さっきの人たちを、キヨ先輩は中学が一緒だったと言った。
俺はキヨ先輩が中等部から学園に通っていたとなんとなく勝手に思い込んでいたのだが、違ったらしい。
「キヨ先輩って中学、地元だったんですね」
「ああ、うん。そう、俺も外部生だよ」
言ってなかったっけ、と聞かれて頷く。聞いていたら忘れない。
そうか、先輩も高校からだったのか。
「意外?」
少し意外だなと思ったところで、タイミング良くそう声をかけられた。
「少し。委員長とか会長とか、そういうのはずっと学園にいた人がなってるんだろうなって、勝手に思ってたんで」
「いや、合ってるよ。それが暗黙の了解みたいになってる。そういう人の方が、学園特有のことも理解が深いし。外部生が役職に着くのは珍しい……らしい。俺がちょっと例外なんだよ」
前委員長と親交があったから。そう続けて先輩は困ったように笑った。
夜目にも白い手が伸びて、優しくあやめちゃんの頬をつまむ。俺たちが話しているからか、口は噤んで兄に寄りかかっていた彼女は構われてくすぐったそうに口元を綻ばせる。
キヨ先輩はきっと、委員長として、目に見える以上の苦労をしているのだろうなと思った。
元々内部にいた者には分かって、俺達高校からの編入組には簡単には馴染み難いことを受け入れ、そういうものだと理解した上で、風紀委員会として大人の領分とも言える行動をする。世間一般的に正しくなければいけないのはもちろん、学園の風習を分かっていないと周りに思われるようなことも出来ない。
考えただけでも大変だし、きっと、考えた以上に大変なのだろう。
風紀委員会の面々を思い出す。前から学園にいた者だって居るだろうそのメンバーたちは、皆キヨ先輩に尊敬と信頼の眼差しを向けていたと思う。
なのに、先程のキヨ先輩の口振りも表情も、まるで親交があったからという理由だけで選ばれたとでも言うようだった。どう見ても、例外であることを誇ってはいない。
「なら、前の委員長は、それを踏まえてもキヨ先輩がなるべきだと思ったってことでしょう」
自分が優秀だから、しっかり役割をこなせるからという理由で選ばれたなんて、キヨ先輩は多分少しも思っていないのだ。
そんなことはないと思うと言いたくて、けれど口をついたのは陳腐な言葉だった。しかもどちらかというと冷たい口調だったような気もする。
特別なことを言いたかったわけでもないけれど、それでも自分を歯がゆく感じる。
自分の思ったことや伝わって欲しい感情を、そのまま相手に渡せないから、もどかしい。けれど、簡潔に伝えられないなら言葉を重ねればいいのだ。
そう思って顔を上げたら、こちらを見たキヨ先輩は微かに驚いた顔をしていて、それから喜色を滲ませて笑ってくれた。
「そうかな」
「―、そう思います。それに、俺はキヨ先輩が委員長でよかったと思ってます」
「そっか。……ありがとう、ハル」
キヨ先輩は、俺が言葉にしたよりも多くを汲み取ってくれた。というよりは、口調とか言葉選びとかそういうことに左右されずに俺が言いたかったことを分かってくれた。根拠もないのに、半ば確信的にそう感じた。
歯がゆさに波立った気持ちが一度に凪いだ。心臓が熱に触れたみたいに熱くなる。
これは、どういう気持ちなのだろうか。
その時、大きく腹の底に響く音が鳴った。周囲から歓声が上がる。続けざまに鳴る音に紛れるように先輩が「始まったな」と俺に笑った。
その背後の空にも、大きな花火が咲いた。
「だよね! お友達も妹さんも一緒にさ。ね?」
「お前ら、普段とキャラ全然違うな……」
「ちょっと、あんたは黙ってて!」
顔を引きつらせた先輩の友達が、一喝されて両手を肩の辺りまで持ち上げる。降参の姿勢だ。
そんなやり取りに苦笑してから、キヨ先輩は首を振った。
「悪いけど、遠慮する」
「ええ、なんでー?」
「ばぁか。連れがいるんだから、当たり前だろ。ほらほら。もう行くぞ」
よいしょ、と立ち上がった谷田さんが、面倒くさそうな表情で友人達に方向転換をさせる。きゃいきゃいと高い声で文句を言われてもどこ吹く風だ。仲は良さげなので問題もないだろう。
彼は最後に振り返って俺たちに手を振った。
「邪魔してごめんなー。清仁、また連絡するわ。江角くんもあやめっちもばいばい」
「ああ」
「谷田くん、ばいばーい」
俺ももう一度会釈をして、まるで嵐のようだったな、と遠ざかる数人分の背中を見送った。
「お姉ちゃんたち、一緒に見たいって言ってたね」
「うん。でも俺はハルとあやめと見たかったから」
俺たちに向かって笑いかける先輩を見て、ふと先程の言葉を思い出した。さっきの人たちを、キヨ先輩は中学が一緒だったと言った。
俺はキヨ先輩が中等部から学園に通っていたとなんとなく勝手に思い込んでいたのだが、違ったらしい。
「キヨ先輩って中学、地元だったんですね」
「ああ、うん。そう、俺も外部生だよ」
言ってなかったっけ、と聞かれて頷く。聞いていたら忘れない。
そうか、先輩も高校からだったのか。
「意外?」
少し意外だなと思ったところで、タイミング良くそう声をかけられた。
「少し。委員長とか会長とか、そういうのはずっと学園にいた人がなってるんだろうなって、勝手に思ってたんで」
「いや、合ってるよ。それが暗黙の了解みたいになってる。そういう人の方が、学園特有のことも理解が深いし。外部生が役職に着くのは珍しい……らしい。俺がちょっと例外なんだよ」
前委員長と親交があったから。そう続けて先輩は困ったように笑った。
夜目にも白い手が伸びて、優しくあやめちゃんの頬をつまむ。俺たちが話しているからか、口は噤んで兄に寄りかかっていた彼女は構われてくすぐったそうに口元を綻ばせる。
キヨ先輩はきっと、委員長として、目に見える以上の苦労をしているのだろうなと思った。
元々内部にいた者には分かって、俺達高校からの編入組には簡単には馴染み難いことを受け入れ、そういうものだと理解した上で、風紀委員会として大人の領分とも言える行動をする。世間一般的に正しくなければいけないのはもちろん、学園の風習を分かっていないと周りに思われるようなことも出来ない。
考えただけでも大変だし、きっと、考えた以上に大変なのだろう。
風紀委員会の面々を思い出す。前から学園にいた者だって居るだろうそのメンバーたちは、皆キヨ先輩に尊敬と信頼の眼差しを向けていたと思う。
なのに、先程のキヨ先輩の口振りも表情も、まるで親交があったからという理由だけで選ばれたとでも言うようだった。どう見ても、例外であることを誇ってはいない。
「なら、前の委員長は、それを踏まえてもキヨ先輩がなるべきだと思ったってことでしょう」
自分が優秀だから、しっかり役割をこなせるからという理由で選ばれたなんて、キヨ先輩は多分少しも思っていないのだ。
そんなことはないと思うと言いたくて、けれど口をついたのは陳腐な言葉だった。しかもどちらかというと冷たい口調だったような気もする。
特別なことを言いたかったわけでもないけれど、それでも自分を歯がゆく感じる。
自分の思ったことや伝わって欲しい感情を、そのまま相手に渡せないから、もどかしい。けれど、簡潔に伝えられないなら言葉を重ねればいいのだ。
そう思って顔を上げたら、こちらを見たキヨ先輩は微かに驚いた顔をしていて、それから喜色を滲ませて笑ってくれた。
「そうかな」
「―、そう思います。それに、俺はキヨ先輩が委員長でよかったと思ってます」
「そっか。……ありがとう、ハル」
キヨ先輩は、俺が言葉にしたよりも多くを汲み取ってくれた。というよりは、口調とか言葉選びとかそういうことに左右されずに俺が言いたかったことを分かってくれた。根拠もないのに、半ば確信的にそう感じた。
歯がゆさに波立った気持ちが一度に凪いだ。心臓が熱に触れたみたいに熱くなる。
これは、どういう気持ちなのだろうか。
その時、大きく腹の底に響く音が鳴った。周囲から歓声が上がる。続けざまに鳴る音に紛れるように先輩が「始まったな」と俺に笑った。
その背後の空にも、大きな花火が咲いた。
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