My heart in your hand.

津秋

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three.

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リビングの窓から射し込む陽射しが強い。朝からこれでは今日はとても暑い日になるだろう。ぼんやりしたまま手の中のグラスを何気なく揺らすと、アイスコーヒーに浮かべた氷が軽やかな音を立てた。
北川が大きなスポーツバッグを抱えて部屋から出てくる。

「あ、江角くん。おはよー」
「はよ、北川。―今日から帰るのか?」
「うん。江角くんはまだ?」
「あーどうだろ、岩見と話して決める」
「仲良しだねぇ」
「帰る場所一緒だから」
ふふっと笑われて肩を竦める。確かに俺たちは一般的に見て仲がいいとは思うけれど。

「今日は岩見くんのところ行かないの?」
いつもならもう行ってるでしょ? と尋ねられる。三ヶ月近く同じ部屋にいれば、お互いの生活リズムも掴める。

「よくわかんねえけど、今日は食堂で食いたいんだって」
「ほぉ?」
「迎えに行くって言ってたしもう来るんじゃない」

言い終えたタイミングで鳴ったチャイムに顔を見合わせる。
ぷはっと吹き出して笑った北川に「以心伝心かよ」と言われ、俺も少し笑ってしまった。


▽▽▽

「見てるだけで重い―」
「寝る前に急に、どうしても食べたくなってね? 朝まで長かったよ~」
唇にデザートスプーンを当ててにんまりと笑う岩見の前には、いわゆる和風パフェが鎮座している。
抹茶とバニラのアイスを頂点に、その下には抹茶のミルクプリン、黒蜜らしき半透明のゼリー、生クリーム、わらび餅に白玉―。ぱっと見ただけでも趣向を凝らして作られたことが分かるボリューム満点のそれが、どうやら今朝の岩見の食事らしい。

対する俺はいつも岩見が作ってくれているような和食。パフェと同じテーブルに並ぶとなんともアンバランスだ。幸せそうにアイスをつつき始めたのを眺めながら、味噌汁に口をつける。

「岩見、いつから帰る?」
「うん? あー……そうだな、タカも居るし、早めに帰ろうとは思ってるよ。まだなんも用意してないけど」
「俺もしてない。つっても用意はすぐ出来るし、じゃあ、もう明日辺り帰るか?」
「そーしよ。エスは休みの間何か予定あるの?」
「ない。から、別に帰んなくてもいいんだけど」

岩見といて、自然に規則正しくなっていた食生活が家に戻ったら乱れてしまいそうだ。父母は殆ど家にいないし、兄も俺も料理は出来ない。俺が小学生の頃までは家事代行サービスというのだろうか、そういう人が来て食事は作り置きされていたが、中学からは適当に食べるようになった。コンビニ弁当とか、スーパーの総菜とか。
普通に美味しいけれど、そういうものは何度も食べると味気なく感じる。

もらした溜息に「どうしたの」と尋ねられた。
「んー……。俺も料理覚えようかな」
「まじで!」
「うん、岩見教えて」
「え、うん。エスが俺でいいなら、いくらでも」
「岩見がいい」
「やだもう、好き!」
「アイス溶けてるけど」
わざとらしく身をくねらせる岩見に指摘すると、すぐに意識はアイスに戻って無言でもぐもぐと食べだした。変わり身が早い。


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