My heart in your hand.

津秋

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two.

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空調の効いた教室で、ぼんやりと数Ⅰの教科書をめくる。説明する教師の声は上滑りして脳まで浸透してこない。必死に聞いても意味を成さないなら、ある程度教科書を読んでおいて後から分からない場所を岩見に教えてもらう方がいい、と今日の俺はもはや諦めの境地にいる。
中間考査が終わって間もないような気がするのに、もう期末考査が二週間と少し先に迫ってきているらしかった。ちらほらと空席があるのは、岩見が言っていた通りに風邪が流行っているからだろう。

ぼんやりとしている内にチャイムが鳴った。終了の声がかけられるより早く教室に雑音が満ちる。授業中が静かな方だからその騒がしさが際立って感じられた。今からは昼休みになるので、俺は机の上を片づけると席を立って教室を出た。

「エス!」
呼び掛けに顔を上げる。ちょうど、Aクラスから出てきた岩見がこちらに手を振っている姿を捉えた。岩見は俺が追い付くのを待って、並んで歩きだした。
「お疲れー」
「ん。今日はどこで食う?」
「どーしよっかね。外、雨は降ってないけどめっちゃじめじめしてるしなぁ」

岩見の言葉に釣られて、窓の外を向く。鈍い色の空に浮かぶ雲は厚くて重そうだ。今日は一日曇りの予報だった。
視線を下に向ければ、壁沿いにずらりと並んだ低木に覆いつくすほど咲く濃い赤紫の花が見えた。つつじ―さつきだっただろうか。確か、この二つはよく似ているのだ。いや、似ているというかつつじの品種のうちの一つがさつきだったような。何かで見たか聞いたかしたのに忘れてしまった。
そういえば紫陽花も咲いていたはずだ、と周囲に視線を走らせたが、あの紫は見つからなかった。この間見かけた紫陽花は一角だけに植えられたものだったのかもしれない。

「エス?」
「―え、ああ」
全然違うことを考えてしまっていた。我に返って、昼食を食べるのに良い場所について考える。
決まった場所を作ってしまえばいいのに、どうしてだか毎度どこで食べようかという会話をしている気がする。お互いの教室は無しだ。購買組でそれなりに賑わっているし、どちらかにとっては馴染みなく落ち着かない場所になる。昼は静かに落ち着いて食べたい。
晴れた日は中庭の噴水前か日当たりのいい体育館の裏が多いけれど、梅雨の間はどうしようか。

「じゃあ、特別棟辺りの空き教室でも行くか」
「あーいいね! そうしよう」
適当に提案してみると、岩見は何の文句もなく頷いた。


空き教室と言えど、清掃は行き届いていて綺麗だ。窓辺の席に腰かけて、岩見が用意してくれた弁当の蓋を開ける。
昨日の夕飯の残りの煮物。砂糖で味付けした卵焼き。なにかこだわりでもあるのか、ウィンナーはいつもたこ足になっている。
ピーマンの和え物はまだ食べたことが無いやつだった。一口食べてぱっと顔を上げると、岩見は卵焼きをつまんだ箸を宙で止めて「どうしたの」と問うてきた。

「これ好き」
「あ、ほんと? それめっちゃ簡単なんだよ。またつくるね」
「うん」

ぽつぽつと会話をしつつ食事をする。ざわめきは遠くて、少し眠くなるような穏やかさがあった。

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