春夏秋冬、能力者の物語

あがり

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ふたつめ

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 俺はポニテ女子に能力者について、立ち振る舞いについて、教えてやった。

 無闇矢鱈に使うような代物じゃないこと、

 普段はあくまでも一般人であること、

 能力を使う際は普段とは見た目を変えること、


 そして、決してもう1人の自分は他人じゃないこと。


 そう───能力を使えることの大前提。


 もう1人の自分がいること。


「色々。ありがと」

「いやぁ、俺は俺に出来ることをしたまでだぜ」

「それじゃ。私は帰るから」

「おう!!」

 ポニテ女子は最初に出会った時とは逆の方向へ向かっていった。すたすたと。

「ま、俺はまだすることがあるんだけどな」

 俺は制服のポケットからケータイを取り出して電話をかける。

 電話の相手は、

《終わったかい?》

「いや、まだだ学級委員。後をつける」

 《了解。直ぐにそっちに向かうよ》

「なるはやで頼むぜ。おそらくあの子、移動距離がものすごいことになってる」

 《そうか、2分くらいでそっちに着くからケータイの電源は切らないでくれよ?》

「わかってるぜ。じゃ」

 俺は通話を切ってポケットにケータイをしまう。

 『さっきの女子、多分発現したのは最近だよな』

 珍しいな片割れ、そっちから話しかけてくれるなんて。俺は感動だぜ。

 『うるさいな、あの女子最近発現している割にはコントロールが出来すぎてるのはわかってるよな 』

 それに関しては俺も同じ意見だ。空気の塊をああも簡単に撃ち込めるウィンドは大抵、発現から日数がたってるはずだ。

 『発現してから間もなくは力を加減できないからな。俺の部屋を水浸しにしたりな』

 まだあん時のこと根に持ってんのかよ。.....悪かったって。そろそろ許せよ。

 『とりあえずあの女子の居場所は念頭に置いておかないといけないな 』

 無視かよ。.....まあ、そうだな。さっきは大人しくしてたけど、結局最後まで自分のことを話そうとはしなかったからな。

 『それに関してはお前が不審者だからだろ。阿呆』

 はあ!?どこがだよ。超フレンドリーな格好いいお兄さんだっただろ。

 『恥ずかしいからまじでやめろ。一応お前は俺なんだから。認めたくないが』

 俺から言わせればお前の方がうだうだしてて嫌だと思うぜ。

 『うるさいな。興味も無いやつに愛想なんかいらねえよ』

 そんなんだからいつも教室で1人なんだろ。

「またせたな。つあき、早く行こうか」

「ん、おう。頼む」

「ようし。んじゃついてきてくれよ?──足跡追跡」

 学級委員の能力は追跡、トラッカー。能力者の居場所を足跡を通じて知ることが出来る。ただし足跡は30分で消えてしまう。

 そうそう、能力者は大きくわけて2つに分けることが出来る。
 世界干渉型と自己完結型だ。
 前者は俺やポニテ女子のようにこの世界に自身の持つの持つ能力を具現化させて使う。
 後者はこの学級委員のように、自身のみ認識することの出来る能力である。自己で完結するだけあってそのバリエーションは計り知れない。

「.....おい?どうしたんだ学級委員」

 さっきから学級委員が動かない。肩に手を置くと学級委員はゆっくりと振り返った。

「なあ、本当にさっきここにあの子いたんだよな?」

「?....ああ、いたけど」

「能力、使ってたんだよな」

「そうだけども、どうかしたのか?」

「無いんだよ」

「無い?」

「足跡が、どこにもないんだ。お前以外....」

 それはいままでで、出会ったことの無いパターンだった。

「なあ、つあき。もしかしてお前、相当なベテランに手を出してしまったんじゃないか」

「いや、それはちが......!?」

 『 有り得るな』

 俺は1つの可能性を完全に考えていなかった。
 そう、
 あのポニテ女子が、未熟である振りをしていた、という可能性だ。

「ならあのポニテ女子は俺たちの管轄下で存在を隠しつつ能力の練習をしてたって言うのか...?」

「それはまだ分からないけれど、可能性としては」

「まじ...かよ...」

「もしそうなら、足跡がつかないことに説明がつく。体を微妙に浮かせれば足跡はつかないからな」

「てことは、能力を常時発動してたってことかよ」

「それだけじゃない。こちら側の能力を完全に把握してる。何故かは分からないけれど」

「は?なんでだ?」

『足跡追跡を警戒して体を浮かしてたからだよ馬鹿』

「派手な戦闘も避けてるし、足跡追跡も警戒してるからなぁ、参ったよ」

「だからといってあのポニテ女子の居場所を把握しない訳にはいかないだろ」

 そうなのである。
 能力というものは、かなりの影響をこの世界に及ぼす可能性がある。基本は何もしないようにした方がこの世界のためにもなるのだ。そのために自分の管轄内の能力者はどれだけいるか、どこにいるか把握しておかなければならない。なにかトラブルがあった時、すぐに解決するために。

「直接あの子の教室に行って事情を話すのはどうだろう?」

「な、何言ってんだ!そのせいで前に大事件になっちまったのを忘れたのか!?」

「いや、まあ、そうだけど....その事件は結局解決したし....」

「まだ他にもああいう組織があるかもしれないんだから、油断はできないだろ」

「そう....だな....」

「第一あの組織まだ本当に壊滅したか分からないだろ」

その時である。例のポニテ女子が姿を現したのだ。

「その話。話してもらってもいいかしら」

『 「「!!!???」」』

 お、おい。気づいてたか、相棒....!?

 『い、いや、全く.....』

「話って、なんのですか?」

 学級委員の声が若干震えてるのがわかる。

「さっきの組織について。よ」

 ポニテ女子は淡々と答える。

「あと 。私別に風を操ってるわけでも。浮いてる訳でもないから」

「ええっ!!!??」

 ど、どういうことだ.....?

「交換条件。組織について話してくれたら。私のことを教えてあげる」

 思わず学級委員の方を見ると、学級委員と目が合った。ゆっくりと、しかし大きく頷く。

「わかった、だけどここでは場所が良くないな。移動して話そうか」

 このポニテ女子が俺たちとは根本的に違うことは、この時はまだ、想像もしていなかった。
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