ホラー短編集

Chaako

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中華料理屋

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伯母は母ととても仲が良く、伯父の仕事の都合で関西に定住した後も娘2人(私の従姉妹にあたる)を連れてよく実家に遊びに来ていた。

その時どこへ旅行したかは覚えていないが、旅行の帰りの日だったと思う。

私の伯母がかなりの旅行好きで、伯母の一家と私の一家は伯母の決めたところならどこにでも着いていく、という性質の団体だったものだから、日本全国色々なところを旅行した。

それもあって、この話の元になった中華料理屋がどの旅行の帰り道にあったのか、聞いても私と同じように誰も覚えてはいなかった。

旅行で疲れたのだろう、私の母、私の弟、従姉妹は眠っている。

伯父は寡黙な人で、ほとんど静かに車を運転していた。

伯母はいつも眠りが浅く、後部座席の起きている人をバックミラーで見つけては話しかけていた。

私は車の振動や周りの声で起きてしまうので、伯母は私が起きるタイミングをよく知っていた。

だから私は伯母の話し相手にしばしばなっていた。

カーナビに付いているデジタルの時計が19:00を示す。

「この辺で晩御飯食べればいいんじゃない?」

沈黙を破って伯母が伯父に話しかける。

「そうするか。」

伯父は静かな声で返した。

「〇〇ちゃん何食べたい?」

いつの間にバックミラーを見たのだろう、起きていることがバレてしまった。

「ラーメンか中華がいい。」

「アホな、ラーメンも中華じゃ。」

伯母が鋭く突っ込むと、伯父も笑っていた。

大通り沿いに幾つかラーメン屋や中華料理屋っぽい看板を見るも、伯母はそれをことごとく斥ける。

当時はその伯母の独特のルールを理解できなかったが、今なら私も分かる気がする。

伯母が急に、

「あそこで右折して!」

と言うと、伯父はその言葉に従い十字路で右折した。

その先には繁盛している飲み屋街が連なっていた。

人の量と外観、雰囲気から味を見極める伯母の目は相当なものだったのだろう。

伯父の信頼がその技量を示唆していた。

そうして間もなく、われわれの晩御飯が決定したのである。

そこは2階建ての大きな民家を改造したと思われる中華料理店だった。

赤の看板が屋根についていたと思うが、漢字4文字、どんな名前だっただろうか。

店の前の駐車場に車を停めると、伯母がみんなを起こす。

「はい着いたよ!ご飯食べるよ!〇〇!〇〇!」

伯母が従姉妹の名前を呼ぶと、私の母と弟も目を覚ました。

「はーい」

従姉がそう返事すると、他のみんなも返事した気になり、黙って車を出ていった。

中華料理屋の1階はカウンター席と4人席が中心で、2階には大人数用の座敷席が広がっていた。

入口には古い漫画が沢山並んでおり、入口近くの椅子で漫画を読んでいる人もいたと思う。

1階の席が埋まっていたので、私たちは座敷席に案内された。

何を食べたかは覚えていないが、私は小さい頃天津麺にハマっていたので、その中華料理屋でも天津麺か、エビチリあたりを頼んだのではないだろうか。

一通り注文が終わると、帰路であまり行けなかったこともありみんなで1階のトイレに行った。

トイレには小さな列ができており、私はたまたま席を立つのが遅かったので最後尾に並んだ。

母が「お先~」などと言うのをしかめっ面で見ながら私は待った。

親族が全員いなくなり、心細い気持ちでトイレに入る。

当時学校の怪談が大人気だったこともあり、トイレは私にとって恐怖の場所でしかなかった。

実家のトイレすらも怖かった。

そう、あの花子さんのせいだ。

私は足早にトイレを立ち去った。

階段を駆け上がって案内された座敷席を探したが、何故か家族が見つからない。

座敷席で他の家族が談笑しているのを見て、それが自分の家族なのではないかと疑い何度も見たが、どれも違っていた。

もしかしてトイレの周りにまだいたのかな、と思って戻ろうとすると上階に続く階段があった。

しまった、案内されたのは3階だったかも、とまた階段を半分以上登った。

登りきらなかったのは、上の異常さに気付いたからである。

3階は薄暗かった上に、1階や2階のように民家らしくはなく、むしろ商業用ビルディングの一室のようだった。

絶対にここじゃない、と冷静になり私は足を止め戻ろうとした。

しかしその刹那、私の心すらも止めるものを見てしまった。

仏像(杖をもった観音菩薩のようだった)がゆっくりと、私の5m先ほどを動いている。

私は突然の異景に動けなくなり、ゆっくりと遠ざかる仏像を汗を流しながら凝視した。

その止まった時間は5分にも、10分にも思えた。

だがその仏像からは敵意を感じなかった。

仏像が何か別のことに夢中になっていて、私に気付く素振りがなかったからだろう。

その時はそう思わなかったが、私は考え事をするときに部屋を歩き回る癖があるので、その仏像は私に似ていると今は思う。

仏像がしきりのようなものに隠れて見えなくなる頃、私はああ~、と小さく声を漏らした。

さすがにもう動けそうだったので階段を降りようとすると、上から呼び止められた。

「どうしたの?迷子?」

私は本当に驚いて飛び上がり、階段の手すりに背中を預けた。

2段ほど落ちた気もする。

どうやら、声の主は3階にいた従業員のお姉さんのようだった。

私は急に逃げたくなり、1階まで降りようとした。

すると、ちょうど親族が話しながら階段を上がってきた。

私がどこに行ってた、と怒りながら聞くと、みんな玄関で漫画を読んでいたという。

「〇〇ちゃんも読んだら良かったのに。」

伯母が冷たく言い放った。

伯母は何も悪くはないが私は酷く腹が立った。

しかし安堵が怒りを打ち消し、階段を気にしながら席についた。

「3階にお化けがいた、仏様。」

私が母にそう伝えると、

「怖いこと言わないで。仏壇?そんなものが上にあるの。」

「いや、仏様が動いてる。」

「あんた目が悪いんじゃない。動いたの見たことない。」

母はそう言うが、俯いて青ざめていた。

中華料理を食べ、帰る頃になってもその階段はあった。

そして大きな違和感は外に出たときに再度現れた。

その中華料理屋は、初めに言ったように2階建てだったからだ。

中にいた頃は3階建てと信じきっていたので、帰りの車ではその話になった。

階段の存在に気付いていたのは母と私だけであり、弟や伯母たちは2階までしかなかったという。

車内では結局、1人で取り残されて漫画を読めなかった腹いせに私が脅かしているということになり、母も階段はなかったかもしれないと発言を翻してしまった。

しかし母自身が霊障を経験していることもあって、あったように見えたけど、とは後で言ってくれたと思う。

さて、動く仏像は異形の存在なので、あのような異空間にいるのは納得だ。

一方で従業員のお姉さんはどうして仕事とは関係なさそうな3階にいたのだろう。

私には、動く仏像よりも一見普通に見えたお姉さんの方がどこか恐ろしくてならなかった。
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