【漫画版公開中】転移先は女子大生の部屋でした‐ある日、美少女姫様とイケメン騎士様が転がり込んできたら‐

原案:トウキ汐・作画:猫倉ありす

文字の大きさ
上 下
32 / 56

本当に欲しいもの④

しおりを挟む
(太一が…私を好き…友だちとしてじゃなくて…異性として…)
「知花、知花…?」

 ヒューズとの二人での買出しの帰り道、ぼんやりと歩いていた知花は再三の呼び掛けにようやく反応を示した。

「大丈夫か?この前から何か様子がおかしいが…」

 考えないようにと思っても、ふと太一のことを考えてしまう。
 バレンタインの日の宣戦布告のような告白から、太一は今までと変わらず普通に接してくる。
 けれど、今の知花は違う。
 太一が傍に寄るだけで鼓動は速くなるし、逃げ出したくなる。

「知花、私では相談相手には向いていないだろうか?」
「ち、違います!!その…私自身が何を悩んでるのかすら分かってない状態で…」
「そういう時に人の意見を聞くものだ」

 確かに相談というのはそういうものだと思う。
 けれど、何処かで知花はヒューズに話すのを躊躇っていた。
 すると知花が一つだけ持っていた買い物袋すら、ヒューズに取られる。

「…話せないなら、これも私が持とう」
「いいえ!他も全部持って貰ってるのに…!」

『じゃあ』という笑顔の圧力により、知花は止む無く口を開いた。

「……太一に…」
「太一?」

「太一に告白されました…」

 その事実を口にした時、あれだけ困惑していたのに反対に心は凪いだ。

「…私も太一のことは好きですけど、今まで異性として意識したことなくて…ずっと…友達だって思ってたので、戸惑ってるだけというか…」

(…そうだ、私、多分…怖いんだ…今までと変わっていくことが…)

 太一と付き合っていると勘違いされることは今までも何度かあった。

 それだけ一緒にいるからだ。
 学校でもバイトでもプライベートでも。

 では、付き合って何が変わるのだろう。

(太一と、キスしたりするの…?)

 多分、颯太の時のように拒絶反応は出ない。
 けれど、太一とそういう関係になっている自分が想像出来なかった。
 どうしてもそれが心の奥で引っ掛かってわからない。

「…良いんじゃないか、彼は。知花の恋人に向いていると思う」

 黙って聞いていたヒューズの言葉に知花の息が止まる。

「初対面の時は随分と失礼な態度を取られたが、あれも知花を想っていたのだと知った今なら、納得できる。確かに口は悪いかもしれないが、よく人を見ている。仕事振りを見る限り、何でも卒なくこなすようだし、ちゃんと気配りも出来る男だ。何よりも知花を大事にするだろう?なかなか、ああいう男は居るものではない…だから……知花?」

(私も、そう思う…だけど…)

 その言葉を聞きながら、知花の頬を何かが伝っている。
 少し冷えた指先に触れたのは、温かい雫だった。

「あ、あれ?何で?何で泣いてるんだろ…」

 溢れ出る涙を必死に掌で拭う。
 けれど止まらない。その上、胸の奥が突き刺すように痛い。

「知花、これを…」

 差し出されたハンカチと、ヒューズの心配そうな表情を交互に見やる。

(私が、泣いている理由…)

『何処が好きなんだ』

 そう問われた時、太一の勘違いだと思った。
 だってヒューズはこの世界の人間ではない。
 いずれ居なくなる人間に恋をするなど馬鹿だと、知花でも思う。
 けれど今、心が押し潰されそうになるほど痛むのは、を見た時だ。

(私…ヒューズさんが好きなんだ…)

 最悪だ。
 他の男性を勧められて、ようやく恋に気付くなんて。
 その上、いなくなってしまう人を想ってしまうなんて救いがない。

「知花!!」

 その声に知花は息を呑んで振り返る。

「太一…何で…」

 知花の泣き顔を見た太一は当然のように怒りを露わにし、一足飛びでヒューズへと迫った。

「おい、お前!知花に何してる!!」

 今にも掴みかかりそうな勢いで、身を乗り出した太一の腕をしがみつき引き止める、二人の間に割って入る。

「…違う!ただ不安定になって泣いただけなの!ヒューズさんは何も酷いこと言っていない!」

 ーーそうだ、彼はただ良かれと思って、自分に恋人として太一を勧めただけだ。

 知花は彼の眼中には無かった。それだけのこと。

(痛い…)

「…この状況で、何でこいつ庇うんだ!」

(やめて…)

「違う…!庇ってなんか!」
「くっそ!!」

 太一が知花の腕を掴むと、そのままヒューズから離れるように歩き出す。

「太一!太一っ!!やめて!待って!!」

 太一は道なりに突き進むと、近くの公園へと辿り着いた。
 足元を照らすには、心許ない街灯ばかりの公園だ。
 昼間ならばランニングや散歩で人がいるが、この時間はもう誰も目につかない。
 暫く進んだ後ベンチすら何もない、薄暗く肌の感覚を奪うような寒さの中で、太一は急に立ち止まった。

「…た、太一…?」

 太一は知花の呼び掛けには答えない。

 背を向けたまま、知花の腕を掴んでいたが、薄暗い中でも歯を食いしばっている様子だけは見てとれた。
 やがて太一が深呼吸をすると、自分を落ち着かせるかのように、ゆっくりと話し出した。

「…お前のこと、知花が幸せならそれだけでいいとか考えてたのに、泣いてる知花を見たらどうでも良くなってくる。分かってるよ…俺が一番馬鹿だって…!」

 振り返り、知花の正面に立つ太一の表情は、今まで一度も見たこともない、切なげな表情で知花を見つめていた。

「知花、好きだ」

 その言葉を聞くと知花の胸は締め付けられるように苦しくなる。

 今の自分ではその気持ちに答えられない罪悪感と、目の前にいる太一が知らない男の人に思えて、怖くて堪らない。

 震える知花の指先に気付いた太一は、握っていた手首から、両手を包み込むように握り返した。

「…悪いことは言わない、俺にしとけ。確かにあの人の方が格好良くて大人かもしれない。でも俺だって、精一杯努力する。知花の良い所も、弱い所も、ぜんぶ引っ括めて、愛してるって、何度だって言ってやる。ずっと、ずっと傍にいてやるから…!」

 苦しい。
 太一の想いにどんどん潰されていく気がする。

「だから、知花…俺を好きになってくれ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...