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騎士様は飛行機が乗れない
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「煌めく海!輝く太陽!そして何処までも広がる青い空!さぁ!やって来ました!南国の別荘地!!…と、まぁ、飛行機を使って此処まで来たけど…ヒューズさん?大丈夫ですか?」
空港の到着ロビーの片隅で、三台のスーツケースに埋もれるように、顔面を青く染めたヒューズがしゃがみ込む。
「姫…姫は平気でしたか?」
今にも吐きそうなのに、騎士としての本分を捨て切れないのか、ヒューズが真っ先に口にしたのは、ソフィアを心配する言葉だ。
けれどその肝心のエクシアルの王女様はというと、夏らしい白いノースリーブのワンピースを靡かせ、従者の心配をよそに存分にはしゃいでいた。
「えぇ!馬車に比べれば快適過ぎたわ!あの空飛ぶ乗り物、エクシアルにも欲しいわね!」
眩しすぎる風貌を更に煌めかせる姫様と、整った顔立ちの輝きさえも失ってしまった騎士様と、対照的な二人を交互に見やり、知花は一先ず切迫した様子のヒューズの世話をすることにした。
「まさか、ヒューズさんが乗り物酔いを起こすとは思いませんでした」
知花は冷えた水をヒューズに手渡した後、彼の隣へしゃがみ込み、小さく丸まった大きな背中をさする。
「…すまない…。何とも情け無い姿を…」
「ふふっ、私ならヒューズさんが普段乗っている馬とか乗れないと思うので、気にしないでください。もう少し落ち着いたら、この先はレンタカー借りて別荘まで直行するので、辛くなったらいつでも言ってくださいね!」
知花がへらりと笑うと、珍しくヒューズが苦笑いをし頷いた。
ヒューズの吐き気も落ち着きを見せた頃、借りた車へと乗り込み、空港から街へ抜ける道中のスーパーで、三日間分の食料と花火を買い込む。
「ここから先、海岸線を走るのでトイレも距離あるんですけど、ヒューズさん私の運転で大丈夫ですか?酔ってません?」
このメンバーで免許を持っているのは、当然知花だけだ。
ペーパードライバーになるのは避けようと、大学の友達と遠出する時はすすんで車の運転をしているが、まだ初心者マーク付きである。
「問題ない。飛行機は耳鳴りが酷くて辛かったが、車なら平気だ」
「良かった!じゃあ、残り一気に走っちゃいますね」
知花はナビをもう一度確認すると、車を発進させた。
買い物をしたスーパーから10分も車を走らせれば、眼前にはキラキラと青い空を映す海岸線が広がる。
何処までも続いていくような海に、ソフィアは感嘆の声を上げた。
「ソフィアちゃんは海は好き?」
「そうね!あまり王宮から出ることは無いから、やっぱり間近で見れるのは嬉しいわ!」
食い入るように窓の外を見るソフィアは、何の気なしに言ったのだろうが、知花の心は複雑だ。
恐らく一国の姫というのは、周りが羨ましがるほど良いものではないのだろう。
自由に旅行に行くことなど出来ないだろうし、そう考えると本当に今のこの状況は、ソフィアにとって貴重な時間なのだと容易に想像できた。
「…ソフィアちゃん、今日はこの後、早速海に行こうか!」
「!!もしかして、アレを着るの!?」
「そうです!!」
ソフィアの頬が紅潮する瞬間は、もう相場が決まっている。
「アレ…とは?」
「あ、ヒューズさんのも勝手ながら選んでおきました!ちゃんと似合いそうなのを選んだので!!その…、一緒に買いに行くと、色々…反対されるかもと思って…」
歯切れの悪い話し方をする知花に、不安気に首を傾げるヒューズだったが、ソフィアに「後でわかるわよ」と窘められると大人しく口を噤む。
やがてメインロードからハンドルを切り側道へ入ると、木々が生い茂った先に広いテラスがあるモダンな一軒家が姿を現した。
「ここです!着きました~!!」
車が優に五台は停められそうな駐車場に、レンタカーを駐車し終えると、三人は車から降りる。
「…普通に立派な家じゃないですか…」
「日本の家にしては広いようだけど?…ここ本当に、知花のお父様の所有なの…?」
「そうだよ~!」
日本に来てから日本の家の狭さを実感していた二人が、驚くような広さだ。
テラスに置かれたソファ等も大型で見るからに高級そうである。
アルバイトをし、外食もほぼせず、スーパーの特売には嬉々として出掛ける知花の意外な一面に、二人は開いた口を閉じるのを忘れ、別荘を眺めていた。
「結構立派でしょ?うちのパパ、実はお金持ちなの」
「知花、アルバイトしてるじゃない…。日本の苦学生はするものだって聞いたわ!必要ないんじゃ…」
「良く聞いて?『パパ』はお金持ち。私は自分の親のお金が、自分のだと思ってないから。まぁ…学費とか家賃とか、十分脛をかじって生きているから、説得力ないけど…。友達と遊ぶ位のお金は自分で…と思ってる」
「…なるほど…でも、それとこれは違うのですね」
スッと指した先は広大な敷地に聳える豪華な別荘。
それに応えるように知花は腰に手を当て「あるものは使う!!」と高らかに謳った。
実際、今使う羽曳野家の人間は日本に知花一人だけなのと、メンテナンスに業者は入るが、定期的に来なければ、あっという間に廃れてしまう。
そういう訳で父に連絡を取ったところ、すんなりと使用許可が下りたのだ。
「じゃあ、早速荷物を運びいれましょう!」
「私が運びますので、お二人は中でお待ちください」
「知花!中を案内してくださる?」
「じゃあ、お風呂!サウナもある!!すっごい広いんだよ!!見に行こう!!」
ソフィアだけでなく、久しぶりの旅行にはしゃぐ知花を、ヒューズは微笑ましげに見ていた。
空港の到着ロビーの片隅で、三台のスーツケースに埋もれるように、顔面を青く染めたヒューズがしゃがみ込む。
「姫…姫は平気でしたか?」
今にも吐きそうなのに、騎士としての本分を捨て切れないのか、ヒューズが真っ先に口にしたのは、ソフィアを心配する言葉だ。
けれどその肝心のエクシアルの王女様はというと、夏らしい白いノースリーブのワンピースを靡かせ、従者の心配をよそに存分にはしゃいでいた。
「えぇ!馬車に比べれば快適過ぎたわ!あの空飛ぶ乗り物、エクシアルにも欲しいわね!」
眩しすぎる風貌を更に煌めかせる姫様と、整った顔立ちの輝きさえも失ってしまった騎士様と、対照的な二人を交互に見やり、知花は一先ず切迫した様子のヒューズの世話をすることにした。
「まさか、ヒューズさんが乗り物酔いを起こすとは思いませんでした」
知花は冷えた水をヒューズに手渡した後、彼の隣へしゃがみ込み、小さく丸まった大きな背中をさする。
「…すまない…。何とも情け無い姿を…」
「ふふっ、私ならヒューズさんが普段乗っている馬とか乗れないと思うので、気にしないでください。もう少し落ち着いたら、この先はレンタカー借りて別荘まで直行するので、辛くなったらいつでも言ってくださいね!」
知花がへらりと笑うと、珍しくヒューズが苦笑いをし頷いた。
ヒューズの吐き気も落ち着きを見せた頃、借りた車へと乗り込み、空港から街へ抜ける道中のスーパーで、三日間分の食料と花火を買い込む。
「ここから先、海岸線を走るのでトイレも距離あるんですけど、ヒューズさん私の運転で大丈夫ですか?酔ってません?」
このメンバーで免許を持っているのは、当然知花だけだ。
ペーパードライバーになるのは避けようと、大学の友達と遠出する時はすすんで車の運転をしているが、まだ初心者マーク付きである。
「問題ない。飛行機は耳鳴りが酷くて辛かったが、車なら平気だ」
「良かった!じゃあ、残り一気に走っちゃいますね」
知花はナビをもう一度確認すると、車を発進させた。
買い物をしたスーパーから10分も車を走らせれば、眼前にはキラキラと青い空を映す海岸線が広がる。
何処までも続いていくような海に、ソフィアは感嘆の声を上げた。
「ソフィアちゃんは海は好き?」
「そうね!あまり王宮から出ることは無いから、やっぱり間近で見れるのは嬉しいわ!」
食い入るように窓の外を見るソフィアは、何の気なしに言ったのだろうが、知花の心は複雑だ。
恐らく一国の姫というのは、周りが羨ましがるほど良いものではないのだろう。
自由に旅行に行くことなど出来ないだろうし、そう考えると本当に今のこの状況は、ソフィアにとって貴重な時間なのだと容易に想像できた。
「…ソフィアちゃん、今日はこの後、早速海に行こうか!」
「!!もしかして、アレを着るの!?」
「そうです!!」
ソフィアの頬が紅潮する瞬間は、もう相場が決まっている。
「アレ…とは?」
「あ、ヒューズさんのも勝手ながら選んでおきました!ちゃんと似合いそうなのを選んだので!!その…、一緒に買いに行くと、色々…反対されるかもと思って…」
歯切れの悪い話し方をする知花に、不安気に首を傾げるヒューズだったが、ソフィアに「後でわかるわよ」と窘められると大人しく口を噤む。
やがてメインロードからハンドルを切り側道へ入ると、木々が生い茂った先に広いテラスがあるモダンな一軒家が姿を現した。
「ここです!着きました~!!」
車が優に五台は停められそうな駐車場に、レンタカーを駐車し終えると、三人は車から降りる。
「…普通に立派な家じゃないですか…」
「日本の家にしては広いようだけど?…ここ本当に、知花のお父様の所有なの…?」
「そうだよ~!」
日本に来てから日本の家の狭さを実感していた二人が、驚くような広さだ。
テラスに置かれたソファ等も大型で見るからに高級そうである。
アルバイトをし、外食もほぼせず、スーパーの特売には嬉々として出掛ける知花の意外な一面に、二人は開いた口を閉じるのを忘れ、別荘を眺めていた。
「結構立派でしょ?うちのパパ、実はお金持ちなの」
「知花、アルバイトしてるじゃない…。日本の苦学生はするものだって聞いたわ!必要ないんじゃ…」
「良く聞いて?『パパ』はお金持ち。私は自分の親のお金が、自分のだと思ってないから。まぁ…学費とか家賃とか、十分脛をかじって生きているから、説得力ないけど…。友達と遊ぶ位のお金は自分で…と思ってる」
「…なるほど…でも、それとこれは違うのですね」
スッと指した先は広大な敷地に聳える豪華な別荘。
それに応えるように知花は腰に手を当て「あるものは使う!!」と高らかに謳った。
実際、今使う羽曳野家の人間は日本に知花一人だけなのと、メンテナンスに業者は入るが、定期的に来なければ、あっという間に廃れてしまう。
そういう訳で父に連絡を取ったところ、すんなりと使用許可が下りたのだ。
「じゃあ、早速荷物を運びいれましょう!」
「私が運びますので、お二人は中でお待ちください」
「知花!中を案内してくださる?」
「じゃあ、お風呂!サウナもある!!すっごい広いんだよ!!見に行こう!!」
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