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持つべきは友②

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 恥ずかしさと後悔とでテーブルに伏せた知花を横目に、未だに太一とヒューズの言い合いは過熱していた。
 そんな中、知花の頭を静観していたソフィアがそっと撫でる。

「ありがとう、ソフィアちゃん…。お姫様な上、天使だった…」
「ふふ、いいのよ。想像以上に面白い現場に遭遇できたから。それにしても、知花はモテるのね!女性一人を男性二人が奪い合うなんて!修羅場大好きなの!!」
「え?修羅…?いや、太一は心配症なだけなのと、ヒューズさんは相手にしてない…」
「そうかしら?ヒューズ、何だかムキになっているように見えるけど…?」

 一方的に絡まれ続けるヒューズの表情をそっと横目で覗いてみるが、仏頂面のままで表情はピクリとも動かない。
 どう見ても面倒くさそうにしているようにしか見えない。

「おい、知花」

 お客の筈のヒューズに散々絡んだ太一は、眉間に皺を寄せたまま知花の前に一枚の紙を差し出した。

「部屋、ここにしろ」

 間取りとしてはリビングへと繋がるの隣の部屋が、珍しくしっかり区切られているタイプだ。
 どうやら元々分譲マンションだったのを、買主が賃貸として出したらしく、アイランドキッチンが置かれた豪華な部屋だ。
 知花もキッチンは広めが嬉しいので上位候補に挙げていた部屋だ。

「一応、太一の理由が聞きたいんだけど…」
「ここの部屋なら、リビングの隣をこの保護者の部屋に出来るだろ。玄関近くの隣り合った部屋は女子で使え」

 つまりは個室ですら、男と隣り合うのは止めろと言いたいらしい。
 知花はしょうもない彼の理由に、苦い表情を浮かべたが、間取りを見直してみても、やはり三人ともしっかり個室を確保出来るのは魅力的だ。
 知花が間取りを凝視していると、隣からひょっこりソフィアが顔を寄せる。

「良いんじゃないかしら?知花とお隣さんごっこが出来るわ。ね、ヒューズ?」
「部屋に関しては、自分はどこでも構いません。睡眠の確保さえ出来れば十分ですし。何だったら押入れでも廊下で寝ても…」
「此処にします」

 知花はヒューズの一言で即決した。
 リビングの隣が引戸で区切れるタイプでも、ヒューズなら文句を言わなさそうだとは予想していたが、流石に国民的キャラクターと同じ押入れと廊下は無い。
 異世界からの来訪者だとしても、せめて日本国憲法らしい、健康で文化的な最低限度の生活を営んで欲しい。

「なんだ。保護者は廊下でもいいんなら…」
「ここにするって言った。太一、契約するから、早く社員さん呼んできて」

 嫌がらせを継続しようとする太一に、契約の催促をして事務所の奥へ追いやると、知花はヒューズに身体を向け告げた。

「ヒューズさんはお仕事かもしれませんが、私はヒューズさんにも、この国の生活を楽しんで貰えたらいいなって思ってますから。…あと、あんまり野宿とか廊下で寝るとか言わないでください。次言ったら怒ります。期間限定でも家族(仮)くらいには仲良くなるつもりなので」

 お節介かもしれないが、大事なことだ。
 知花は言い切ったあと、少し恥ずかしくなり顔を背けた。

 ヒューズは目を見開いたまま知花を見つめていたが、やがて口元を緩めると穏やかな表情で頷いた。

「ふふ…もう…ヒューズが尻に敷かれているわ…!!」
「やっぱり、全力で阻止すべきだったか…」

 両手で口元を押さえ、花のような可憐な笑いを漏らすソフィアと、それとは対照的に苦虫を嚙み潰したような表情の太一が、知花とヒューズを見ていた。

 ***

「知花…あの男に言い寄られたらすぐに俺に言えよ?言っとくけど、油断してる相手が一番危険なんだから…」

 無事、契約を終えた三人が店を出ようとした時、知花は太一に呼び止められ、また釘を刺されていた。

「その理論で言うと、太一も含まれない?」
「…俺はいいの」

 それは一体どんな理論なのか。
 前屈みになり表情を窺おうとする知花から、太一は逃げるようにぎこちなく身体を逸らしていく。

「…とにかく…困ったことがあれば、いつでも言えよ…。知花が困ってることなら、何だって助けてやるから…」

 徐々に小さくなっていった声だったが、知花の耳にはちゃんと届いていた。

「へへ。いつもありがとう。太一のそういうとこ好きぃ」

 口煩いけれど、何やかんや言いつつ、最後まで手伝ってくれるし、友達想いのいい奴だと思う。

 油断しきった笑顔を向けると、太一は片手で顔を隠したまま『さっさと引っ越し準備してこい』とだけ告げ、振り返ることもなく店へと戻っていった。

(…ありがとう。高校から変わらずに友達で居てくれてることに、私は救われてるよ)

 知花はその後ろ姿を見送ると、静かに待っていたソフィアとヒューズへと向き直す。

「…では、早速ですがお引越しスタートです!」
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