20 / 34
第二十話 琴音の実力
しおりを挟む
「今回の相手は『ディアぺルノケロス』、巨大な一角を有するサイ型のモンスターだ。速度はそこまでだが重量の乗った突進の破壊力は速度を補ってあまりある。遅いからって油断はしないようにな」
「わかりましたわ」
寛太と会って数日、いよいよ三人で初の依頼を受けることとなった。
受注ランクはD,もう少し簡単なものからとも思ったが、琴音の強い要望でこのランク帯の討伐依頼を受けることにした。
少し不安ではあるが、彼女の実力はCランク相当と聞いているし、それだけで判断するならこれでも問題はないということにはなる。
ランクも上がったことでより表情に緊張感の増したれんとは裏腹に、琴音は上機嫌で少し浮かれているようにも見える。
ずっとこの光景を目指していたのだろうが、さすがに危険域で気を抜きすぎだった。
「れん、周囲の警戒は怠らないようにな」
「わかってます。なんだか少し危なっかしいですから」
「あら、それは心外ですわね。私はいつでも戦えるように身構えておりますわよ?」
「それならもうちょい態度に示してくれ。メンバーはお前だけじゃないんだからな」
モンスターとの実践訓練はおそらく琴音はやってこなかったはずだ。
対人戦での訓練、言うなれば騎士団に入るためのものといった方が正しいくらいのはずだ。
つまり実力に反してこうした状況での動き方を琴音はあまりわかっていない。それは動きを見ていてもよくわかるし、パーティーメンバーとの連携にも不安が残る。だが実践を重ねないとこうした部分は身に付かないことは多い。
頑固ではあるが勉強熱心なタイプのようだし、徐々に改善していくことだろう。
今は代わりに諒とれんが周囲の警戒を徹底し、急に襲われても対処できるよう構えていた。
「・・・」
「・・・?諒様、どうかされたのですか?」
「ん?・・・いや、なんでもない」
「本当ですか?少し元気がないようですけど」
「依頼に支障はない。体調は万全だからな」
しばらく三人で歩いている時、ふと諒は妹達のことを思い出していた。この間寛太から「今は同い年くらいじゃないか?」と言われたことが原因だ。
気にしないようにしていたが、改めてこの状況になるとどうしてもそれは脳裏をよぎった。
しかもどんな偶然か、れんと琴音、そして諒の記憶にある妹二人はどこか似通っている。
姉の茉白は人懐っこく明るい性格で村の大人達からも可愛がられていた。そして家族を振り回していた自由奔放さは琴音からもその面影が少し垣間見れた。
そして幽奈は姉とは正反対に内向的で家の中にいることが多い子だ。しかし家族に対しては結構強く出ることもあり、特に好き勝手する茉白のことを諒に代わってたしなめていた。そんな強さも併せ持つ幽奈は少しれんと似たものを感じる。
今のれん達を見ているとまるで妹達が成長した姿なのではないかと思えてしまう。だが諒は首を振って思考を追い払った。
依頼中には雑念にしかならないし、そんなことを考える資格も今の諒にはない。
「そろそろのはずだ。琴音、もう少し近くにいろ」
「わかりました」
今回の依頼地は周りが岩に囲まれた山岳地帯。風の鳴き声しか響かないこの空間では音はより敏感に鼓膜を刺激する。
さらにターゲットのディアぺルノケロスは大きさでは及ばないものの重量はオーガ以上だ。その足音は重厚でこの環境下では発覚は比較的しやすい。
もう足音は聞こえてくる。三人はそれを頼りに慎重に歩を進めた。
「よし、いたな。二人とも準備はいいか?」
「はい」
「もちろんですわ」
すぐにその姿は見えてきた。
体高は人間よりもでかく、不気味な光を帯びる一角は鋭く発達しており諒の刀と同じくらいの長さを誇る。
あんなもので貫かれれば一たまりもない。周りに立ち並ぶ頑丈な岩でさえも粉々にしてしまうだろう。
三人は一度身を潜め、最後に作戦を確認する。
モンスターを前にしてさすがの琴音の表情にも緊張が走っていた。少し諒は安心した。集中しなければならないところではちゃんとできているようだ。
諒は頷いて合図すると一気に走り出した。
琴音とれんもそれに続く。ディアぺルノケロスも三人に気づいたようだ。首を回してこちらに視線を向けると煩わしそうに鋭い一角をこちらに向けて構える。
「下手に受け止めず回避に専念しろよ」
「わかっておりますわ」
そのままディアペルノケロスは前衛の二人に猛進する。
この威力の突進は受け止めることは難しい。さらには一角を下手に止めようとすれば逆に貫かれかねない。
まず回避を徹底し、その隙を狙うのがセオリーだ。
二人は突進を回避すると素早く態勢を立て直して一気に距離を詰める。
「はあああ!!」
琴音の槍がディアペルノケロスに吸い込まれる。
最初の一撃は見事命中し、琴音は笑顔を浮かべてさらに追撃とばかりに槍を構えなおす。
「あまり深入りするな!」
しかし諒が琴音の襟をつかんで無理やり後退させる。
彼女は驚いて疑問の表情を諒に向けるが、その瞬間さっきまで琴音のいた位置に向かってディアペルノケロスの角が振るわれた。
奴はただ角を使った突進以外にも長さと強度を生かして周囲一帯を薙ぎ払うこともできる。突進を封じたからと言って深入りは禁物だ。
二人が回避行動をとるとれんが態勢を立て直す時間を作るために矢で援護する。
「よくもやってくれましたわね」
危うく角に薙ぎ払われかけた琴音は怒りの表情を浮かべるとれんの矢で足を止めている隙に一気に距離を詰め、その自慢の角を掴む。
「おい、琴音?」
「この借りは三倍にして返してやりますわ!」
一体を何を考えているのか、諒が口を開いた瞬間ありえない光景が目の前で起きる。
琴音が力を込めるとディアペルノケロスの身体がどんどん持ち上がり始めたのだ。
恐ろしい怪力だ。重量は数百キロはあってもおかしくないような相手をまさか持ち上げるなんて。
目を丸くしている間にもさらにディアペルノケロスの巨体は持ち上がっていき、そして琴音は力いっぱい投げ飛ばす。
グオオオ!!
奴にとっても投げられた経験など無いだろう。
苦痛と驚きが入り交ざった声を上げながら地面に落下し、すさまじい地響きを上げながらその体が横倒しになる。
「どんなもんですの!」
「油断するな。まだ倒してないんだぞ」
投げ飛ばして満足した様子の琴音だったがそこに驚きから復帰した諒が厳しい声をかけて走り出す。
信じられないことだがとにかくこの好機を逃す手はない。一瞬で距離を詰めると諒は刀を振りかぶる。
「竜剣技・刃翼『太刀風』!」
隙だらけの身体に諒の剣技が吸い込まれる。
ディアペルノケロスは苦悶の悲鳴をあげるが何とか体を起こそうともがく。
しかしそこに遅れてきた琴音の槍撃とれんの矢を受け、力を失ったように地面に伏した。
乾いた地響きを最後に残し、その余韻が消える前に体は光に包まれ消滅した。
「やりましたわね、諒様!」
「ああ、よくやったな琴音」
討伐を確認すると琴音は満面の笑みで諒に駆け寄ってきた。
いくつか言いたいこともあったが、ひとまず諒も笑顔を返した。
諒に褒められ、琴音は至上の幸福とでも言わんばかりの崩れ切った笑顔をこぼしていた。
「れんもよくやった。今回もいい援護だった」
「ありがとうございます」
諒は遅れて駆け寄ってきたれんの頭を撫でてやる。
初めての三人での依頼だったが、れんの射撃は適格だった。経験を通して自分のやるべきことを直感的にも見極められるようになっているのだろう。
琴音はまだパーティーとしての行動に粗はあるが、ポテンシャルは抜群だ。彼女も経験を通してよりよい成長を見せるだろう。
いい収穫を依頼で得られ、三人は上機嫌に街に帰還した。
「わかりましたわ」
寛太と会って数日、いよいよ三人で初の依頼を受けることとなった。
受注ランクはD,もう少し簡単なものからとも思ったが、琴音の強い要望でこのランク帯の討伐依頼を受けることにした。
少し不安ではあるが、彼女の実力はCランク相当と聞いているし、それだけで判断するならこれでも問題はないということにはなる。
ランクも上がったことでより表情に緊張感の増したれんとは裏腹に、琴音は上機嫌で少し浮かれているようにも見える。
ずっとこの光景を目指していたのだろうが、さすがに危険域で気を抜きすぎだった。
「れん、周囲の警戒は怠らないようにな」
「わかってます。なんだか少し危なっかしいですから」
「あら、それは心外ですわね。私はいつでも戦えるように身構えておりますわよ?」
「それならもうちょい態度に示してくれ。メンバーはお前だけじゃないんだからな」
モンスターとの実践訓練はおそらく琴音はやってこなかったはずだ。
対人戦での訓練、言うなれば騎士団に入るためのものといった方が正しいくらいのはずだ。
つまり実力に反してこうした状況での動き方を琴音はあまりわかっていない。それは動きを見ていてもよくわかるし、パーティーメンバーとの連携にも不安が残る。だが実践を重ねないとこうした部分は身に付かないことは多い。
頑固ではあるが勉強熱心なタイプのようだし、徐々に改善していくことだろう。
今は代わりに諒とれんが周囲の警戒を徹底し、急に襲われても対処できるよう構えていた。
「・・・」
「・・・?諒様、どうかされたのですか?」
「ん?・・・いや、なんでもない」
「本当ですか?少し元気がないようですけど」
「依頼に支障はない。体調は万全だからな」
しばらく三人で歩いている時、ふと諒は妹達のことを思い出していた。この間寛太から「今は同い年くらいじゃないか?」と言われたことが原因だ。
気にしないようにしていたが、改めてこの状況になるとどうしてもそれは脳裏をよぎった。
しかもどんな偶然か、れんと琴音、そして諒の記憶にある妹二人はどこか似通っている。
姉の茉白は人懐っこく明るい性格で村の大人達からも可愛がられていた。そして家族を振り回していた自由奔放さは琴音からもその面影が少し垣間見れた。
そして幽奈は姉とは正反対に内向的で家の中にいることが多い子だ。しかし家族に対しては結構強く出ることもあり、特に好き勝手する茉白のことを諒に代わってたしなめていた。そんな強さも併せ持つ幽奈は少しれんと似たものを感じる。
今のれん達を見ているとまるで妹達が成長した姿なのではないかと思えてしまう。だが諒は首を振って思考を追い払った。
依頼中には雑念にしかならないし、そんなことを考える資格も今の諒にはない。
「そろそろのはずだ。琴音、もう少し近くにいろ」
「わかりました」
今回の依頼地は周りが岩に囲まれた山岳地帯。風の鳴き声しか響かないこの空間では音はより敏感に鼓膜を刺激する。
さらにターゲットのディアぺルノケロスは大きさでは及ばないものの重量はオーガ以上だ。その足音は重厚でこの環境下では発覚は比較的しやすい。
もう足音は聞こえてくる。三人はそれを頼りに慎重に歩を進めた。
「よし、いたな。二人とも準備はいいか?」
「はい」
「もちろんですわ」
すぐにその姿は見えてきた。
体高は人間よりもでかく、不気味な光を帯びる一角は鋭く発達しており諒の刀と同じくらいの長さを誇る。
あんなもので貫かれれば一たまりもない。周りに立ち並ぶ頑丈な岩でさえも粉々にしてしまうだろう。
三人は一度身を潜め、最後に作戦を確認する。
モンスターを前にしてさすがの琴音の表情にも緊張が走っていた。少し諒は安心した。集中しなければならないところではちゃんとできているようだ。
諒は頷いて合図すると一気に走り出した。
琴音とれんもそれに続く。ディアぺルノケロスも三人に気づいたようだ。首を回してこちらに視線を向けると煩わしそうに鋭い一角をこちらに向けて構える。
「下手に受け止めず回避に専念しろよ」
「わかっておりますわ」
そのままディアペルノケロスは前衛の二人に猛進する。
この威力の突進は受け止めることは難しい。さらには一角を下手に止めようとすれば逆に貫かれかねない。
まず回避を徹底し、その隙を狙うのがセオリーだ。
二人は突進を回避すると素早く態勢を立て直して一気に距離を詰める。
「はあああ!!」
琴音の槍がディアペルノケロスに吸い込まれる。
最初の一撃は見事命中し、琴音は笑顔を浮かべてさらに追撃とばかりに槍を構えなおす。
「あまり深入りするな!」
しかし諒が琴音の襟をつかんで無理やり後退させる。
彼女は驚いて疑問の表情を諒に向けるが、その瞬間さっきまで琴音のいた位置に向かってディアペルノケロスの角が振るわれた。
奴はただ角を使った突進以外にも長さと強度を生かして周囲一帯を薙ぎ払うこともできる。突進を封じたからと言って深入りは禁物だ。
二人が回避行動をとるとれんが態勢を立て直す時間を作るために矢で援護する。
「よくもやってくれましたわね」
危うく角に薙ぎ払われかけた琴音は怒りの表情を浮かべるとれんの矢で足を止めている隙に一気に距離を詰め、その自慢の角を掴む。
「おい、琴音?」
「この借りは三倍にして返してやりますわ!」
一体を何を考えているのか、諒が口を開いた瞬間ありえない光景が目の前で起きる。
琴音が力を込めるとディアペルノケロスの身体がどんどん持ち上がり始めたのだ。
恐ろしい怪力だ。重量は数百キロはあってもおかしくないような相手をまさか持ち上げるなんて。
目を丸くしている間にもさらにディアペルノケロスの巨体は持ち上がっていき、そして琴音は力いっぱい投げ飛ばす。
グオオオ!!
奴にとっても投げられた経験など無いだろう。
苦痛と驚きが入り交ざった声を上げながら地面に落下し、すさまじい地響きを上げながらその体が横倒しになる。
「どんなもんですの!」
「油断するな。まだ倒してないんだぞ」
投げ飛ばして満足した様子の琴音だったがそこに驚きから復帰した諒が厳しい声をかけて走り出す。
信じられないことだがとにかくこの好機を逃す手はない。一瞬で距離を詰めると諒は刀を振りかぶる。
「竜剣技・刃翼『太刀風』!」
隙だらけの身体に諒の剣技が吸い込まれる。
ディアペルノケロスは苦悶の悲鳴をあげるが何とか体を起こそうともがく。
しかしそこに遅れてきた琴音の槍撃とれんの矢を受け、力を失ったように地面に伏した。
乾いた地響きを最後に残し、その余韻が消える前に体は光に包まれ消滅した。
「やりましたわね、諒様!」
「ああ、よくやったな琴音」
討伐を確認すると琴音は満面の笑みで諒に駆け寄ってきた。
いくつか言いたいこともあったが、ひとまず諒も笑顔を返した。
諒に褒められ、琴音は至上の幸福とでも言わんばかりの崩れ切った笑顔をこぼしていた。
「れんもよくやった。今回もいい援護だった」
「ありがとうございます」
諒は遅れて駆け寄ってきたれんの頭を撫でてやる。
初めての三人での依頼だったが、れんの射撃は適格だった。経験を通して自分のやるべきことを直感的にも見極められるようになっているのだろう。
琴音はまだパーティーとしての行動に粗はあるが、ポテンシャルは抜群だ。彼女も経験を通してよりよい成長を見せるだろう。
いい収穫を依頼で得られ、三人は上機嫌に街に帰還した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる