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第二話 Eランク
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パーティー脱退から一夜、諒は朝早くから家を出ていた。昨夜の一件で全く眠れていなかったが、あれ以上家に居ても気持ちの整理がつく気はしなかった。
まだ早朝ではあるものの、ここ「央都セントリア」は既に活気が満ちており、沈んでいた諒を暖かく迎えていた。
世界で最も発展した街であり、「来る者すべてを歓迎する街」とも言われている。普段はやかましいことこの上ないが、今はこの街にギルドが存在しているのをありがたく思った。
ギルドは諒達冒険者を管理する組織だ。対モンスターを専門の生業とし、道をふさぐモンスターや街に迫るモンスター、時には危険地帯に侵入して採取を行ったりもするのが冒険者の仕事だ。
総勢で言えば世界でも有数の規模だが、ギルドはこの央都に設置された本部一つですべてをまとめ上げている。
その数もあって四六時中開いているが、どの時間帯でも密度は中々すごい。
唯一ましなのは今、早朝の時間帯だ。ギルドには酒場や冒険者用の道具購入など依頼以外にも出来ることは多いが、夜に使われるのは基本的に酒場。施設の地下にあるのだが夜は一階の受付ホールも酒場と兼用で運営されているくらいだ。
しかし朝まで騒ぐ奴も珍しい。早朝の時間帯には大体の冒険者は寝静まり、人が戻り始めるのにもラグがあった。
早朝に家を出たのもこれが一つの理由だった。今からやらなければいけないことを考えればあまり騒がしいのは好ましくない。
諒の期待通り、中に入るとさすがにぽつぽつと人はいるが、普段の密度と比べればはるかに落ち着いている。
散漫な人の波を抜け、諒はまっすぐと受付に向かった。
「おはようございます、戸上さん」
「諒さん・・・はい。おはようございます」
受付嬢の戸上莉彩(とがみりさ)は諒の挨拶に少し迷いのある表情で返した。
どうやら士はあの後すぐにギルドに向かっていたようだ。諒の脱退の話は既に彼女の耳に届いているらしい。
「諒さん。パーティー、やめちゃったんですね」
「・・・あなたもいつかこうなるとわかっていたでしょう」
「そうですね・・・それでもちょっと残念です」
莉彩はまだ18と諒より一つ年下だが、受付嬢として人と接し続けてきた経験からか、年齢よりも随分大人びて見えた。
そう見えるのは諒だけではないようで、莉彩は冒険者達にとってはお姉さんのような存在で、よく悩みや愚痴を聞いている姿が目に入っている。
諒もその例に漏れず、莉彩は彼らの事情についてかなりの理解があった。
そんな彼女と顔をあわせるのは非常に気まずいものがありはしたが、いつか会うことになるのであればこのタイミングは最適だったのかもしれない。
「今日は冒険者登録の更新をしに来ました」
「・・・わかりました。諒さんの実力なら高ランクパーティーに移籍することだって出来ます。募集しているパーティーはいっぱいありますから、思う存分悩んで決めてください」
莉彩はそう言ってパーティーの募集一覧を取り出して諒に渡した。
実際のところ最初から答えは決まっていたが、一応諒はそれを受け取っていくらかページをめくっていった。
パーティーの募集はそれぞれだ。規模を大きくしたいと思えばこうしてギルドに申請して広く募集を行うことも出来るし、縁のあった冒険者を直接スカウトしたりもできる。
今回の募集に関しても形態や要件は様々だ。
強さだけを求めるところもあれば、特定の能力を探すところもある。諒の元のランクはA、この実力なら同ランクのパーティーに移籍も可能だし、低ランクのパーティーともなれば募集要件に合っていなくとも歓迎してくれるところだってあるだろう。
それほどまでに諒の持つAランクというカードの威力は絶大なものだった。
しかし、その募集の波に当たってみても諒の意見が変わることはなかった。心を決めるように一度深呼吸し、莉彩に一覧を返す。
「移籍するつもりはありません。ソロで登録してください」
「ソロですか?それは構いませんけど・・・本当にいいんですか?」
「ええ、昔のあいつみたいな奴に会うのは一筋縄ではいきませんから。しばらくはのんびりとやるつもりです」
「そうですか。確かに今の諒さんにはその方がいいかもしれませんね。でも、気が変わったらいつでもいってください。私の紹介で良いパーティーを探しますから」
莉彩は意外そうにもう一度確認したが、諒の意見はもう変わらない。
その意志を汲み取ってか、莉彩はそれ以上は言葉を重ねずゆっくりと頷いて登録用紙を取り出した。
彼女がパーティーへの移籍を勧めるのには当然理由がある。というより、勧めない人間の方が少ない。
パーティーからソロに転向する時、パーティーでいたときのランクや実績はすべてリセットされる。どんなに高ランクでいてどんな功績を上げようが、ソロになった瞬間に最低ランクのEからの再スタートとなる。
以前はランクも引き継がれていたようだが、パーティーでの実力とソロでの実力の差から無謀に高ランクの依頼にソロで行って大けがをする例が後を絶たず、改めてソロの実力を再確認するという意味を込めて今のシステムになったらしい。
とはいえ、しかるべき実力を見せればランクはすぐに戻すことも当然可能だ。実績も無くなるとはいえ、これまで培ってきた実力まで消えるわけではない。
そしてこれまでにソロでも様々な依頼をこなしてきた諒なら、すぐにAランクとは言わずとも、ソロとしては非常に高いランクにまで戻れることは間違いない。ただ、もうそんなランクにこだわる必要も今の諒にはなかった。
そんなことを考えている内に書面も書きあがったようだ。
莉彩は一度内容を見返してから諒に書類を見せる。
「では、霧矢諒さんをソロとして登録を更新させていただきます。承諾いただけましたら、こちらに署名をお願いします」
「わかりました」
もう迷う事は無い。確認もほどほどに諒は書類に署名した。
これで一からのスタートになったわけだ。冒険者として10年近く経つが、Eランクだったのはもう何年前だったか思い出せないくらいだ。
ある意味では新鮮さすら感じる。
冒険者登録の更新もすぐに終わった。Aランクの冒険者証はそれなり豪華さのあるものだったが、Eランクは言うのもなんだが結構適当なつくりだ。これなら偽造なんてし放題じゃないかとも思えるが、実際に起こったという話は聞かないのが不思議なくらいだ。
このまま一度帰ってこれからの身の振り方でも考えようかと迷ったが、今のまま家でゴロゴロしていても気が滅入るだけだと思い直した。
「じゃあ早速依頼を受けることにしますよ。今は何がありますか?」
「はい、こちらがEランクの依頼ですね」
諒は渡された依頼一覧を眺める。普段見慣れている依頼よりも随分と簡単な内容の数々・・それも採取依頼が大半を占めていた。
基本的に採取をするのは一部の危険地帯をのぞいて大体が低ランクの仕事だ。しかし、ある程度経験を積んだ冒険者はモンスターとの戦いを好んで採取はやりたがらない。結果として、採取依頼はほとんどの場合余っている。
いつでもモンスターと戦えるような状況なら少しくらい余力を採取に回そうという奴もいそうだが、ギルドは無暗に冒険者を外に駆り出すことはしない。原則として依頼で受注した対象のみとの戦闘を許可している。
その分戦えるモンスターは限られてくるし、依頼される数より冒険者の母数はそれをはるかに上回っている。
それなら採取なんかで時間を使っていられないというのも分からなくはない。
「・・・これは全部北の森でそろえられますね。この三つを受けることにします」
「この三つですね。採取依頼を受けていただけるのはこちらとしてもありがたいです」
手始めに採取クエストを受けることにした。モンスターの依頼も無くはないが、身の振りを考えるのに戦いに赴くというのは避けたかった。
その割には経験者としての知識を使ってまとめて複数依頼を片付けにいくわけだが、まあ採取なんて一つずつこなしていたらそれこそたまっていく一方だ。
まとめて済ませられるならそうするのに越したことはない。
莉彩も中々片付かない採取依頼が受注されてどこか嬉しそうに手続きをする手が踊っていた。
「場所はここから北の『マロウの森』ですね。それではお願いします」
「ええ、行ってきます」
複数の採取なら荷物は軽い方がいい。準備もほどほどに諒は目的地に向けて出発した。
まだ早朝ではあるものの、ここ「央都セントリア」は既に活気が満ちており、沈んでいた諒を暖かく迎えていた。
世界で最も発展した街であり、「来る者すべてを歓迎する街」とも言われている。普段はやかましいことこの上ないが、今はこの街にギルドが存在しているのをありがたく思った。
ギルドは諒達冒険者を管理する組織だ。対モンスターを専門の生業とし、道をふさぐモンスターや街に迫るモンスター、時には危険地帯に侵入して採取を行ったりもするのが冒険者の仕事だ。
総勢で言えば世界でも有数の規模だが、ギルドはこの央都に設置された本部一つですべてをまとめ上げている。
その数もあって四六時中開いているが、どの時間帯でも密度は中々すごい。
唯一ましなのは今、早朝の時間帯だ。ギルドには酒場や冒険者用の道具購入など依頼以外にも出来ることは多いが、夜に使われるのは基本的に酒場。施設の地下にあるのだが夜は一階の受付ホールも酒場と兼用で運営されているくらいだ。
しかし朝まで騒ぐ奴も珍しい。早朝の時間帯には大体の冒険者は寝静まり、人が戻り始めるのにもラグがあった。
早朝に家を出たのもこれが一つの理由だった。今からやらなければいけないことを考えればあまり騒がしいのは好ましくない。
諒の期待通り、中に入るとさすがにぽつぽつと人はいるが、普段の密度と比べればはるかに落ち着いている。
散漫な人の波を抜け、諒はまっすぐと受付に向かった。
「おはようございます、戸上さん」
「諒さん・・・はい。おはようございます」
受付嬢の戸上莉彩(とがみりさ)は諒の挨拶に少し迷いのある表情で返した。
どうやら士はあの後すぐにギルドに向かっていたようだ。諒の脱退の話は既に彼女の耳に届いているらしい。
「諒さん。パーティー、やめちゃったんですね」
「・・・あなたもいつかこうなるとわかっていたでしょう」
「そうですね・・・それでもちょっと残念です」
莉彩はまだ18と諒より一つ年下だが、受付嬢として人と接し続けてきた経験からか、年齢よりも随分大人びて見えた。
そう見えるのは諒だけではないようで、莉彩は冒険者達にとってはお姉さんのような存在で、よく悩みや愚痴を聞いている姿が目に入っている。
諒もその例に漏れず、莉彩は彼らの事情についてかなりの理解があった。
そんな彼女と顔をあわせるのは非常に気まずいものがありはしたが、いつか会うことになるのであればこのタイミングは最適だったのかもしれない。
「今日は冒険者登録の更新をしに来ました」
「・・・わかりました。諒さんの実力なら高ランクパーティーに移籍することだって出来ます。募集しているパーティーはいっぱいありますから、思う存分悩んで決めてください」
莉彩はそう言ってパーティーの募集一覧を取り出して諒に渡した。
実際のところ最初から答えは決まっていたが、一応諒はそれを受け取っていくらかページをめくっていった。
パーティーの募集はそれぞれだ。規模を大きくしたいと思えばこうしてギルドに申請して広く募集を行うことも出来るし、縁のあった冒険者を直接スカウトしたりもできる。
今回の募集に関しても形態や要件は様々だ。
強さだけを求めるところもあれば、特定の能力を探すところもある。諒の元のランクはA、この実力なら同ランクのパーティーに移籍も可能だし、低ランクのパーティーともなれば募集要件に合っていなくとも歓迎してくれるところだってあるだろう。
それほどまでに諒の持つAランクというカードの威力は絶大なものだった。
しかし、その募集の波に当たってみても諒の意見が変わることはなかった。心を決めるように一度深呼吸し、莉彩に一覧を返す。
「移籍するつもりはありません。ソロで登録してください」
「ソロですか?それは構いませんけど・・・本当にいいんですか?」
「ええ、昔のあいつみたいな奴に会うのは一筋縄ではいきませんから。しばらくはのんびりとやるつもりです」
「そうですか。確かに今の諒さんにはその方がいいかもしれませんね。でも、気が変わったらいつでもいってください。私の紹介で良いパーティーを探しますから」
莉彩は意外そうにもう一度確認したが、諒の意見はもう変わらない。
その意志を汲み取ってか、莉彩はそれ以上は言葉を重ねずゆっくりと頷いて登録用紙を取り出した。
彼女がパーティーへの移籍を勧めるのには当然理由がある。というより、勧めない人間の方が少ない。
パーティーからソロに転向する時、パーティーでいたときのランクや実績はすべてリセットされる。どんなに高ランクでいてどんな功績を上げようが、ソロになった瞬間に最低ランクのEからの再スタートとなる。
以前はランクも引き継がれていたようだが、パーティーでの実力とソロでの実力の差から無謀に高ランクの依頼にソロで行って大けがをする例が後を絶たず、改めてソロの実力を再確認するという意味を込めて今のシステムになったらしい。
とはいえ、しかるべき実力を見せればランクはすぐに戻すことも当然可能だ。実績も無くなるとはいえ、これまで培ってきた実力まで消えるわけではない。
そしてこれまでにソロでも様々な依頼をこなしてきた諒なら、すぐにAランクとは言わずとも、ソロとしては非常に高いランクにまで戻れることは間違いない。ただ、もうそんなランクにこだわる必要も今の諒にはなかった。
そんなことを考えている内に書面も書きあがったようだ。
莉彩は一度内容を見返してから諒に書類を見せる。
「では、霧矢諒さんをソロとして登録を更新させていただきます。承諾いただけましたら、こちらに署名をお願いします」
「わかりました」
もう迷う事は無い。確認もほどほどに諒は書類に署名した。
これで一からのスタートになったわけだ。冒険者として10年近く経つが、Eランクだったのはもう何年前だったか思い出せないくらいだ。
ある意味では新鮮さすら感じる。
冒険者登録の更新もすぐに終わった。Aランクの冒険者証はそれなり豪華さのあるものだったが、Eランクは言うのもなんだが結構適当なつくりだ。これなら偽造なんてし放題じゃないかとも思えるが、実際に起こったという話は聞かないのが不思議なくらいだ。
このまま一度帰ってこれからの身の振り方でも考えようかと迷ったが、今のまま家でゴロゴロしていても気が滅入るだけだと思い直した。
「じゃあ早速依頼を受けることにしますよ。今は何がありますか?」
「はい、こちらがEランクの依頼ですね」
諒は渡された依頼一覧を眺める。普段見慣れている依頼よりも随分と簡単な内容の数々・・それも採取依頼が大半を占めていた。
基本的に採取をするのは一部の危険地帯をのぞいて大体が低ランクの仕事だ。しかし、ある程度経験を積んだ冒険者はモンスターとの戦いを好んで採取はやりたがらない。結果として、採取依頼はほとんどの場合余っている。
いつでもモンスターと戦えるような状況なら少しくらい余力を採取に回そうという奴もいそうだが、ギルドは無暗に冒険者を外に駆り出すことはしない。原則として依頼で受注した対象のみとの戦闘を許可している。
その分戦えるモンスターは限られてくるし、依頼される数より冒険者の母数はそれをはるかに上回っている。
それなら採取なんかで時間を使っていられないというのも分からなくはない。
「・・・これは全部北の森でそろえられますね。この三つを受けることにします」
「この三つですね。採取依頼を受けていただけるのはこちらとしてもありがたいです」
手始めに採取クエストを受けることにした。モンスターの依頼も無くはないが、身の振りを考えるのに戦いに赴くというのは避けたかった。
その割には経験者としての知識を使ってまとめて複数依頼を片付けにいくわけだが、まあ採取なんて一つずつこなしていたらそれこそたまっていく一方だ。
まとめて済ませられるならそうするのに越したことはない。
莉彩も中々片付かない採取依頼が受注されてどこか嬉しそうに手続きをする手が踊っていた。
「場所はここから北の『マロウの森』ですね。それではお願いします」
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