上 下
237 / 237

魔法省人事録(12)

しおりを挟む
ドラゴン。その存在は学者達を大いに悩ませる存在の一つであった。魔法においては魔法の根源など原初から考えられたことと同様に魔物、強いてはドラゴンの存在について深く言及する者がいる。

始祖は魔族、魔族の根源とされた地下空間から派生し、生まれたという説。竜人種が野生化もしくは突然変異し、長年を得て今の様々な形のドラゴンに生まれ変わった説など多岐にわたる。

というか訳の分からないことだらけのことが多すぎる。どのくらいかで言えば天文学くらいである。

「ポイズンドラゴンかー、の中でも上位種っぽいのだね」

「ただのポイズンドラゴンじゃなさそうね」

ロベルトとメアリーはいち早く、目の前に相対するドラゴンが只者でないことに気づいていた。

「ま、あの空飛ぶ狼よりは幾分かマシかなあ、一発でも攻撃が当たったら即落ちするけど」

何もマシじゃねえ。俺は心の中でそう呟いた。

さて、目の前にいるドラゴンの特徴はと言うと、鎌脚状の四足で歩みを進め、一対の羽、緑色の鎧のような皮膚を纏った大型のドラゴンである。

ただ、何かおかしいのはそういう姿をしているということだけは分かる。分かるのだがはっきりと居場所が掴めない感覚に何故か陥るのだ。

「ボヤケてんな」

「多分幻影よ。私もよく姿を把握できない」

メアリーでさえもはっきりと姿は見れないらしい。どうやら視界を紛らわす幻影があのドラゴンにはあるらしい。

「気をつけて、あれがイェラネヒウドラゴンなら鎌爪には毒がある」

「え、なんて?」

「鎌爪には毒がある」

「いやその前、何ドラゴン?」

「イェラネヒウドラゴン!なんで一回で聞き取れないわけ!?」

…超発音しにくいドラゴンだってことは分かった。あとそんな怒らなくてもよくない?

「あのですね、お二人さんお二人さん、来ますよ?」

その瞬間、鎌爪がすぐ手前まで来ていることに気づいた。足元を掬う形で攻撃してくる。

「ヒャア」

ロベルトが間の抜けた声でサラリと避けていく。というより透過して攻撃を避けている。多分魔法の力だろう。

メアリーも空を飛んで避けた。道具なしで魔法が使える人間だからこそできる臨機応変。それはロベルトにも言えることだが。

じゃあ俺はと言うと、本である。まだこちとら異空間収納から取り出せてすらいないんだぞ!

「……」

俺は複雑な内心そのままに飛んで避けようとする。なんてことはない。足元を掬ってきているのだから飛べば避けれる。若干靴に掠りそうだが。

「ちなみにその鎌って毒以外にも強酸性が含まれてるらしいから注意ね」

「おい」

遅いねん。もう靴掠ったねん。ジュワジュワ行ってんねん。

「……」

俺は黙って本を取り出し、魔法で靴の腐敗を消した。

「さてさて、ポイズンドラゴン系統の弱点は大体氷です。だから極点にこいつはいないって言うね…………」

ロベルトが訳の分からないことを言っているが、とりあえず氷が弱点らしい。

「なら、話が早いわ」

そう言うとメアリーは空を飛んだ状態のまま、ドラゴンを取り囲むように氷の石柱を出現させる。

「…もうあいつ一人でいいんじゃないかな?」

どっかで聞いたことのあるような台詞をロベルトが吐いた時、氷の石柱は地面に突き刺され、そこから無数の氷塊となってドラゴン一直線に向かって爆散していく。

グオオオオオ!!!!!!

ここで初めてドラゴンが悲鳴を上げた。その悲鳴は周囲一帯を木霊させる。

「よし、このまま一気に…!」

「待て!待つんだ!若いの!」

その時だった。視界の端のほうかは急ぎ足でこちらへと向かってきた人物に気づいた。

「お婆さん!?」

「待て…駄目じゃ…」

お婆さん…ヨモ婆は息をゼイゼイ切らしながらも待てと言ってくる。この状態で待つのはこのドラゴンを倒すこと以外存在しないように思えるがどういうことだ…

「そいつ…そいつは…ドラゴンではない…」

「へ…?」

いやどこからどう見てもドラゴンですよと言おうとしたその矢先、ヨモ婆は言った。

「そいつは竜人だ」

「…へ」

「そいつは今暴走しておる…竜人は竜の力を解放し、竜そのものに変化できる。今そやつは変化した後の存在なんじゃよ…」

「…メアリー!」

「え、う、うん…」

メアリーはすぐさま魔法のこれ以上の発動を止めた。

やがて氷塊の中から人の手のような物が出てきたのはまた後の話である。





しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

胚芽米
2021.09.26 胚芽米

Thank you!

解除
花雨
2021.08.10 花雨

お気に入り登録しときますね♪

胚芽米
2021.08.10 胚芽米

Thank you!

解除

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。