231 / 237
魔法省人事録(6)
しおりを挟む
魔法省。ロベルトとも知り合ったのもここだった。そしてロベルトとも親しい仲になってきた頃
「…知ってる?ロディ」
「何をだ?」
「あのメアリーとか言う女のこと、俺らより2年くらい先に入ってきた奴でさ、一応は俺らの先輩的な扱いらしいよ」
「そうらしいな」
「で面白い話が一つ、そいつ実技テストで100点満点取ったって噂」
「100点?」
「またテスト方式じゃなくて加点式なんだけど、そのくらいほぼ圧倒されるような魔法とかそういうのを使えるって話」
「つまり?」
「魔法省にいる中で一番強いかもね~って話、世の中はとても広いから分かんないけどさ。また二つ名持ちが世界に増えるかも」
「ふ~ん」
その後、メアリーは俺達の前にいた。何故だったか、職員同士の組み合わせがあったはずだがそれがメアリーだった気がする。
そしてその律儀な性格にうんざりした。ロベルトはそれはそれで楽しんでいたようだが。
「あいつほんとに強いのか…」
と疑う日々もあった。その力はほとんど人間には使わない。冒険者ギルドから矢継ぎ早に任された魔物退治も大抵誰でも使えそうな魔法で一撃で葬り去るから。
____________________
そして今、俺は彼女を見ていた。雨と風と稲妻が混ざった塊を浮かばせる彼女の姿を。
そしてその手はラルゲイユスの方へ向けられる。その瞬間その塊は分裂を繰り返し、水、風、雷の音を鳴らしながら放たれて行く。
ラルゲイユスはその塊を頭部に生えた剣で切り裂いて行く。剣がその塊に触れるたびに弾け飛んでいく。
ラルゲイユスは距離を取りながらまた空中に浮かぶ。そして再びの咆哮により、雷を天から呼び寄せる。程なくして嵐が再び戻ってくる。
『奴だ…奴が一番危険だ。何故…奴は…』
ラルゲイユスは独り呟きながら稲妻を放っていく。
だがラルゲイユスは気づいていない。先程の攻撃は全てこの一撃のための過程ということを。
雷が鳴る。再び光が放たれる……そして青い光がラルゲイユスを襲う。
「ん?」
おかしい。確かラルゲイユスが稲妻を呼び寄せた瞬間、ラルゲイユスの真下の地面から青い光が上空に向かって放たれたのだ。要は攻撃を防ぐために逆に先制攻撃してやったということだろう。
「わー、あれは魔族とかそういうやべーのに効きそうな魔法やー」
ロベルトが隣で青い光の解説をしてくれたが、イマイチ分からない。
ラルゲイユスは呻くことはなかったが、苦悶の表情を浮かべる。そしてその場を動くことはなかった。
青い光が消えると同時にラルゲイユスは地面にバタン!と大きい音と瓦礫による煙を上げながら落ちていく。
「見事見事、倒しちゃったのそのまま?」
ロベルトは俺の頭越しにメアリーに気さくそのままに話しかけるが、メアリーはこちらをチラリと見るだけだった。
「…真面目にやれって言われちゃったね。よし、後処理するぞー!皆ー!」
ロベルトの掛け声にそれまでジッと見ているだけの魔法省職員、俺含めてが自分の役割を思い出し、すぐ様ラルゲイユスに向かって走り出す。
「瀕死の者は遠くに運んでいけ!」
「対魔族用の魔導具は!?」
「全員始末の準備に取りかかれ!」
ラルゲイユスはおそらくこの後、殺されるだろう。おそらくあの青い光ではまだ死んでいない。あれだけ天候を操れる力があるのだ。そう簡単には死なないだろう。
その始末には俺も賛成するつもりでいた。ただ気がかりなのはただ一つ、メアリーのことだけだ。
はっきり言って何者かも分からない奴だ。魔法省で抜け出たあれ程の強さ、一体何者なのか…。たまにそういう桁違いの奴という者はどの分野にいてもいるのだが。
「…にしても魔族が襲撃に来るとはね~、従者うんぬんの話も気になるし、何よりこれからの研究が捗るぞ~、少しでも死体の一部を回収さえできれば…うん!」
ロベルトは勝手にそう喜んでいるが、無視して俺もラルゲイユスの方に向かおうとした時だった。
パチという音。
俺は目を見合わせる。隣のロベルトは不思議な顔をしてラルゲイユスの方を見ていた。同じく隣で空中に浮かぶメアリーも。
再びパチという音。
腕のあたりがゾワゾワするのを感じた。
またパチという音。
今度は体全体でヒリヒリとした。一瞬指の先から黄色い光が見えた。まるで雷のような。
そして…またパチという音。
その瞬間だった。
空間を斬り裂くような残影、それが何重にも渡って通り過ぎていく。体の感覚が消えていくのを感じる。何が起きたのか全く分からない。気付けば地面に横たわっている。
上手く動けない。考えられない。息ができているかも分からない。
それも俺だけじゃない。全員だ。メアリーもロベルトも他の職員も全員倒れている。
『…これは九死の力、となれば我は死の淵にいたということか』
狼の声だけが聞こえる。
『我は雷の化身、全ての灯火を操る者。人の子よ、それはお前達自身の灯火による結末だ。やがて来る死を待つがいい。それが我が従者の報いとなる』
「…知ってる?ロディ」
「何をだ?」
「あのメアリーとか言う女のこと、俺らより2年くらい先に入ってきた奴でさ、一応は俺らの先輩的な扱いらしいよ」
「そうらしいな」
「で面白い話が一つ、そいつ実技テストで100点満点取ったって噂」
「100点?」
「またテスト方式じゃなくて加点式なんだけど、そのくらいほぼ圧倒されるような魔法とかそういうのを使えるって話」
「つまり?」
「魔法省にいる中で一番強いかもね~って話、世の中はとても広いから分かんないけどさ。また二つ名持ちが世界に増えるかも」
「ふ~ん」
その後、メアリーは俺達の前にいた。何故だったか、職員同士の組み合わせがあったはずだがそれがメアリーだった気がする。
そしてその律儀な性格にうんざりした。ロベルトはそれはそれで楽しんでいたようだが。
「あいつほんとに強いのか…」
と疑う日々もあった。その力はほとんど人間には使わない。冒険者ギルドから矢継ぎ早に任された魔物退治も大抵誰でも使えそうな魔法で一撃で葬り去るから。
____________________
そして今、俺は彼女を見ていた。雨と風と稲妻が混ざった塊を浮かばせる彼女の姿を。
そしてその手はラルゲイユスの方へ向けられる。その瞬間その塊は分裂を繰り返し、水、風、雷の音を鳴らしながら放たれて行く。
ラルゲイユスはその塊を頭部に生えた剣で切り裂いて行く。剣がその塊に触れるたびに弾け飛んでいく。
ラルゲイユスは距離を取りながらまた空中に浮かぶ。そして再びの咆哮により、雷を天から呼び寄せる。程なくして嵐が再び戻ってくる。
『奴だ…奴が一番危険だ。何故…奴は…』
ラルゲイユスは独り呟きながら稲妻を放っていく。
だがラルゲイユスは気づいていない。先程の攻撃は全てこの一撃のための過程ということを。
雷が鳴る。再び光が放たれる……そして青い光がラルゲイユスを襲う。
「ん?」
おかしい。確かラルゲイユスが稲妻を呼び寄せた瞬間、ラルゲイユスの真下の地面から青い光が上空に向かって放たれたのだ。要は攻撃を防ぐために逆に先制攻撃してやったということだろう。
「わー、あれは魔族とかそういうやべーのに効きそうな魔法やー」
ロベルトが隣で青い光の解説をしてくれたが、イマイチ分からない。
ラルゲイユスは呻くことはなかったが、苦悶の表情を浮かべる。そしてその場を動くことはなかった。
青い光が消えると同時にラルゲイユスは地面にバタン!と大きい音と瓦礫による煙を上げながら落ちていく。
「見事見事、倒しちゃったのそのまま?」
ロベルトは俺の頭越しにメアリーに気さくそのままに話しかけるが、メアリーはこちらをチラリと見るだけだった。
「…真面目にやれって言われちゃったね。よし、後処理するぞー!皆ー!」
ロベルトの掛け声にそれまでジッと見ているだけの魔法省職員、俺含めてが自分の役割を思い出し、すぐ様ラルゲイユスに向かって走り出す。
「瀕死の者は遠くに運んでいけ!」
「対魔族用の魔導具は!?」
「全員始末の準備に取りかかれ!」
ラルゲイユスはおそらくこの後、殺されるだろう。おそらくあの青い光ではまだ死んでいない。あれだけ天候を操れる力があるのだ。そう簡単には死なないだろう。
その始末には俺も賛成するつもりでいた。ただ気がかりなのはただ一つ、メアリーのことだけだ。
はっきり言って何者かも分からない奴だ。魔法省で抜け出たあれ程の強さ、一体何者なのか…。たまにそういう桁違いの奴という者はどの分野にいてもいるのだが。
「…にしても魔族が襲撃に来るとはね~、従者うんぬんの話も気になるし、何よりこれからの研究が捗るぞ~、少しでも死体の一部を回収さえできれば…うん!」
ロベルトは勝手にそう喜んでいるが、無視して俺もラルゲイユスの方に向かおうとした時だった。
パチという音。
俺は目を見合わせる。隣のロベルトは不思議な顔をしてラルゲイユスの方を見ていた。同じく隣で空中に浮かぶメアリーも。
再びパチという音。
腕のあたりがゾワゾワするのを感じた。
またパチという音。
今度は体全体でヒリヒリとした。一瞬指の先から黄色い光が見えた。まるで雷のような。
そして…またパチという音。
その瞬間だった。
空間を斬り裂くような残影、それが何重にも渡って通り過ぎていく。体の感覚が消えていくのを感じる。何が起きたのか全く分からない。気付けば地面に横たわっている。
上手く動けない。考えられない。息ができているかも分からない。
それも俺だけじゃない。全員だ。メアリーもロベルトも他の職員も全員倒れている。
『…これは九死の力、となれば我は死の淵にいたということか』
狼の声だけが聞こえる。
『我は雷の化身、全ての灯火を操る者。人の子よ、それはお前達自身の灯火による結末だ。やがて来る死を待つがいい。それが我が従者の報いとなる』
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
入り婿予定の婚約者はハーレムを作りたいらしい
音爽(ネソウ)
恋愛
「お前の家は公爵だ、金なんて腐るほどあるだろ使ってやるよ。将来は家を継いでやるんだ文句は言わせない!」
「何を言ってるの……呆れたわ」
夢を見るのは勝手だがそんなこと許されるわけがないと席をたった。
背を向けて去る私に向かって「絶対叶えてやる!愛人100人作ってやるからな!」そう宣った。
愚かなルーファの行為はエスカレートしていき、ある事件を起こす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる