現代転生 _その日世界は変わった_

胚芽米

文字の大きさ
上 下
228 / 237

魔法省人事録(3)

しおりを挟む
前の事態から3日、その日は珍しく雷雨の日だった。そのため昼間から真っ暗、そしてジメジメとする湿気が辺り一面を覆っていた。

時おりガラガラという雷の音が聞こえ、魔法省の施設にいる全員がかなりうんざりとしているようだった。

俺とロベルトは例の魔族の死体について、施設内の例の図書館で話していた。

「あの魔族の死体は、解剖って言うんだっけか?とにかく何故死んでたのかそういうのをここで調べるらしい」

「へぇ…」

ロベルト曰く、その魔族の容姿はと言うと一言で言えばかなり異形だったらしい。

目は四つ、手足合わせた物が四つ、草食動物に近く、顔は鼻から下の部分が先出ており、クチバシのような口角が特徴らしい。そして頭に二つの特徴的な角がある、と。

「…手と足合わせた物が二つなんだよな?」

「らしい。そしてなんと驚くべきことに!こいつの全身を覆う白い体毛が全部生き物みたいにウネウネ動くらしい。これで絡め取ってあんなことこんなことしてるんじゃないかなって俺は思う」

「体毛が触手?」

「簡単に言えばそうだ。これだから魔族の魅力はだな…」

ここから先のロベルトの話が長くなりそうだなと思っていた時だ。

ガラガラガラ!!!!

「うおっ…」

「わー、また落ちたなー」

ロベルトの呑気な言葉通り、どこかに雷が落ちたらしい。音の大きさからするとかなり近い。

「なあ、この地域ってこんな雨降ってたか?」

「まあ珍しいな…あ?」

不意にロベルトが顔を歪ませる。何かに引っかかったと言った顔だ。

「ロディ、この雷雨ただの天気なんかじゃないな。これは…」

その時だった。

ガラガラガラ!!!!!!

雷だ。それも近くとかそういうレベルじゃない。この建物に落ちた。それと同時に何やら騒ぎが起きる。

段々と明確になるにつれて、分かった。

「襲撃、襲撃だ!魔物の襲撃d……」

声の主は次に聞こえた雷鳴によって消えた。そのまま稲妻に巻き込まれ、消し炭になった。

気付けば魔法省の施設には穴が開いていた。そこから吹き荒れる風と雨がどんどんと入ってくる。そして何より危ないのはそこから稲妻が普通ありえない方向、横から入ってきていることだ。

「ロディ!」

ロベルトの声に引かれて、俺は正面のドアに向かい、外に出ようとする。

だがそれを阻むかのように稲妻がドアから突き抜ける。それに巻き込まれた数人が消し炭となる。

しかしロベルトがその稲妻に手をかざすと、稲妻をサーッと霧のように消える。

「…知性があるなぁ。ドアから人間が入る出るってことが分からないとこんな攻撃はしない。それにこの施設一点に攻撃してるのも…」

「何言ってんだこんな時に!?」

俺は本を異次元から取り出した。収納の魔法程度なら道具なしでも使える。

「魔物に知性があるのなんてそんないない。ましてこんな攻撃仕掛けてくるなんて、ね」

格好良く決めたつもりのロベルトだが、それをガラガラガラの共に崩れる施設の壁と天井から溢れるかのように稲妻が入ってくる。

「これは一体…何なんだ!」

俺は本のページをパパッと開き、対処しようとする。が、本は本なので魔法の発動はそのぶん、遅れる。

「まあ任せろ」

俺が対処する前にロベルトが稲妻を掻き消したようだ。それと同時に壁が崩れ、外の光景が露わになる。

吹き荒れる雨風、ほとばしる稲妻、そしてヒビ割れのように崩れる周囲の建物、その真上にいたのは

はっきり見える三本指の足が四つ、獣のような見た目でその腰の部分に一対の羽、三本の尻尾、風によって靡く黒い体毛。

一言で表せば空飛ぶ大きな狼だ。顔は狼そのものだった。そしてその咆哮は雷の音と同じだった。

空飛ぶ狼は稲妻を纏わせ、唸り声を上げていた。

昼間だと言うのに夜のように真っ暗な中のそれは圧倒的な威厳を持ち合わせていた。

「あんな魔物…見たことない…なんだあれ…」

俺は思わずそう呟いていた。程なくして背後から次々と魔法省の人間が外に出てくる。

「討伐するぞ!あれは危険だ!全員で取りかかれ!」

誰かがそう言った。魔法省は基本有能な人間の集まりと評されているからか、行動は早かった。

俺もすぐ様あれを倒そうと思った。全員が隊列のように外に出て、散らばる中、ロベルトがあれを凝視しながら呟いた。

「あれはやばいぞ。魔物じゃない、あれは魔族だ」

「は!?」

ロベルトの発言は雷雨に遮られたのか、魔法省の人間は杖やら何やらで魔法を発動させようとする。だが次の瞬間には全員が圧巻とした。

『人の子よ、聞くがよい。我が名はラルゲイユス』

その声は雷鳴と共に響いた。天からの囁きのような声、どこから出ているかは分からない。

だが声の主だけは皆、自然と分かった。例の空飛ぶ狼なのだと。

声は続いた。

『我は従者ナルバエスを取り戻しにきた。そこにいるはずだ』

声はそう語りかけてきた。

「ナルバ…エス?」

ナルバエスとはそもそも誰だ?そんな名前の奴を聞いたことはない。

『人の子よ、覚悟するがいい』

狼はそう言った。





 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!

ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。 姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。 対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。 能力も乏しく、学問の才能もない無能。 侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。 人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。 姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。 そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。

マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。 空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。 しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。 すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。 緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。 小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

処理中です...