177 / 237
第152話 東京駅(2)
しおりを挟む
通路の横に位置する東京駅のトイレ。そのトイレの男子トイレ側からまだ物音が続いていた。
ヒカルが先陣をきっていく。その後を俺がついていく形だが…
慎重に中へと足を進める。緑色のガスが多少だが薄くなったその時だった。
バン!
突然、個室トイレのドアが開き、中から人が出てくる。
「…あぁ、なんだよクソッ!俺の人生…!」
「…ほえ?」
「…え?人…?」
そこから現れたのはサラリーマンらしき青年の男性だった。きちんと締められた黒いネクタイと黒のスーツ姿は就活生を思わせる。顔には青い縁のメガネをかけており、白のマスクをしている。
「…ってなんだよそれ!」
その男性はこちらを見てぎょっと目を見開く。緑色のガスは構造上の関係か、ここまでは来ていないようだが。
「…あ、やべ」
ヒカルは何かに気づいたのかそう漏らす。何もかもが異常な状況だが…ヒカルの手にはがっちりと拳銃が握られている。
「…えっと長くなるんですけどぉ、僕達犯人とかそういうのじゃなくてぇ」
「な、君達子供だろ?それにどこでそんな物騒な拳銃を…?ガスマスクも付けてるし」
「予備のマスクも一応ありますよ」
そう言うとヒカルは黒のトートバッグからガスマスクを取り出す。これはここに来る前、謎のあの男からバッグ事渡された物だ。
中には二つのガスマスクが入っている。
「…?そうなのか…ってならないだろ。大体君達は一体…?」
「説明すると長くなるんですけど…たまたま拾った物で人助けしてるって思ってください」
ヒカルは面倒くさそうに頭を掻く。
「…?え?拾った?大体助けは?」
「この駅全体が終わってるんで時間かかります。あと…このガス、皮膚に浸透するんで早めに出ないと終わります」
「…そうなのか?何はともあれ助かったと?」
「そういうことです…マスクしてたのは運が良いですね」
「あぁ、そうなのか…な?」
その男性は何やら戸惑ったような表情をマスク越しにしたように見えた。次の瞬間、耳に手を当て、マスクを外す。
「…火傷」
「この火傷が救ってくれた。僕の命を…」
「そうなんですか…」
ヒカルとその男性の会話に俺は思わず割り込む。それまで一言も話さなかった俺に男性は手短に話してくれた。
「…2ヶ月前くらいだったかな。三重県の新鉄四日市駅で火事にあったっぽくてね。あまり覚えてないんだけど火災現場近くの生き残りは僕一人だけだったらしい」
「それって…」
ヒカルは驚いたのか目を見開きながらそれを聞き入る。俺は何か記憶に引っかかるようなもどかしさを感じたが、段々とそれが繋がりハッとなる。
三重県の新鉄四日市駅…この火事は魔王の幹部の一人がしでかしたもののはずだ。まさか…その被害者がここにいるとは…
「仕事も顔のせいで失ったし、それで新しい仕事を見つけてここに来たらこのざまだよ。ニューヨークへの旅行も頓挫しちゃったしさ。あーあ…」
「そうですか。でも大丈夫と思いますよ」
「え?」
ヒカルの淡白な言い分にその男性はポカンとする。ガスマスクのシュコーという空気音をきっかけに再びヒカルが話し出す。
「まだ生きてるんですから。死んでないでしょ?やり直せますよ」
「やり直せる…か。良い事を言うね。でもそのガスマスクは他の人にあげてほしい。まだ他に生きてる人に」
「いいんですか?」
「あぁ」
「…………」
その後は静寂がしばらく続いた。やがてヒカルはその場を後にする。
「え?どこ行くの?」
「駅の反対側。早くしなきゃその分人が死ぬから」
「でも目の前の人は…」
「いいんだよ。いいから早く来て、というか来い」
ヒカルの有無を言わさぬ口調に釣られ、俺は後に付いていく。後ろを見ると悲しげもなくただ穏やかな顔をした青年がそこにいた。
ヒカルが先陣をきっていく。その後を俺がついていく形だが…
慎重に中へと足を進める。緑色のガスが多少だが薄くなったその時だった。
バン!
突然、個室トイレのドアが開き、中から人が出てくる。
「…あぁ、なんだよクソッ!俺の人生…!」
「…ほえ?」
「…え?人…?」
そこから現れたのはサラリーマンらしき青年の男性だった。きちんと締められた黒いネクタイと黒のスーツ姿は就活生を思わせる。顔には青い縁のメガネをかけており、白のマスクをしている。
「…ってなんだよそれ!」
その男性はこちらを見てぎょっと目を見開く。緑色のガスは構造上の関係か、ここまでは来ていないようだが。
「…あ、やべ」
ヒカルは何かに気づいたのかそう漏らす。何もかもが異常な状況だが…ヒカルの手にはがっちりと拳銃が握られている。
「…えっと長くなるんですけどぉ、僕達犯人とかそういうのじゃなくてぇ」
「な、君達子供だろ?それにどこでそんな物騒な拳銃を…?ガスマスクも付けてるし」
「予備のマスクも一応ありますよ」
そう言うとヒカルは黒のトートバッグからガスマスクを取り出す。これはここに来る前、謎のあの男からバッグ事渡された物だ。
中には二つのガスマスクが入っている。
「…?そうなのか…ってならないだろ。大体君達は一体…?」
「説明すると長くなるんですけど…たまたま拾った物で人助けしてるって思ってください」
ヒカルは面倒くさそうに頭を掻く。
「…?え?拾った?大体助けは?」
「この駅全体が終わってるんで時間かかります。あと…このガス、皮膚に浸透するんで早めに出ないと終わります」
「…そうなのか?何はともあれ助かったと?」
「そういうことです…マスクしてたのは運が良いですね」
「あぁ、そうなのか…な?」
その男性は何やら戸惑ったような表情をマスク越しにしたように見えた。次の瞬間、耳に手を当て、マスクを外す。
「…火傷」
「この火傷が救ってくれた。僕の命を…」
「そうなんですか…」
ヒカルとその男性の会話に俺は思わず割り込む。それまで一言も話さなかった俺に男性は手短に話してくれた。
「…2ヶ月前くらいだったかな。三重県の新鉄四日市駅で火事にあったっぽくてね。あまり覚えてないんだけど火災現場近くの生き残りは僕一人だけだったらしい」
「それって…」
ヒカルは驚いたのか目を見開きながらそれを聞き入る。俺は何か記憶に引っかかるようなもどかしさを感じたが、段々とそれが繋がりハッとなる。
三重県の新鉄四日市駅…この火事は魔王の幹部の一人がしでかしたもののはずだ。まさか…その被害者がここにいるとは…
「仕事も顔のせいで失ったし、それで新しい仕事を見つけてここに来たらこのざまだよ。ニューヨークへの旅行も頓挫しちゃったしさ。あーあ…」
「そうですか。でも大丈夫と思いますよ」
「え?」
ヒカルの淡白な言い分にその男性はポカンとする。ガスマスクのシュコーという空気音をきっかけに再びヒカルが話し出す。
「まだ生きてるんですから。死んでないでしょ?やり直せますよ」
「やり直せる…か。良い事を言うね。でもそのガスマスクは他の人にあげてほしい。まだ他に生きてる人に」
「いいんですか?」
「あぁ」
「…………」
その後は静寂がしばらく続いた。やがてヒカルはその場を後にする。
「え?どこ行くの?」
「駅の反対側。早くしなきゃその分人が死ぬから」
「でも目の前の人は…」
「いいんだよ。いいから早く来て、というか来い」
ヒカルの有無を言わさぬ口調に釣られ、俺は後に付いていく。後ろを見ると悲しげもなくただ穏やかな顔をした青年がそこにいた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
スキル【レベル転生】でダンジョン無双
世界るい
ファンタジー
六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。
そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。
そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。
小説家になろう、カクヨムにて同時掲載
カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】
なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる