現代転生 _その日世界は変わった_

胚芽米

文字の大きさ
上 下
151 / 237

第127話 如何にして悪へと堕ちたか(2)

しおりを挟む
気づけば魔物の死体が重なっていた。火は鎮火し、他のギルドから冒険者の応援もやって来た。

「おい!あんた大丈夫か?」

若い冒険者はボロボロな私を見て、そう声をかける。

「平気だ歩ける。それより彼女…もう一人の騎士は?」

「もう一人の騎士?ここにはあんた一人しかいなかったぞ」

「なっ…まさか魔物に攫われたのか…」

彼女に背後を任せ、目の前にいる魔物のみに集中していた自分を悔いる。もっと周囲を
見ておけば…だが冒険者は慌てる様子もなく

「いやそれはない。ここに来るまでの間、魔物達は一匹残さず俺達が狩っといた。人一人攫って逃げ出す量は見てないぞ」

「それは…本当か?」

「ああ、嘘じゃねぇよ。それよりあんただ。魔法省で治してもらったほうがいいだろ」

「いや、大丈夫だありがとう。悪いがちょっとここを離れていいか?」

「あぁ、構わないが?」

どうやら彼女は無言で立ち去ったらしい。せめて一声かけてくれればよかったと思ったが。

いや、もし彼女がこの場で剣を振るったことがバレればまずいだろう。王族は野蛮という話がでてもおかしくない。ましてや城を抜け出してまで魔物を斬りにきたとなれば。

もちろん好意的に国民を守ろうとしたと捉える人もいるだろう、いやほとんどそうだろうがあの王族はかなり批判されるのが嫌いだ。彼女という芽は紡ぐはずだ。

私は周りの冒険者達を尻目に王城へと帰った。

それからは事は早く進んだ。

「多くの国民がこの国を死守したお主を讃え、そして希望している。彼に下の名を与えよと」

王城にて王は威厳ある声でそう言った。

下の名。いわゆる家名、貴族などの身分の高い者にのみ使われれ、区別用語として生まれた新しい名前。

下の名の制度は国によって違うが、ほとんどの国が採用し、功績ある者の中から少数与えられる。

そしてヴェルムート王国という名は、彼ら一族の下の名、ヴェルムートからきていた。

「今日からお主はヴェルムート創設者の親衛隊隊長の名であるヘルグレンを与えよう。心して受け取るがよい」

なお、この国では下の名は王族と貴族が決める。

「バルトシュタイン ヘルグレンよ。これからもこの国のために尽くすのだ!」

それから私は多くの国民に王都を守った英雄として讃えられた。街に行けばその名を知らぬ者はいなかった。その勢いは英雄話に無頓着な者が多い冒険者にまで広がった。

だがそこに彼女の名前はもちろんなかった。この功績は私一人の者ではないことに後ろめたさを覚えることもあった。だが彼女は名がでないことを望んでいた。

そして私は一人の英雄としてしばらく讃えられ続けた。その勢いは止まなかった。

ある日、私は王城へと呼び出された。だがいつもとは様子が違った。周りの近衛兵は騎士団長の私が見た事のない者だったのだ。

そして王は静かにこう告げた。

「貴様を国家反逆罪の罪で捕らえる」

一瞬何を言っているのか分からなかった。私は思わず聞き返した。

「…今なんと?」

「聞こえなかったのか?貴様は大罪を犯したと言ったのだ!」

「わ、私は断じてそんなこと…」

「ええい!黙れ!」

その時、周りにいる持ち上げ貴族が声を上げた。

「貴様は脅威だ!この偉大なる王国の脅威だ!いらぬ女が増えた王の気持ちが分からぬか!?王は危惧しておられる。この国が滅び、国民が嘆くことを…」

「…は?」

「よいか!貴様は国民から讃えられ、称賛されている!貴様が国民を先導し、我々を叩きのめすかもしれない」

「なっ!?私はそのようなこと…」

「もうよい。貴様の処遇は既に決まっている。この者を牢に連れてゆけ!」

王は一喝した。言っていることが矛盾している。王国の脅威で国民の安全が脅かされたと言ったかと思えば、国民を先導しクーデターを起こす脅威になるなど。

そして私は剣や鎧を装備していない。王の御前だからと言う理由で外されたのだ。

「お、お待ち下さい!話を…」

私は必死に弁解しようとする。だが耳を貸す者はいなかった。

その時、バン!と扉が開かれる。そこにいたのは彼女、カノンだった。

「お父様…?何を…?」

「な、何故貴様がここに!?」

周りの貴族が驚きながら言ったかと思うと王は戸惑うことなく

「何をしている。ここはお前が来てよい場所ではない。早く帰れ!」

「か、彼に何を…」

「お前には関係ない!帰らぬか!それ以上ここにいるなら貴様も牢に入れるぞ!貴様のせいで我々王国が破滅するというのがまだ分からぬか!?」

「で、でも…」

「ええい!クソッ!早くどちらとも連れてゆけ!」

王は等々堪忍袋が切れたのか、激昂してそう言うと近衛兵は私とカノンを無言で連れて行こうとする。その近衛兵の目には生気が籠もっておらず、ただただ無言で事を行おうとしてくる。

「せ、せめてお話を…それに彼女は関係ないはずです!」

私はせめてカノンを庇おうとする。

「貴様は王族に意見する立場か!?貴様には関係ない!」

「私に下の名を与えてくれたのはあなただ!ならばせめて…」

「あれは仮だ!仮!国民の馬鹿共を黙らせるためだ!称賛されるのは我々だけでよい!我々だけがこの立場にいるのだ!」

「そ、そんな…」

近衛兵には魔法が何重にもかけられているのかビクリとも反撃できない。だがそんなに強化の魔法をもらっては痛みでまともに…

私はその時、近衛兵の目を見る。そして彼らに如何恐ろしいことをしたのかを悟る。

禁忌の魔法だ。魔法省の人間のみが使用できると言われる魔法。その効果は魔法省によってかなり激減されているものの強力な…

洗脳と記憶改竄。それは人の道理から外れたとされた上位魔法の中の上位魔法、人の根本を破壊するそれらはこう呼ばれていた。

禁忌魔法と。

「か、彼らに何を…まさか禁忌魔法を…」

「そうだ。魔法省などという我々より立場が上にいる気の奴らから盗んだ物だ。これで我々はクリステルなどという糞溜の隣国より上だということが証明できる。いやそれよりだ…我々が世界を握るのだ!その夢を壊す者は…いらぬ」

王は恐ろしい目でそう言った。暴論だ。全てが暴論だ。納得が一つもできない暴論。

王は狂っていた。自らの野望のために自らの娘と騎士を牢に入れるほど。周りの貴族は疑問に思わず、ただただ王の言うとおりにする。

私は気づかなかった。王の野望に。王が何故私に勲章を渡す時に笑わなかったその理由に。

「次の騎士団長は私の第一王子だ。異論は…ないな、反逆者よ」

私はもはや何も言えずにいた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

スキル【レベル転生】でダンジョン無双

世界るい
ファンタジー
 六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。  そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。  そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。 小説家になろう、カクヨムにて同時掲載 カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】 なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

処理中です...