上 下
149 / 237

第125話 香港襲撃事件(12 )

しおりを挟む
「これは…一体…何の光だ…!」

ストレイターは辺りをさっと見渡す。かなりの範囲にあたっての光、その根源は地面に張られた魔法陣にあった。

「…魔王の手に墜ちたあなたを浄化する光です。闇の力で変化したあなたを、私があなたの鎧を斬ったのはこの光をあなた自身に当てるため」

「…なるほど。全てはこのためか。最初から一人で戦っていたわけではなかったのか。私のもとに単身やって来たのは時間稼ぎのつもりか?この場に留めてこの魔法を発動させる。まったく無茶なものだ」

直後、凄まじい光が彼を襲う。高速でぶつける光には物体を押し出す光がある。ストレイターは今それをありとあらゆる方向で浴びている。

その時は数秒だった。その数秒で決着がついた…はずだ。

私は瞑っていた目を開ける。ストレイターはその場に仰向けに伏していた。

「はぁ…はぁ…終わったの…これで…」

私はそう言いながらストレイターに近づく。彼の姿、顔をもう一度見るために。しかし、
それが罠だった。

私は彼の持っている武器を見る。彼が持っているのはブーメランだ。

彼が刺又を投げた時、その刺又はいつの間にか手に戻っていた。その瞬間、私の背筋がヒヤリとする。

(まさか…!)

私は背後を見る。いや背後を見る前に左右にその姿は見えていた。

幾千ものブーメラン、それらが四方八方で私を取り囲んでいた。光で気づかなかった。

「そんな…」

私は今度こそ絶望する。この数は捌ききれない。聖なる加護でも打ち消しは不可能だ。

結局は彼との実力は同じということなのだろう。彼は死に、私も死ぬ。その時、さっき見た彼の顔が目に入る。その瞬間、私の頭の中に電流が走った。

私は剣を持つ。絶対に諦めない。それが勝利の道筋だと彼は私から離れる時教えてくれた。彼の最後で彼が去る際の最後の教えを思い出すとは…

私はフッと笑った。死を目前にしているというのに。

「私はあなたの弟子ですよ。いつまでも。あなたの教えどおりに…私はやります」

幾千もの武具に向かって私は剣を構える。だが私の正面にあったそれらが不意に消える。

(……?)

「危ない危ない。おまたせ」

消えた武具の先から紫の髪が見える。それと同時に周囲にあったはずの武具は…

「落ちろ落ちろぉ!」

「撃ち続けるぞ!ガイム!」

ライフルによってその全てが砕かれている。そして〆は…

「ホイッ!ホイッ!」

キルアがピョンピョン跳ねながら武具を消し去っていく。

「皆さん…!」

私は歓喜に包まれていた。

「まさか来れるとは思ってませんでした…アナリスさんかなり時間かかるって言ってたので」

「いやぁ、魔力ある人間が丁度三人いたからね。パッって思いつきで錬成したらうまくいったのよ」

「マジでやばかった。魔力消費多すぎ」

ガイムが疲弊してそう言っている。これで終わり…ではなかった。

「フフッ…さすがだ。私を超えたか」

この場にいるものの声ではなかった。その声の主はおそらく…

全員がその声の方向へ向いている。ストレイターは倒れたままだ。

「…生きてるのか。あれだけの魔法で」

ヒカルが驚愕の声を上げる。しかしストレイターはそんなことは気にしていない様子だ。それに生きているとは瀕死だろう。声に威厳こそあるものの、掠れてきている。

「あぁ…カノン。王女殿、こちらへ来てはくれんか?」

彼は初めて私の名前を呼ぶ。私は迷うことなく彼に近づく。

「…罠かもしれない。気をつけて」

ガイムがそう言うが、罠なわけないと思っていた。彼は死んだふりなどと言うが姑息な手は使わない。

私は彼の顔を覗き込んだ。彼はかすかに微笑んだ。

「あぁ…そのお顔、やはり変わらない。あの頃と同じだ…だが目。今はとても輝いている…」

「ヘルグレンさん…」

私は彼の下の名前を言うがすぐに訂正する。この呼びは彼にとってはあまり良い物ではないだろう。

「いいえ、バルトシュタインさん。あなたのおかげです。あなたのおかげで私はここまで来ることができました…」

「…そうか。良かった。私は…どうやら…もう時間がない…私の体、心は人間ではない。だがお願いだ…どうか、どうかあなたに私の最期を…見ていただきたい…」

「……もちろんです。師匠」

「あぁ、ありがとう。感謝する……よ……」

それからしばらくして彼は目を閉じた。辺りは静寂に包まれていた。黙祷かのように。

だがその静寂も一瞬だ。ババババという聞き慣れた音が上空を旋回していた。

「ワーオ、中華人民解放軍の方々じゃないですか。遅いしタイミング悪すぎな」

ヒカルがダメ出しをする。それにちょっと笑いそうになった。

私はもう泣かない。挫けない。前を進みます。師匠。

ヘリコプターの羽音と共に私は仲間のもとへと近づいていった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

処理中です...