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第124話 香港襲撃事件(11)
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気づけば惨状のみが広がっている。ストレイターは私の目の前に立っていた。その姿はもはや人間とは言いにくいが、人間としての面影自体ははっきりと残っていた。
あの頃、私に剣を教えてくれた師匠そのもの。だが今では、彼は醜い鎧と醜い武器を持った成れの果てだ。
「……無駄だ。私に勝つことなどできん。私の鎧には魔法も剣も通じない」
「…そうですね。私一人では無理です」
「…策があると言っているようなものだ。一人ではないのだろう。だが私の鎧はかつての英雄が作り出した道具だ。皮肉なものだな。奴が器用にも作り出した道具が魔王に利用されるとはな」
「…えぇそうですね」
そう言うと私は剣で斬り掛かる。地形を利用し、壁を利用する。壁を一重に蹴り、回転しながら斬る。ストレイターは自身の持つ武器を刺又に変化させ、真ん中で受け止める。
そしてストレイターは刺又の先を伸ばし、その先端で私を突き刺そうとするが、私は剣で刺又を弾き、その攻撃を避ける。
「武器だけに変化すると思うたか?」
ストレイターがそう言った瞬間、刺又を投げる。その刺又は無数の鋭い針となって飛び散る。
「くっ…!」
私は剣で受け流す。目を上げるとストレイターの手には刺又が戻っている。ストレイターは次に大弓へと変化させる。矢自身は何もない空間から禍々しい紫に包まれた矢が弓へと装填される。
「ぬぅぅらっ!」
ストレイターはそう叫ぶと矢を射る。撃ったのは一回なのに矢は10本以上ある。そのどれもが複雑な軌道を描き、こちらへと追尾してくる。
私は1本目の矢が近づく寸前、飛び立つ。2本目はすぐ目の前、私は剣で矢を弾くが、3本目が後ろから私に迫る。
私は体を捻るようにして回転する。無理な体勢でかなりきつい。軋む。
それでも剣で弾くが、まだ矢はこちらへと襲ってくる。私は重力に引かれ、地面へと着く。
私は剣を上に突き上げ、光を発光させる。いわゆる属性魔法。闇を打ち払うというものだ。
紫の矢は予想通り、一部が消滅する。最初に切った感触から闇の魔法が使われているとは思ったが、効いてよかった。だが残りの矢の2本はまだ存在しているようだ。
私はそれを強引に突破し、ストレイターのもとへ…!
だがついさっきまだいたはずのストレイターはいなかった。そうだ。油断していた。矢に気を取られすぎた。
私は彼が後ろにいることを気配で悟る。咄嗟に裏剣を振るう。しかし矢だって迫ってきている。
ストレイターは確かに背後にいた。私の剣と彼の長槍が交差している。
「所詮、お前の技は私の技の模倣に過ぎん」
彼は感情なくそう言った。確かにそのとおりだ。私の剣技は師である彼の剣技だ。彼を超えることはできない。
だが同じ実力になることは可能なはずだ。思い出せ。さっきの彼の動きを。彼はどうやって戦ったのかを…
私は一瞬、周りが見えなくなるほどの集中を発揮する。そして反射的に私は片方の手で矢を掴む。
私は見事にその矢を手にとると、ストレイターに向かって投げる。無論ストレイターには効かないだろう。だが一瞬の隙はつける。私はその間に剣を放し、心臓めがけてやってくる矢を正面から二つに割る。矢はポトンと落ちたあと消滅する。
私は長槍の追撃を避けるために、アクロバットに空中で回転しながら距離をとる。
その場にあるもの、剣だけが全てじゃない。彼は環境に応じて様々な武器を使ってきたのだ。私には剣しかないわけではない。
ストレイターは今度はクロスボウに変化させ、平面場に矢を放とうとさせてくるが、私はその前にと行動を移す。
聖なる加護のついたこの剣の一撃に乗せる。そのためにはあの鎧の弱点を突く必要がある。
大丈夫。やることはさっきと変わらないと自身に言い聞かせる。
「うわぁぁぁ!!」
いつの間にか私は叫びを上げながら、前へと進んでいた。目の前に立ちはだかる巨体を倒す、いや殺さなければならない。
「私の武器は一つではないぞ!」
そう言うとストレイターは空いた左手に大剣を出現させる。近距離にも遠距離にも対応しているらしい。
私はクロスボウの矢が撃たれる前にストレイターの懐に入ることができた。だがストレイターは大剣を振るおうとする。
「私だって剣が全てじゃありません!」
私は彼の目を真っ直ぐに見つめながら、そう言うと、空いた左手。先程までずっと握っていた左手を開ける。
基礎中の基礎、炎の下位魔法。それをストレイターの顔めがけて打つ。そのことに抵抗はあるものの躊躇はしなかった。ストレイターの眼前にはおそらく炎が広がっているだろう。ストレイターの動きが鈍る。その間に彼の股下を通る。
そして彼から教わった剣技の中の剣技。つるぎの舞と波浪切りの長所を取った連続攻撃。
「[百列一閃]!」
瞬く間に彼は100回の斬撃を受ける。ストレイターはこちらを振り向きながら膝をついた。
だが私も手を地面に付いていた。体力と魔力の過剰消費と怪我のせいで体はもう限界なのだろう。
しかし、ストレイターはなおも立ち上がる。
「今の攻撃、素晴らしかった。称賛に値するする、が、私を殺すにはまだほど遠い」
「……」
「終わりにしてやろう」
「…私は確かに言ったはずですよ。一人じゃないって」
その瞬間、ストレイターの体は光に包まれた。
あの頃、私に剣を教えてくれた師匠そのもの。だが今では、彼は醜い鎧と醜い武器を持った成れの果てだ。
「……無駄だ。私に勝つことなどできん。私の鎧には魔法も剣も通じない」
「…そうですね。私一人では無理です」
「…策があると言っているようなものだ。一人ではないのだろう。だが私の鎧はかつての英雄が作り出した道具だ。皮肉なものだな。奴が器用にも作り出した道具が魔王に利用されるとはな」
「…えぇそうですね」
そう言うと私は剣で斬り掛かる。地形を利用し、壁を利用する。壁を一重に蹴り、回転しながら斬る。ストレイターは自身の持つ武器を刺又に変化させ、真ん中で受け止める。
そしてストレイターは刺又の先を伸ばし、その先端で私を突き刺そうとするが、私は剣で刺又を弾き、その攻撃を避ける。
「武器だけに変化すると思うたか?」
ストレイターがそう言った瞬間、刺又を投げる。その刺又は無数の鋭い針となって飛び散る。
「くっ…!」
私は剣で受け流す。目を上げるとストレイターの手には刺又が戻っている。ストレイターは次に大弓へと変化させる。矢自身は何もない空間から禍々しい紫に包まれた矢が弓へと装填される。
「ぬぅぅらっ!」
ストレイターはそう叫ぶと矢を射る。撃ったのは一回なのに矢は10本以上ある。そのどれもが複雑な軌道を描き、こちらへと追尾してくる。
私は1本目の矢が近づく寸前、飛び立つ。2本目はすぐ目の前、私は剣で矢を弾くが、3本目が後ろから私に迫る。
私は体を捻るようにして回転する。無理な体勢でかなりきつい。軋む。
それでも剣で弾くが、まだ矢はこちらへと襲ってくる。私は重力に引かれ、地面へと着く。
私は剣を上に突き上げ、光を発光させる。いわゆる属性魔法。闇を打ち払うというものだ。
紫の矢は予想通り、一部が消滅する。最初に切った感触から闇の魔法が使われているとは思ったが、効いてよかった。だが残りの矢の2本はまだ存在しているようだ。
私はそれを強引に突破し、ストレイターのもとへ…!
だがついさっきまだいたはずのストレイターはいなかった。そうだ。油断していた。矢に気を取られすぎた。
私は彼が後ろにいることを気配で悟る。咄嗟に裏剣を振るう。しかし矢だって迫ってきている。
ストレイターは確かに背後にいた。私の剣と彼の長槍が交差している。
「所詮、お前の技は私の技の模倣に過ぎん」
彼は感情なくそう言った。確かにそのとおりだ。私の剣技は師である彼の剣技だ。彼を超えることはできない。
だが同じ実力になることは可能なはずだ。思い出せ。さっきの彼の動きを。彼はどうやって戦ったのかを…
私は一瞬、周りが見えなくなるほどの集中を発揮する。そして反射的に私は片方の手で矢を掴む。
私は見事にその矢を手にとると、ストレイターに向かって投げる。無論ストレイターには効かないだろう。だが一瞬の隙はつける。私はその間に剣を放し、心臓めがけてやってくる矢を正面から二つに割る。矢はポトンと落ちたあと消滅する。
私は長槍の追撃を避けるために、アクロバットに空中で回転しながら距離をとる。
その場にあるもの、剣だけが全てじゃない。彼は環境に応じて様々な武器を使ってきたのだ。私には剣しかないわけではない。
ストレイターは今度はクロスボウに変化させ、平面場に矢を放とうとさせてくるが、私はその前にと行動を移す。
聖なる加護のついたこの剣の一撃に乗せる。そのためにはあの鎧の弱点を突く必要がある。
大丈夫。やることはさっきと変わらないと自身に言い聞かせる。
「うわぁぁぁ!!」
いつの間にか私は叫びを上げながら、前へと進んでいた。目の前に立ちはだかる巨体を倒す、いや殺さなければならない。
「私の武器は一つではないぞ!」
そう言うとストレイターは空いた左手に大剣を出現させる。近距離にも遠距離にも対応しているらしい。
私はクロスボウの矢が撃たれる前にストレイターの懐に入ることができた。だがストレイターは大剣を振るおうとする。
「私だって剣が全てじゃありません!」
私は彼の目を真っ直ぐに見つめながら、そう言うと、空いた左手。先程までずっと握っていた左手を開ける。
基礎中の基礎、炎の下位魔法。それをストレイターの顔めがけて打つ。そのことに抵抗はあるものの躊躇はしなかった。ストレイターの眼前にはおそらく炎が広がっているだろう。ストレイターの動きが鈍る。その間に彼の股下を通る。
そして彼から教わった剣技の中の剣技。つるぎの舞と波浪切りの長所を取った連続攻撃。
「[百列一閃]!」
瞬く間に彼は100回の斬撃を受ける。ストレイターはこちらを振り向きながら膝をついた。
だが私も手を地面に付いていた。体力と魔力の過剰消費と怪我のせいで体はもう限界なのだろう。
しかし、ストレイターはなおも立ち上がる。
「今の攻撃、素晴らしかった。称賛に値するする、が、私を殺すにはまだほど遠い」
「……」
「終わりにしてやろう」
「…私は確かに言ったはずですよ。一人じゃないって」
その瞬間、ストレイターの体は光に包まれた。
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