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1965年(5)
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何が起きた?
謎の生物?羽?鳥ではないのか?巨大。炎を吐く。トカゲのような四足歩行。生物学にはかなりの知識があるが聞いたことはない。
戦艦沈没。
今見た全てが私の頭の中に入ってくる。
デフコン4。12人死亡。最悪ソ連への先制攻撃。
最後の先制攻撃は完全なる私の予想だ。だがいつ起きてもおかしくはない。
第三次世界大戦。
キューバ危機以来の緊張。それを思わせる文面が目の前にあった。
誰かと話し合いたいと思った。その一員になれば我々がどうすれば良いかが…
「……あぁ……そうだった。彼はもういなかったか…」
カシヤノフ。彼はもうこの世にはいなかった。今更になって彼とこの事を話したくなる。
キーロフにいるのは私とカシヤノフ、他に誰がいるのかは知らなかった。
つまり、この後の判断は私一人で決めなければならないのだ。
できるのかと言えば分からない。だがやらなければならない。祖国、家族を守るためにも。
私に妻や子どもはいない。だが愛すべき母と父がいる。
私は気持ちを切り替える。祖国や家族を守る気持ちは変わらない。だがソ連が滅ぶのは駄目だ。ソ連の人達にとってここが祖国であり、家族がいるのだから。
ソ連は真の敵ではない。ならば本当の敵は誰か?答えはいない。思想の違いからのぶつかり合いなのだ。ならば双方和解の手がいつかは…
私は研究員として、CIAの諜報員として働き続ける。
私はそう決めた。
_________________
3月8日。私はいつも通りの朝を迎える。3日間を機に様々なことが起きている。3日にカシヤノフはこの世を去り、5日に手紙。
今日も何かあるのだろうかと思いながら私は研究所へと向かう。だがこれも運命なのだろうか。
私はうんざりしながらも目の前の男に近づく。
「おお、よく私がお前を待っていることに気づいたな」
「そこに立ってればな。私以外に話す相手はいないのか?」
「生憎、一人というのも悪くないんでね」
ジョーヒンはそう言うと傾けていた顔を上げる。
「折り入っての話がある。私は立ち話でもいいが」
「大丈夫だ。それで話とは?」
大方予測はつく。例の戦艦沈没の件だろう。私の考えではそろそろ話し合いの決着はついている頃合いだろうか。おそらく密談であり、我々CIAの諜報員にすら知らされないものだろうが。
「ふむ。カシヤノフの件なんだが…」
まずはそこか。私は次の言葉は何だろうと予測しながら聞く。
「奴は主にこの原子力研究所のデータをアメリカに送っていた…と見られる。実際こいつの部屋にはこの研究所のデータが多く発見されたからな。データの横流し、もしくは研究そのものの妨害工作。ソ連の実力査察もあるのかもしれないな」
「諜報合戦の典型的な例と言ったところ」
「おそらくな。この研究所にそれだけの価値があるのかは不明だが。少なくとも数少ない原子力研究所の妨害工作員というのが我々の見解だ」
「それはKGBとしてのか?」
「そうだ。実際にデータの紛失が確認されたからな。資料一つくらいでも鍵を掛けとけという話だが。それともう一つ、これはお前にも関する話だが」
「なんだ?」
「おそらく協力者、ないし諜報員もう一人がいる。一人でやれることじゃないというのが我々の見解だ。少なくともあと一人はいる。外部か内部かは分からんが」
「…なるほど言いたいことは分かったぞ」
いずれKGBがもう一人裏切り者がいるだろうと仮定しだすとは思ったが、この男は愚かだ。あっさりとそれを教えてくれた。
「つまり見つけ出せということだな?私に」
「そうだ。と言っても怪しい動きをする奴にガンを飛ばすだけでいい」
予想通りの言葉だ。
「話はそれで終わりか?」
「ああ、そうだが?」
「…何?」
どういうことだ?戦艦沈没はソ連の行動によって巻き起こったはずだ。この男の饒舌ぶりならその事を話してもおかしくないはずだ。それともこの男、ジョーヒンはそこの区別はつくのか、話していいことと話してはいけないことの。いやKGBの一員ならばその区別はついているだろう。
あるいはこの男も知らないか。私は前者だと思っているが。
「いや、話がないなら行くぞ」
「そうか。ところでお前はスパイか?」
…………
「何故だ?私は違うな。この国に忠誠を誓ったからな」
「そうか。いやすまんな。それじゃあ頑張れ」
そう言うとジョーヒンは立ち去って行った。その直後だろうか。
ソ連軍がこの研究所にやって来たのは。
謎の生物?羽?鳥ではないのか?巨大。炎を吐く。トカゲのような四足歩行。生物学にはかなりの知識があるが聞いたことはない。
戦艦沈没。
今見た全てが私の頭の中に入ってくる。
デフコン4。12人死亡。最悪ソ連への先制攻撃。
最後の先制攻撃は完全なる私の予想だ。だがいつ起きてもおかしくはない。
第三次世界大戦。
キューバ危機以来の緊張。それを思わせる文面が目の前にあった。
誰かと話し合いたいと思った。その一員になれば我々がどうすれば良いかが…
「……あぁ……そうだった。彼はもういなかったか…」
カシヤノフ。彼はもうこの世にはいなかった。今更になって彼とこの事を話したくなる。
キーロフにいるのは私とカシヤノフ、他に誰がいるのかは知らなかった。
つまり、この後の判断は私一人で決めなければならないのだ。
できるのかと言えば分からない。だがやらなければならない。祖国、家族を守るためにも。
私に妻や子どもはいない。だが愛すべき母と父がいる。
私は気持ちを切り替える。祖国や家族を守る気持ちは変わらない。だがソ連が滅ぶのは駄目だ。ソ連の人達にとってここが祖国であり、家族がいるのだから。
ソ連は真の敵ではない。ならば本当の敵は誰か?答えはいない。思想の違いからのぶつかり合いなのだ。ならば双方和解の手がいつかは…
私は研究員として、CIAの諜報員として働き続ける。
私はそう決めた。
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3月8日。私はいつも通りの朝を迎える。3日間を機に様々なことが起きている。3日にカシヤノフはこの世を去り、5日に手紙。
今日も何かあるのだろうかと思いながら私は研究所へと向かう。だがこれも運命なのだろうか。
私はうんざりしながらも目の前の男に近づく。
「おお、よく私がお前を待っていることに気づいたな」
「そこに立ってればな。私以外に話す相手はいないのか?」
「生憎、一人というのも悪くないんでね」
ジョーヒンはそう言うと傾けていた顔を上げる。
「折り入っての話がある。私は立ち話でもいいが」
「大丈夫だ。それで話とは?」
大方予測はつく。例の戦艦沈没の件だろう。私の考えではそろそろ話し合いの決着はついている頃合いだろうか。おそらく密談であり、我々CIAの諜報員にすら知らされないものだろうが。
「ふむ。カシヤノフの件なんだが…」
まずはそこか。私は次の言葉は何だろうと予測しながら聞く。
「奴は主にこの原子力研究所のデータをアメリカに送っていた…と見られる。実際こいつの部屋にはこの研究所のデータが多く発見されたからな。データの横流し、もしくは研究そのものの妨害工作。ソ連の実力査察もあるのかもしれないな」
「諜報合戦の典型的な例と言ったところ」
「おそらくな。この研究所にそれだけの価値があるのかは不明だが。少なくとも数少ない原子力研究所の妨害工作員というのが我々の見解だ」
「それはKGBとしてのか?」
「そうだ。実際にデータの紛失が確認されたからな。資料一つくらいでも鍵を掛けとけという話だが。それともう一つ、これはお前にも関する話だが」
「なんだ?」
「おそらく協力者、ないし諜報員もう一人がいる。一人でやれることじゃないというのが我々の見解だ。少なくともあと一人はいる。外部か内部かは分からんが」
「…なるほど言いたいことは分かったぞ」
いずれKGBがもう一人裏切り者がいるだろうと仮定しだすとは思ったが、この男は愚かだ。あっさりとそれを教えてくれた。
「つまり見つけ出せということだな?私に」
「そうだ。と言っても怪しい動きをする奴にガンを飛ばすだけでいい」
予想通りの言葉だ。
「話はそれで終わりか?」
「ああ、そうだが?」
「…何?」
どういうことだ?戦艦沈没はソ連の行動によって巻き起こったはずだ。この男の饒舌ぶりならその事を話してもおかしくないはずだ。それともこの男、ジョーヒンはそこの区別はつくのか、話していいことと話してはいけないことの。いやKGBの一員ならばその区別はついているだろう。
あるいはこの男も知らないか。私は前者だと思っているが。
「いや、話がないなら行くぞ」
「そうか。ところでお前はスパイか?」
…………
「何故だ?私は違うな。この国に忠誠を誓ったからな」
「そうか。いやすまんな。それじゃあ頑張れ」
そう言うとジョーヒンは立ち去って行った。その直後だろうか。
ソ連軍がこの研究所にやって来たのは。
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