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第9話 現地人

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弁当も食べ終わり、アナリスがゴミを捨てに行ってる間に横になる。そして自分の気持ちに気づく。

帰りたいとは思わない、だが俺がいた世界は、まるで故郷のように感じた。
体の中の何かがなくなった感じがした。
どことなく寂しい。にぎやな日々だった。
誰も俺のことを気にしていない。そんな日々でも良かったのかもしれない。

「ガイム、早めに寝よう。明日は早く行くから」

アナリスがいつの間にか帰ってきている。言われるがまま俺は「わかった」と返事をし、目を閉じることにした。
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予定より早く目覚めてしまった。寝心地が、これまでで一番最悪だからだろうか。コンクリートに寝ていたせいで全身が痛い。

「おはよ~」

アナリスもどうやら早く目覚めたようだ。そしてしきりに全身をさすっている。

「眠れない」

どうやらアナリスも眠れなかったようだ。
目を擦りながらアナリスは続ける。

「それじゃあ予定より早く行こっか。目が覚めたことだし。その前にトイレ行ってくる。確か近くにコンビニあったよね?」

そもそもコンビニが何かの説明もされていないため答えようがない。

「さぁ、あるんじゃない?」

「だよね、じゃあそこで待ってて」

これで納得したらしい。アナリスは立ち上がって路地裏から出ていく。
俺もトイレに行きたいのでアナリスの帰りを待つことにした。

_________________

2022年7月11日 日本標準時 午前5時30分
宮城県仙台市 某コンビニ前
_________________

アナリスは、コンビニを探していた。
仙台駅についてからというのもトイレには、あまり行ってないため、結構やばい。

「えっと…あっ!これだ!」

コンビニらしき特徴的なロゴを見つけたので、アナリスは走って向かう。

コンビニに入ろうとすると、自動ドアが開き、何かのbgmが流れる。
この自動ドアというのにも馴れてきた。ガイムにはまだ説明してないのでガイムが見たときの反応が楽しみだ。

店の奥にあるトイレへと向かう。店員は私が入った瞬間にこっちを見てくる。
どうやらこの世界にとって紫色の髪の人というのが珍しいらしく、
近くにいる人は必ず私に焦点を向ける。別に染めているわけでもなく地毛なのだが。

トイレのドアを開けて入ろうとする。
その瞬間に、何かが私へとぶつかり、そのままトイレに一緒に入る状態になってしまった。

魔法による警戒を朝一番に行っていなかったせいで気づかなかった。そしてぶつかって来たのは、まぎれもなく人間。
緑色のパーカーに、紺色のジーンズを履き、迷彩柄のバッグをつけている黒髪のおそらく10代くらいの少年。フードを被っていて、その顔の正体がはっきりと分からない。

少年は、右腕で私の首を押しながら、トイレの壁へとぶつける。背中に思いっきり当たったので結構痛い。
右腕で私の体を固定しつつ少年は、手際よくトイレのドアを閉じ、鍵をかける。

かなりの速さで一連の流れを行ったので、多少困惑するが、すぐに少年の右腕を払い、体を自由にする。

「まぁ、待って」

少年は優しく声をかける。面白ろそうな物を見ているような顔の表情をしている。

「待つって何を?」

私は少年に聞き返す。少年のほうが私を押してきたので、ここで殴っても正当防衛になるはずだ。

「俺の話聞いてくれない?」

どうやら話を聞いてほしいらしい。

「話って何の?悪いけどお金なら持ってないね」

「違う違う、そういう話じゃない、君、いや君達について」

お金の話じゃないなら体目的なのだろうか。だが君達ということは複数人いるということだ。ガイムと私のことを言っているのだろうか。

「何?それじゃあ私を襲う気?言っとくけど私結構強いよ?」

「ん~、違うけど君強いんだね。おもしろそ~」

少年は舐めたような口調をしながらも淡々と話していく。

「話っていうのはね」

ここで少年が顔を上げ、少年の目がフードから出てくる。全体的に丸い印象だが、睨見付けるような黒い目だ。そして目の下には隈がある。

「君らさぁ、なんか炎出してたでしょ?こう、ボワッて」

少年はそう言うと、自分の手で手の平をパッと私の方へ突き出してきた。
炎?そう聞いたとき、昨日のネズミ騒動が頭に浮かぶ。あれを見ていた人がいたということなのだろうか。

「俺さぁ、君達みたいなね、少年少女が路地裏に入ってて何するのかなぁって思って、跡をつけたの、そしたら何か手のひらから炎が出てきたじゃん。あれ何?」

これはまずい。この世界の人間に知られた。しかもやばそうな少年に。無事でいられる保証がない。そもそもこの世界の軍や警察がなければ、こんなに怖じ気ずにすむのだが。

というかガイムにこの世界の軍や警察の話してないな。なんかやばいって話だけで終わった気がする。

「炎?何言ってんの?あぁ、それならここら辺で買った道具使ったんだよ。あるでしょ?」

咄嗟に嘘をつく。そもそも普通の人間ならば、この少年のようにここまで問い詰めるようなことはしないはずだ。

少年は苦笑しながら言う。

「君が出した炎は丸かった。普通なら、炎によって暖められた周りの空気が上昇気流となって炎は縦長になるはず。そしてあんな炎の形は手の平サイズの道具じゃ再現できない」

これは多分言い逃れできない。他にもいくつか言い逃れする案はあったが多分無理だ。

さて、どうしようか、このことは内密にしてもらいたいが、最悪口封じ(頭をたたいて記憶消去)をしなければならない。じゃないと私が死ぬ。

「で、結局のところどうなの?」

少年は面白そうに聞いてくる。

「あれは……魔法、炎のね、中位魔法の1つ」

諦めて正体をバラそう。

「魔法?え?」

今度は少年が困惑しだした。
気にせず話を続ける。

「私はね、異世界から来たの。つまりこの星、この世界の住人じゃないってこと」

少年は首をかしげた。



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