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恩人との出逢いに感謝を
1 安心
しおりを挟む気が付いたらここにいた。
どこなのと聞かれても自分でもここがどこ
なのか答えられない。
全く知らない景色。
全く知らない人達。
人々の波に流される様に
私もその波に乗り歩き出した。
人の多い大きな街なのだろう。
行き交う人達皆せわしなく歩いて行く。
皆どこに行くのかな?
私も行き先があったら良かったのにと
思いながら歩いていると
一軒のお店に目が止まった。
そのお店は『虹の橋』という看板を掲げ
た雑貨屋さん。
ショウーウィンドウーに飾られていたの
はサンタクロースの衣装を着た
テディベア。
その脇にはトナカイの変わりだろうか
犬か狼か見分けが付きそうにない4頭が
ソリの装備を付け今にも走り出す様を醸
し出していた。
ソリの荷台にはやはりプレゼントなのか
真っ白で大きな袋が載っている。
それらを見て私はクリスマスが近いのだろ
うと思いをはせた。
「あれ? 私今までのクリスマス
どうやって過ごしていたんだっけ?」
と疑問が始めて湧いて出てきた。
いくら思い出そうとしても
何も浮かばない。
今まで生きてきた私の過去が
一切合切分からなかった。
周りにいた人達が私の様子に気づき
「大丈夫? どこか身体の具合でも
悪いのかしら?」
と子供の背中をあやす様に軽く
トントンとたたき気遣うように
声をかけてきたのは上品で
優しそうなお婆さんだった。
お婆さんは続けて
「少し休める場所に移りましょう?
さぁ 私を支えにしてもらっても
構わないから 動けそうかしら?」と
また声をかけてきて私の手を取り
身体を密着しようとしていた。
私はすぐに
「お気遣いありがとうございます。
身体は大丈夫です。
少し考え事をしていただけなので。」
と言葉を返した。
「あらそうなのね。
私ったらまた早とちりしたみたいだわ。
ごめんなさいね。」
と申し訳なさそうに頭を下げてきた。
ビックリした私は慌てて
「いいえ。とんでもございません。
私の方こそ気にかけて頂いて
本当にありがとうございます。」と
頭を下げていた。
お互いが、顔を上げて目が合わさり
「ふふっ」「うふっ」と笑い合った。
「声をかけたのも何かの縁。
すこしの時間私とお茶でも
いかがかしら?」
とお婆さんからお誘いを受けた。
断る理由も無いし、
今は一人になるのが少し不安だったので
ありがたく誘いを受けする事にした。
雑貨屋さんから五軒先に
カフェがあり二人で歩き向かった。
カフェのドアを引き中を見渡した。
クリスマスカラーに彩られ
ツリーやリースそれに大きな靴下で
飾られた店内は可愛くおしゃれな雰囲気
で目を楽しませてくれた。
空いているテーブルにお婆さんと
二人で席に着いた。
カウンター越しにサンタの衣装に
身を包んだ店員さんが
「お食事されますか?」と
声をかけてきた。
「そうねぇ もうすぐお昼だから早めの
ランチにしようかしら
二人分お願い。」と
お婆さんは答え注文をした。
私に
「あなたもランチで良かったかしら?」と
後になって聞いてくる。
お婆さんに目線を向け返事をしようとし
た時迄はよかったが
ある事に気が付いた。
私ってお金持っていたっけ?と
手には何も持っていない。
服のポケットを探し中身を確かめるが
何もなかった。
あとは肩から斜め掛けにしている
手頃な大きさのショルダーバッグ。
テーブルの上に一つずつバッグから
取り出し物を置いていく。
ハンカチにポケットティッシュ。
鏡にクシ。
メモ帳にボールペン。
小さな薄いケースに入った裁縫道具と
同じ色違いのケースに入った
応急セット。
手のひらサイズのポーチの中には
メイク道具。
そしてお財布と携帯電話。
一安心したのもつかの間
肝心の中身は入っているのだろうかと
不安になる。
財布を開けて中を見ると
「??っ」 お金なのかな? と思い
お婆さんに聞いてみる事にした。
「あの~ これってお金ですか?」と
テーブルの上に
一番大きいユリの花が描かれている
白っぽいコイン。
一回り小さめで蘭の花が描かれている
金色のコイン。
さらに一回り小さいバラの花が
描かれている金色のコイン。
またさらに一回り小さいすずらんの花が
描かれている銀色コイン。
今までのコインと少し形が違う
ダリアの花が描かれている銅のコイン。
また形が長細く四角いあじさいの花が
描かれているくすんだ銀色のコイン?。
を一枚ずつ置きながら聞いてみた。
「えぇ お金ですわね。」
と答えてすぐに
「どうかしたのかしら?
何か心配事でもある様に見えるけど
私で良ければ相談に乗らせてもらわ。」
と言ってくれた。
お婆さんに感謝しながら
少し前と先程雑貨屋さんの前で感じた
大きな不安を口にした。
「突然 意識が戻った感覚というか
上手く伝えられないけど
いきなりこの場所に居て
他の人達と同じ流される様に歩いてた。
先程の雑貨屋さんのショーウィンドウ
内のディスプレイに目が止まり
クリスマスなんだなぁと
思いながら過去を振り返ってみたら
何も思い浮かんで来ない。
何も思い出せないって事に
気が付きました。
そして 今このテーブルの上にある
6種類のコインです。
私が知っているお金は紙幣といって
紙のお金と6種類のコインですが
金色のコインはありませんでした。」
と話し終えると
「今のあなたが覚えているお金以外で
他に分かる事はある?」と
お婆さんに聞かれ
「自分の名前は覚えています。
私の名は天根 琳と言います。
名乗りが遅れて失礼しました。」
と告げた。
お婆さんは
「私も名乗りもせずごめんなさいね。
私は斎賀 忍と言います。
よろしくね 他に分かる事はある?」
と聞かれたが 自分自身の事は名前以外
は分からず 物の名前や使い方は理解
出来ている事を伝えた。
後は 横に首を振った。
斎賀さんが
「先程も言ったけど
何かあなたと私には不思議な
縁があるのかも
ほっとく訳にもいかないから
あなたこれから私と一緒に来なさい。
心配しないで 遠慮は要らないから。」
と優しい笑みを浮かべながら
私に言った。
もちろん驚いて断ろうとしたが
「行くあてはあるの?
誰か頼れる人は居るの?」と聞かれ
首を横にしか振れず
斎賀さんに甘える事になり
「斎賀さん お世話になります。」と
一言伝え頭を軽く下げた。
斎賀さんが
「もう そらそろランチが運ばれて
来そうだからテーブルの上
片付けた方がいいと思うけど。
お金は特に早くしまいなさい。
良からぬ連中に目を付けられかねないか
らね。」と言われ
急いで全てを片付け終わった頃に
ランチが運ばれてきた。
ランチを見て目を見張った。
カフェのランチだと思っていたら
高級なコース料理みたいな出来栄えで
見た目も華やかで
味も抜群に美味しかった。
すごく贅沢で豪華なランチを食べ終え
デザートのチーズケーキを頬張ってた
のを一人の男性に見られている事に
気が付いた。
斎賀さんも男性に気が付き
「あらやだ!
居るなら居るって
知らせるべきじゃなくて?」と
怒った振りをしながら
男性に噛みたいた。
男性は苦笑しながら
「失礼しました。忍さん。」と
斎賀さんに声をかけてきた。
男性の目線が私を捉えたのを斎賀さんは
見逃さず
「こちらの女性は」と男性に話しいる
最中 男性が
「えぇ 存じておりますよ。
天根 琳さん」と
突然フルネームで名前を呼ばれ
驚いて男性の顔を見た。
「僕は 斎賀 焔 と言います。
あなたの事は結構前から
認識してましたが
あなたは僕の事
全然覚えていないようですね。」
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