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アルク・ティムシーというドエム
アルク・ティムシーというドエム8
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だけど、溜め息交じりに続けられたマシェルの言葉は、完全に予想外の物だった。
「どうせお前も、舞踏会のパートナーの申し込みが殺到して、困惑しているのだろう。私も先程、いくつかの申し込みを断って来たところだ。……普段は消極的な生徒も、舞踏会シーズンばかりは積極的にアタックを仕掛けてくるから、お互い難儀するな」
……へ?
いや、私は別にそんなことで悩んでいるわけじゃは……て、あれっ!?
マシェルの言葉に、ようやく私は自分が今置かれている状況の異常性に気が付いた。
「……ん? どうした、ルクレア。突然そんな風に顔を青くして」
「――ない……」
「? うん?」
「……私、今現在に至るまで、誰からも舞踏会のパートナーに誘われてないわ……っ!」
口に出した途端、改めてその事実に打ちのめされる。
ありえない。去年は引く手あまたで、休み時間の度に男子生徒が押しかけて来たというのに、何故!?
処理が面倒臭くて、面倒臭くて、もう家の方に連絡下さいって完全に丸投げ状態しても尚、パートナーの申し込みをやめない生徒達が多かったのに……!
今年は今まで、0って一体どうゆうこと?
……え、私もしかして一年の間に、魅力なくなってしまった?
ボレア家という、ブランドすらなくなってしまった程に!?
「――それ、は……」
驚愕に目を見開いたマシェルが言葉に詰まり、暫く視線をあちこちに彷徨わせてかた、そっと私から視線をはずした。
「……大丈夫だ、ルクレア。まだ舞踏会まで一週間以上あるから、おそらく皆誘いあぐねいているだけだろう。まだまだ、これからだ。悩むことはない」
……うわん、心底可哀想な子に同情するような、そんな反応やめろ――っ! 逆に傷つくだろうがぁ!
マシェルの優しさが、とても胸に突き刺さる。
「……そ、そうよね。これからよね」
「……そうだぞ、ルクレア。ボレア家令嬢であるお前を、放っておくわけないだろう」
「そうよね! 私ほど、魅力的なパートナー、そういないものね!」
胸を張ってそう言いながらも、口からは乾いた笑いしか出てこない。
……デイビッドすら、アルクという申込者(しかもアルクは三年なのに)がいたというのに、私は0.…く、屈辱的……。なんか女として負けた気分だわ。
思わず項垂れる私に、マシェルがこほんと咳払いを一つ打つ。
「――それに、だ」
思わず顔を見上げて、マシェルを見てしまった私は、瞬時に後悔をした。
苦虫を噛む様な難しい表情を浮かべて、視線を横に逸らすマシェルの頬は、ほんのり赤く染まっていた。
「お前が、その……当日までパートナーが見つからないようなら、私がパートナーになってやってもいいぞ。……今のところ、誰とも約束をしていないしな」
――やべぇ、これ、うっかりまた、マシェルのフラグを立ててしまったっぽい。
「――優しいのね。マシェル。でもいいのよ? 私のことは別にそんな風に気にしなくて。貴方は貴方で誘いたい女性がいるでしょう? 私の為に、せっかくのチャンスが無駄になってしまったら、勿体無いわ」
「いや……残念ながら今のところ、これといって踊りたい相手はいないな。よく知らない相手と共にダンスを踊るよりも、それなりに気心が知れたお前の方が踊りやすいから、私としてもお前がパートナーになってくれるとありがたいな」
「……そんな妥協で私をパートナーに選んだら、結ばれることが出来なくてもせめてもの思い出にと、貴方と舞踏会で踊ることを夢見ている女生徒が悲しむわよ?」
「それは私のパートナーにと望む生徒たちの中から、誰か一人を選んだところで同じだろう。パートナーを務められるのは、一人だけだからな。それに叶うことがないと分かっている想いを抱く相手に、下手に期待を持たせる方が残酷だろう」
「……もしかしたら、パートナーを務めたことで、貴方がその生徒を好きになるかも……」
「ありえんな」
向けられるマシェルの視線が余りに真剣で、マシェルの言葉の真意までしっかり伝わってきて、辛い。
……この状況で、マシェルはトリエットが好きだなんて寝ぼけた自己暗示、掛けられないわ。流石に。……もともと、そんなの単に自分が都合が良いように思いたいだけだってこと、本当は気づいてたし。
表面的にはにこやかに笑みを浮かべながらも、こめかみの辺りに冷たい汗がだらだらと伝っていくのを感じていた。
本当、どうすればいいの。こういう状況って。
だれか、助けて。
「どうせお前も、舞踏会のパートナーの申し込みが殺到して、困惑しているのだろう。私も先程、いくつかの申し込みを断って来たところだ。……普段は消極的な生徒も、舞踏会シーズンばかりは積極的にアタックを仕掛けてくるから、お互い難儀するな」
……へ?
いや、私は別にそんなことで悩んでいるわけじゃは……て、あれっ!?
マシェルの言葉に、ようやく私は自分が今置かれている状況の異常性に気が付いた。
「……ん? どうした、ルクレア。突然そんな風に顔を青くして」
「――ない……」
「? うん?」
「……私、今現在に至るまで、誰からも舞踏会のパートナーに誘われてないわ……っ!」
口に出した途端、改めてその事実に打ちのめされる。
ありえない。去年は引く手あまたで、休み時間の度に男子生徒が押しかけて来たというのに、何故!?
処理が面倒臭くて、面倒臭くて、もう家の方に連絡下さいって完全に丸投げ状態しても尚、パートナーの申し込みをやめない生徒達が多かったのに……!
今年は今まで、0って一体どうゆうこと?
……え、私もしかして一年の間に、魅力なくなってしまった?
ボレア家という、ブランドすらなくなってしまった程に!?
「――それ、は……」
驚愕に目を見開いたマシェルが言葉に詰まり、暫く視線をあちこちに彷徨わせてかた、そっと私から視線をはずした。
「……大丈夫だ、ルクレア。まだ舞踏会まで一週間以上あるから、おそらく皆誘いあぐねいているだけだろう。まだまだ、これからだ。悩むことはない」
……うわん、心底可哀想な子に同情するような、そんな反応やめろ――っ! 逆に傷つくだろうがぁ!
マシェルの優しさが、とても胸に突き刺さる。
「……そ、そうよね。これからよね」
「……そうだぞ、ルクレア。ボレア家令嬢であるお前を、放っておくわけないだろう」
「そうよね! 私ほど、魅力的なパートナー、そういないものね!」
胸を張ってそう言いながらも、口からは乾いた笑いしか出てこない。
……デイビッドすら、アルクという申込者(しかもアルクは三年なのに)がいたというのに、私は0.…く、屈辱的……。なんか女として負けた気分だわ。
思わず項垂れる私に、マシェルがこほんと咳払いを一つ打つ。
「――それに、だ」
思わず顔を見上げて、マシェルを見てしまった私は、瞬時に後悔をした。
苦虫を噛む様な難しい表情を浮かべて、視線を横に逸らすマシェルの頬は、ほんのり赤く染まっていた。
「お前が、その……当日までパートナーが見つからないようなら、私がパートナーになってやってもいいぞ。……今のところ、誰とも約束をしていないしな」
――やべぇ、これ、うっかりまた、マシェルのフラグを立ててしまったっぽい。
「――優しいのね。マシェル。でもいいのよ? 私のことは別にそんな風に気にしなくて。貴方は貴方で誘いたい女性がいるでしょう? 私の為に、せっかくのチャンスが無駄になってしまったら、勿体無いわ」
「いや……残念ながら今のところ、これといって踊りたい相手はいないな。よく知らない相手と共にダンスを踊るよりも、それなりに気心が知れたお前の方が踊りやすいから、私としてもお前がパートナーになってくれるとありがたいな」
「……そんな妥協で私をパートナーに選んだら、結ばれることが出来なくてもせめてもの思い出にと、貴方と舞踏会で踊ることを夢見ている女生徒が悲しむわよ?」
「それは私のパートナーにと望む生徒たちの中から、誰か一人を選んだところで同じだろう。パートナーを務められるのは、一人だけだからな。それに叶うことがないと分かっている想いを抱く相手に、下手に期待を持たせる方が残酷だろう」
「……もしかしたら、パートナーを務めたことで、貴方がその生徒を好きになるかも……」
「ありえんな」
向けられるマシェルの視線が余りに真剣で、マシェルの言葉の真意までしっかり伝わってきて、辛い。
……この状況で、マシェルはトリエットが好きだなんて寝ぼけた自己暗示、掛けられないわ。流石に。……もともと、そんなの単に自分が都合が良いように思いたいだけだってこと、本当は気づいてたし。
表面的にはにこやかに笑みを浮かべながらも、こめかみの辺りに冷たい汗がだらだらと伝っていくのを感じていた。
本当、どうすればいいの。こういう状況って。
だれか、助けて。
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