122 / 191
ルカ・ポアネスという不良
ルカ・ポアネスという不良39
しおりを挟む
「んなひでぇ顔で、うだうだぐちぐち抜かしやがって……おらおらおらおら」
「……あだっ! うえっ! あうぐっ! でっ!」
そしてそのまま高速デコピン(若干強烈)を仕掛けて来るデイビッドに、思わず間抜けな声が漏れた。
予想外の展開に脳がついていけず、思わず目を白黒させて、ぽかんとデイビッドの顔をみてしまう。
…あれ? 確かに私今、かなりシリアス落ち込みしていたはずなのに。あれ? へ?
なんでこんなに、いつも通りなの?
「……ああ。同じブッサイクな面でも、そういういつもの間抜け面の方が100万倍ましだな」
そう言ってデイビッドは、にいと口端を吊り上げる。
「んな小さぇこと気にしてんな。鬱陶しい。お前はいつも通りにしてりゃあいーんだよ。落ち込むのは、俺がすべきことだ」
「……小さいって」
思わず眉間に皺が寄った。
小さいことなんかじゃない。
だって、私のせいで、デイビッドが。
「……っつー!!!!」
そう続けかけた言葉は、再び額を襲った、今まで以上に強烈な一撃に封じられた。
で、デコピンがここまで攻撃力を持つなんて……!!
い、今お星様が見えたぞ……っ! 痛ぇええ!
「だぁってろ、ボケ。小さぇことなんだよ。……たかが、風だ」
悶絶する私を満足げに見やりながら、デイビッドはふんと鼻を鳴らした。
「自然に起きてもおかしくねぇ、ただ少しばかり強いだけのただの風だ。んな風一つの妨害に、まんまと嵌った俺の実力が足りねぇのが悪ぃんだ。お前が気にすることじゃねぇ」
「……で、でも……」
「でももだっても、ねぇ。……ルクレア、お前は主人を貶める気か? あん?」
鋭い目で一瞥され、思わず身を跳ねさせる。
……え? 貶めるって?
何で? 何で、そうなるの?
「――見くびんじゃねぇ、ルクレア。俺は自分の実力不足を棚に上げて、そんな一要因に負けた理由を押し付けるようなことはしねぇよ。俺の下僕がやらかしたことを、ただ一方的に責め立てる程狭量でもねぇ。お前を下僕にしたのは、俺だ。俺が、お前の主人なんだ。ならお前がやらかしたことの責は、結局は俺にあるんだ。……だから、お前に俺が負けることを望ませて、お前の精霊の暴走のきっかけを作らせたのは、俺の責任だ。戦闘能力だけじゃなく、主人としての能力も、力不足だった。それだけの話だ」
迷いのない目で私を見据えながら、きっぱりと言い切るデイビッドの姿に、ぎゅうっと胸が締め付けられた。
……何、それ。
何それ。何それ。何それ。
「……っ! って、何でそこで増々泣くんだ!? てめぇは」
「だ、だっで……」
だぁーっと、滝のように涙が溢れて来た。涙だけじゃない、鼻水もだ。
今私は、本当に最高潮に不細工に泣いていることであろう。今の私の姿は最高に間抜けだろう。
それでも、どうしたって泣くことをやめられない。
「だっで、デイビッドが、格好良ずぎるがらぁー……」
従えるものの責は、主人である自分の責。そう言い切れるデイビッドが、潔くて格好良くて、羨ましかった。
シルフィに責任転嫁をしようとしてしまった自分との差を思い知らされて、情けなかった。
情けないのに、そんな自分が恥ずかしくて仕方ないのに――なのに、同時に、溜まらなく嬉しくて。
本当に全てを受け止めて貰っているような、そんな関係が、なんだかとても幸せで。
色んな感情がぐちゃぐちゃで、もう泣くことしか出来なかった。
自分の感情が訳が分からなくて、脳内がパンクしそうで、ただ本能に身を任せるように泣くことしか出来なかった。
「だから泣くんじゃ……だぁ! もう、仕方ねぇ奴だな!」
怒鳴り声と共に、乱暴に引き寄せられた体は、次の瞬間熱で包まれた。
鼻先にぶつかるのは、自分と同じくらいの広さに見える……それなのに服ごしでも分かるくらいしっかりと筋肉が付いた、女性のそれとは異なる胸板。
「……こうなったら、泣くだけ泣いて、もう流せる水分全部流しちまえ。……ったく、どこまでも世話が焼ける駄犬だ」
そっぽを向きながらそう吐き捨てたデイビッドは、自分の腕の中にいる私の頭を、ガシガシと雑な手つきで撫でた。
「……あだっ! うえっ! あうぐっ! でっ!」
そしてそのまま高速デコピン(若干強烈)を仕掛けて来るデイビッドに、思わず間抜けな声が漏れた。
予想外の展開に脳がついていけず、思わず目を白黒させて、ぽかんとデイビッドの顔をみてしまう。
…あれ? 確かに私今、かなりシリアス落ち込みしていたはずなのに。あれ? へ?
なんでこんなに、いつも通りなの?
「……ああ。同じブッサイクな面でも、そういういつもの間抜け面の方が100万倍ましだな」
そう言ってデイビッドは、にいと口端を吊り上げる。
「んな小さぇこと気にしてんな。鬱陶しい。お前はいつも通りにしてりゃあいーんだよ。落ち込むのは、俺がすべきことだ」
「……小さいって」
思わず眉間に皺が寄った。
小さいことなんかじゃない。
だって、私のせいで、デイビッドが。
「……っつー!!!!」
そう続けかけた言葉は、再び額を襲った、今まで以上に強烈な一撃に封じられた。
で、デコピンがここまで攻撃力を持つなんて……!!
い、今お星様が見えたぞ……っ! 痛ぇええ!
「だぁってろ、ボケ。小さぇことなんだよ。……たかが、風だ」
悶絶する私を満足げに見やりながら、デイビッドはふんと鼻を鳴らした。
「自然に起きてもおかしくねぇ、ただ少しばかり強いだけのただの風だ。んな風一つの妨害に、まんまと嵌った俺の実力が足りねぇのが悪ぃんだ。お前が気にすることじゃねぇ」
「……で、でも……」
「でももだっても、ねぇ。……ルクレア、お前は主人を貶める気か? あん?」
鋭い目で一瞥され、思わず身を跳ねさせる。
……え? 貶めるって?
何で? 何で、そうなるの?
「――見くびんじゃねぇ、ルクレア。俺は自分の実力不足を棚に上げて、そんな一要因に負けた理由を押し付けるようなことはしねぇよ。俺の下僕がやらかしたことを、ただ一方的に責め立てる程狭量でもねぇ。お前を下僕にしたのは、俺だ。俺が、お前の主人なんだ。ならお前がやらかしたことの責は、結局は俺にあるんだ。……だから、お前に俺が負けることを望ませて、お前の精霊の暴走のきっかけを作らせたのは、俺の責任だ。戦闘能力だけじゃなく、主人としての能力も、力不足だった。それだけの話だ」
迷いのない目で私を見据えながら、きっぱりと言い切るデイビッドの姿に、ぎゅうっと胸が締め付けられた。
……何、それ。
何それ。何それ。何それ。
「……っ! って、何でそこで増々泣くんだ!? てめぇは」
「だ、だっで……」
だぁーっと、滝のように涙が溢れて来た。涙だけじゃない、鼻水もだ。
今私は、本当に最高潮に不細工に泣いていることであろう。今の私の姿は最高に間抜けだろう。
それでも、どうしたって泣くことをやめられない。
「だっで、デイビッドが、格好良ずぎるがらぁー……」
従えるものの責は、主人である自分の責。そう言い切れるデイビッドが、潔くて格好良くて、羨ましかった。
シルフィに責任転嫁をしようとしてしまった自分との差を思い知らされて、情けなかった。
情けないのに、そんな自分が恥ずかしくて仕方ないのに――なのに、同時に、溜まらなく嬉しくて。
本当に全てを受け止めて貰っているような、そんな関係が、なんだかとても幸せで。
色んな感情がぐちゃぐちゃで、もう泣くことしか出来なかった。
自分の感情が訳が分からなくて、脳内がパンクしそうで、ただ本能に身を任せるように泣くことしか出来なかった。
「だから泣くんじゃ……だぁ! もう、仕方ねぇ奴だな!」
怒鳴り声と共に、乱暴に引き寄せられた体は、次の瞬間熱で包まれた。
鼻先にぶつかるのは、自分と同じくらいの広さに見える……それなのに服ごしでも分かるくらいしっかりと筋肉が付いた、女性のそれとは異なる胸板。
「……こうなったら、泣くだけ泣いて、もう流せる水分全部流しちまえ。……ったく、どこまでも世話が焼ける駄犬だ」
そっぽを向きながらそう吐き捨てたデイビッドは、自分の腕の中にいる私の頭を、ガシガシと雑な手つきで撫でた。
0
お気に入りに追加
433
あなたにおすすめの小説
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆
白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』
女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。
それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、
愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ!
彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます!
異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆
《完結しました》
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
転生侍女は完全無欠のばあやを目指す
ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる!
*三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。
(本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる