上 下
87 / 191
ルカ・ポアネスという不良

ルカ・ポアネスという不良4

しおりを挟む
 ――別に、望んで主従契約を結んだわけじゃない。

 騙しうちのように魔法にかけられて、無理矢理契約を結ばされただけ。

 それが、自分が過去に精霊達に結ばせた契約と何ら変わらない理不尽さだったから、因果応報だと不承不承受け入れたけど、当然その契約は私にとって嬉しいものじゃなかった。


 誰かに従わされること。
 それ事態を、私の本質的な部分が拒絶した。
 前世からの私は仕方ないと許容しても、「ルクレア・ボレア」である今生の私にとって、誰かに従うというのは……そのうえひどく横暴に扱われるというのは屈辱でしかなかった。


 私は、ルクレア・ボレアだ。

 誰かに頭を垂らすのではなく、頭を垂らされる側の人間だ。

 支配されるのではなく、支配する方の人間なんだ。


 こんな状況、受け入れない。

 許さない。

 認めない。

 私が、こんな辱しめを受けることなぞ、許容してたまるものか……!


 心の片隅に、そんな風に叫ぶ私自身もまた、常に存在していた。

 たが、現状を受け入れないことこそ、よほどみっともないと、浅ましく愚かだと思う別の私が、そんな自分自身を抑えこんでいただけだ。


 私はデイビッドに従うことを、諸手をあげて甘受していたわけではない。
 デイビッドと顔を合わせた時はいつだってそこにはほんの僅かの……私自身ですら時に存在していることを忘れてしまうこともあるくらい、それはひどく小さいものたけど……葛藤や苦悶が存在していた。


 だから、本当は、喜ぶところなのだ。


 例え本当にデイビッドに見限られていたとしても、望まぬ立場から解放されたことを、嬉しいと思うべきなのだ。

「使えない奴」というレッテルを貼られたことは大変腹立たしいが、自分の有能さは私自身が一番よく分かっている。

 こんなハイスペックな私を、使いこなせなかったデイビットが阿呆なのだ。

 そう思って、苦々しい気持ちを押し流せばいい。

 そしてまた、デイビッドと会う以前のように、誰にも縛られない気ままな生活を送ればいいのだ。

 それが一番、楽だ。

 それが一番、私が望む生き方だ。

 ――あぁ、それなのに。


 それなのに、どうして、


 どうしてこんなに胸が締め付けられるというのだ?




「……って、あかんあかんあかんあかんっ!」

 頭を占領する思考を振り払うかのように、私は必死に頭を左右に振る。

 ……何、シリアス拗らせてんの、私。

 似合わないよ、私にこんな思考。

 前世からの適当でちゃらんぽらんな私にも、大貴族としての矜持を持つ、ルクレア・ボレアとしての私にも、どっちにも似合わんよ!


 のう・もあ・しりあす

 いえす・ぷりーず・お気楽思考


 普段が能天気な分、一度ネガティブ突っ走っちゃうとどこまでも突き進んでしまうのは前世からの私の悪い癖だ。
 早めに修正しとかにゃ、取り返しがつかなくなってしまうよ。
 さぁ早く、いつもの私に戻らんと。

「……だいたい別に、見限られたと決まったわけじゃないし……っ!」

 単に、ルカに関してはデイビッドが一人でやるって言われただけだしっ!

 もしかしたら、私が出るまでもないから、ルカ攻略はゆっくり休んでいろっていう、デイビッドなりの優しさかもしれないしっ!

 そうだ、きっとそうだ。そうに違いない。

 大丈夫だ。大丈夫。


 私が傷つく必要なんかない。



 そう、必死に自分に言い聞かせて、荒ぶる自身の心を深呼吸と共に鎮めた。

 いちー、にー、さんー

 心の中で三つ数えて固く閉じた眼を開けば、もう大丈夫。
 もう既にここにいるのは、いつもの私だ。


「……ルカのことで、労力使わんで済んでらっきー。さてさて、デイビッドのお手並み拝見。高見の見物と行きましょーか」


 にぃと口端をあげながら、誰に言うでも呟く。


 なぜこんなにデイビッドに見限られていることを恐れているのか。

 そんな疑問も全て、頭の片隅に追いやってしまって、私は一人、無理矢理笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

悪役令嬢が死んだ後

ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。 被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢 男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。 公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。 殺害理由はなんなのか? 視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は? *一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。 国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。 自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。 はい、詰んだ。 将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。 よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。 国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...