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ルカ・ポアネスという不良
ルカ・ポアネスという不良4
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――別に、望んで主従契約を結んだわけじゃない。
騙しうちのように魔法にかけられて、無理矢理契約を結ばされただけ。
それが、自分が過去に精霊達に結ばせた契約と何ら変わらない理不尽さだったから、因果応報だと不承不承受け入れたけど、当然その契約は私にとって嬉しいものじゃなかった。
誰かに従わされること。
それ事態を、私の本質的な部分が拒絶した。
前世からの私は仕方ないと許容しても、「ルクレア・ボレア」である今生の私にとって、誰かに従うというのは……そのうえひどく横暴に扱われるというのは屈辱でしかなかった。
私は、ルクレア・ボレアだ。
誰かに頭を垂らすのではなく、頭を垂らされる側の人間だ。
支配されるのではなく、支配する方の人間なんだ。
こんな状況、受け入れない。
許さない。
認めない。
私が、こんな辱しめを受けることなぞ、許容してたまるものか……!
心の片隅に、そんな風に叫ぶ私自身もまた、常に存在していた。
たが、現状を受け入れないことこそ、よほどみっともないと、浅ましく愚かだと思う別の私が、そんな自分自身を抑えこんでいただけだ。
私はデイビッドに従うことを、諸手をあげて甘受していたわけではない。
デイビッドと顔を合わせた時はいつだってそこにはほんの僅かの……私自身ですら時に存在していることを忘れてしまうこともあるくらい、それはひどく小さいものたけど……葛藤や苦悶が存在していた。
だから、本当は、喜ぶところなのだ。
例え本当にデイビッドに見限られていたとしても、望まぬ立場から解放されたことを、嬉しいと思うべきなのだ。
「使えない奴」というレッテルを貼られたことは大変腹立たしいが、自分の有能さは私自身が一番よく分かっている。
こんなハイスペックな私を、使いこなせなかったデイビットが阿呆なのだ。
そう思って、苦々しい気持ちを押し流せばいい。
そしてまた、デイビッドと会う以前のように、誰にも縛られない気ままな生活を送ればいいのだ。
それが一番、楽だ。
それが一番、私が望む生き方だ。
――あぁ、それなのに。
それなのに、どうして、
どうしてこんなに胸が締め付けられるというのだ?
「……って、あかんあかんあかんあかんっ!」
頭を占領する思考を振り払うかのように、私は必死に頭を左右に振る。
……何、シリアス拗らせてんの、私。
似合わないよ、私にこんな思考。
前世からの適当でちゃらんぽらんな私にも、大貴族としての矜持を持つ、ルクレア・ボレアとしての私にも、どっちにも似合わんよ!
のう・もあ・しりあす
いえす・ぷりーず・お気楽思考
普段が能天気な分、一度ネガティブ突っ走っちゃうとどこまでも突き進んでしまうのは前世からの私の悪い癖だ。
早めに修正しとかにゃ、取り返しがつかなくなってしまうよ。
さぁ早く、いつもの私に戻らんと。
「……だいたい別に、見限られたと決まったわけじゃないし……っ!」
単に、ルカに関してはデイビッドが一人でやるって言われただけだしっ!
もしかしたら、私が出るまでもないから、ルカ攻略はゆっくり休んでいろっていう、デイビッドなりの優しさかもしれないしっ!
そうだ、きっとそうだ。そうに違いない。
大丈夫だ。大丈夫。
私が傷つく必要なんかない。
そう、必死に自分に言い聞かせて、荒ぶる自身の心を深呼吸と共に鎮めた。
いちー、にー、さんー
心の中で三つ数えて固く閉じた眼を開けば、もう大丈夫。
もう既にここにいるのは、いつもの私だ。
「……ルカのことで、労力使わんで済んでらっきー。さてさて、デイビッドのお手並み拝見。高見の見物と行きましょーか」
にぃと口端をあげながら、誰に言うでも呟く。
なぜこんなにデイビッドに見限られていることを恐れているのか。
そんな疑問も全て、頭の片隅に追いやってしまって、私は一人、無理矢理笑った。
騙しうちのように魔法にかけられて、無理矢理契約を結ばされただけ。
それが、自分が過去に精霊達に結ばせた契約と何ら変わらない理不尽さだったから、因果応報だと不承不承受け入れたけど、当然その契約は私にとって嬉しいものじゃなかった。
誰かに従わされること。
それ事態を、私の本質的な部分が拒絶した。
前世からの私は仕方ないと許容しても、「ルクレア・ボレア」である今生の私にとって、誰かに従うというのは……そのうえひどく横暴に扱われるというのは屈辱でしかなかった。
私は、ルクレア・ボレアだ。
誰かに頭を垂らすのではなく、頭を垂らされる側の人間だ。
支配されるのではなく、支配する方の人間なんだ。
こんな状況、受け入れない。
許さない。
認めない。
私が、こんな辱しめを受けることなぞ、許容してたまるものか……!
心の片隅に、そんな風に叫ぶ私自身もまた、常に存在していた。
たが、現状を受け入れないことこそ、よほどみっともないと、浅ましく愚かだと思う別の私が、そんな自分自身を抑えこんでいただけだ。
私はデイビッドに従うことを、諸手をあげて甘受していたわけではない。
デイビッドと顔を合わせた時はいつだってそこにはほんの僅かの……私自身ですら時に存在していることを忘れてしまうこともあるくらい、それはひどく小さいものたけど……葛藤や苦悶が存在していた。
だから、本当は、喜ぶところなのだ。
例え本当にデイビッドに見限られていたとしても、望まぬ立場から解放されたことを、嬉しいと思うべきなのだ。
「使えない奴」というレッテルを貼られたことは大変腹立たしいが、自分の有能さは私自身が一番よく分かっている。
こんなハイスペックな私を、使いこなせなかったデイビットが阿呆なのだ。
そう思って、苦々しい気持ちを押し流せばいい。
そしてまた、デイビッドと会う以前のように、誰にも縛られない気ままな生活を送ればいいのだ。
それが一番、楽だ。
それが一番、私が望む生き方だ。
――あぁ、それなのに。
それなのに、どうして、
どうしてこんなに胸が締め付けられるというのだ?
「……って、あかんあかんあかんあかんっ!」
頭を占領する思考を振り払うかのように、私は必死に頭を左右に振る。
……何、シリアス拗らせてんの、私。
似合わないよ、私にこんな思考。
前世からの適当でちゃらんぽらんな私にも、大貴族としての矜持を持つ、ルクレア・ボレアとしての私にも、どっちにも似合わんよ!
のう・もあ・しりあす
いえす・ぷりーず・お気楽思考
普段が能天気な分、一度ネガティブ突っ走っちゃうとどこまでも突き進んでしまうのは前世からの私の悪い癖だ。
早めに修正しとかにゃ、取り返しがつかなくなってしまうよ。
さぁ早く、いつもの私に戻らんと。
「……だいたい別に、見限られたと決まったわけじゃないし……っ!」
単に、ルカに関してはデイビッドが一人でやるって言われただけだしっ!
もしかしたら、私が出るまでもないから、ルカ攻略はゆっくり休んでいろっていう、デイビッドなりの優しさかもしれないしっ!
そうだ、きっとそうだ。そうに違いない。
大丈夫だ。大丈夫。
私が傷つく必要なんかない。
そう、必死に自分に言い聞かせて、荒ぶる自身の心を深呼吸と共に鎮めた。
いちー、にー、さんー
心の中で三つ数えて固く閉じた眼を開けば、もう大丈夫。
もう既にここにいるのは、いつもの私だ。
「……ルカのことで、労力使わんで済んでらっきー。さてさて、デイビッドのお手並み拝見。高見の見物と行きましょーか」
にぃと口端をあげながら、誰に言うでも呟く。
なぜこんなにデイビッドに見限られていることを恐れているのか。
そんな疑問も全て、頭の片隅に追いやってしまって、私は一人、無理矢理笑った。
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