上 下
20 / 191
ルクレア・ボレアという女

逆ハーエンドを目指します1

しおりを挟む
 ああ、悪魔様、悪魔様。
 あなたはどうして悪魔なの?
 私の(平穏の)為に
 悪魔という肩書き(というか性質)をお捨てになって?


 はい。この世界には存在しない、かの有名な戯曲作家様の名台詞のパク……オマージュからこんにちは。
 皆の憧れ、カリスマドエスな悪役令嬢、ルクレア・ボレアでございます。

 ただ今学生の本文、勉強に励むべく、昼休みだけど予習済みのノートを開いておりました。いや、才媛なうえに努力も惜しまないワタクシ、とても素敵。
 恐ろしい悪魔の支配に脅える私にとって、クラスの違う悪魔様と関わることがない自分の教室はオアシスだ。
 この教室でなら、私は今まで通りの私でいられる。
 触れれば人を害すような、気高くも美しき毒花のままで。

「――ルクレア先輩? お話があるのですが少々お時間よろしいですか?」

 そんなオアシスすら、侵害する悪魔が、一匹。
 天使のごとく愛らしい顔で、舌ったらずな可愛い言葉を紡ぎながら、上目使いで小首をかしげてらっしゃる。……うん、正体を知っていると普通に悍ましい。
 あ、実は私、エンジェちゃんより1個年長なんですよー。学年が違えばフロアも違う我が学園。普通の学校ならそうだから気にしてなかったけど、改めて考えると設計者素敵だ。素晴らしい。ついでに他学年の生徒は入れない結界も張ってくれればいいのに。

 現実逃避で意識を飛ばしかけていると、業を煮やしたデイビッドが陰でこっそり足を踏んできやがった。
 痛い痛い痛い! わかってます、分かってますよ!

「……あら、どうなさったの、エンジェ。貴女がわざわざ教室まで足を運ぶなんて珍しいこと。嬉しいわ」

 痛みを隠して、友好的にデイビッドに話しかける私に、ざわめくクラスメイト(一般ピーポー)諸君。

 まぁ驚くわな。ついこないだまで蛇笏のごとく嫌って嫌がらせしていた私が、エンジェに親しく反応を返しているんだからな。そりゃあ、何があったんだと思うだろうよ。

「どうしてもルクレア先輩にご相談したいことがあって……今、少しお時間良いでしょうか?」

「……ごめんなさい。エンジェ。可愛い貴方のお願いを聞いてあげたいところだけど、私は今から少し課題の予習をする必要があるの。放課後でも構わないかしら?」

 終わってるけどな。課題。
 だが、短い貴重な昼休み。悪魔にがりがり精神力削られたくないので、さらっと嘘をつかせてもらいます! 嘘をついたらペナルティなのは、一生とは言われてないからこれはノーカンなはず! 演技するうえで、必要な嘘ってあるよね!
 
 ……ちょ、周りにばれないように小さく舌打ちするのやめて!
 足思い切りぐりぐりしないで!

「……構いません。すみません。先輩のご都合も考えずに教室まで押しかけてしまって……」

 本当にな。その言葉が嘘じゃないなら大いに反省してくれ。頼む。

 ……うん、嘘だって分かってますが。だってまだ足痛いもん。寧ろさっきより足の力籠もっているもん。

「気にしないで頂戴、エンジェ。私は貴女の顔が見れて嬉しいもの。貴女ならいつでも歓迎するわ。好きな時に教室まで遊びに来て」

 あぁ、心にもない言葉をすらすら言えてしまう、演技力すらハイスペックな私が憎い。
 微笑みながら、デイビッドの金色の鬘をそっと撫でる。
 気分は百合だ。百合百合なお姉さまだ。どうだ、諸君。親しいを越えて、ちょっと危ない倒錯的な関係に見えるだろう。

 しかしその実態は、女装した鬼畜男と、下僕な美少女なんだぜ!? もう倒錯超えてわけわからん感じだねっ!
 ディビットはちょっと驚いたように目を開いたが、すぐに不敵な笑みを浮かべて、私の演技に乗り出した。

「――ありがとうございます! ルクレア先輩。それじゃあ放課後にまた迎えに来ますね」

 バックに花を散らすような輝いた表情でそう言って……うっは。こいつもようやるわ。

 悪魔様の苛めにあっても物の数分で痕が消えた私の美ほっぺに、掠めるようにちゅーをかましてきやがった。
 同性間でのほっぺちゅーは、この世界では最大の友情表現だ。普通の友人ではまずしない。それこそ大親友と言えるような関係じゃなければ。  
 パニくる一般ピーポーの方々。それを尻目に、颯爽と教室を去るデイビッド。

 ……え、この混乱の中、残されても困るんですが。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆

白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』 女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。 それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、 愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ! 彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます! 異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆  《完結しました》

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す

ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる! *三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。 (本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...