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ルクレア・ボレアという女

悪魔なご主人様3

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「俺は野郎とキスする趣味はねぇ……っつーか、まず効かねぇんだよ。野郎には」

「?」

「俺の【魅了】フェロモンは、女限定なんだ。女だったら口移しでフェロモン注げば、短くても数分は骨抜きに出来る。さっきのてめぇみたいにな。だけど男相手には【酩酊】や、他の効果の魔法は使えても、【魅了】だけは作用しねぇ。まぁ野郎に効果があっても気色悪ぃからいいけどな。だから男を【隷属】させるには、フェロモン魔法以外の方法で落とさなきゃならねぇ」

 なるほど。見かけがいくら美少女にしか見えんでも、悪魔様は生物学的に男。フェロモンはちゃんと男の子のそれらしい。男性ホルモンとか、女性ホルモンとかと関係あるんだろうか。……絶対ゲーム製作者はそんな細かい設定考えてないと思われるだけに、この世界では実際どこまで理論が確立されているか気になるところである。
 しかし、脳内すっかり薔薇の世界に染まってしまった私には、そんなことよりもっともっと気になる点が一つある。 

「……そんだけ分かってらっしゃるってことは、男相手でも試したことがあるってことですよね!?」

「……」

 びぃがえるな実験を行ったわけですよね! 分かります。
 ついでに、悪魔様の可愛さに【魅了】関係無しに乱心した男のせいで、トラウマなっちゃって、そのせいでこんなに性根ひん曲がっちゃったんですよね! 

 ……あれ、駄目だ。それなら【魅了】成功したかもって、なってまう。実験が失敗したと仮定するなら……そうか、きっと、本当は悪魔様、男の子が好きで、だから思い切って【魅了】魔法展開してちゅーしたのに、効果がなくて、気色悪いと、こっぴどく振られたわけですね! それで、色々歪んでしまったと……可哀想。
 可哀想な悪魔様。でも大丈夫ダヨ! 男なんて星の数程いるから! 悪魔様が、性格直して微笑んでいたら、男でもいいって思う奴がかなら……

「―――――っ!!!」

 私は声にならない、悲鳴をあげて悶絶した。
 頭の中が真っ白になり、全身ががわなわなとふるえる。
 あ、あしがっ……!
 長時間の正座によって、痺れまくった足が、悪魔様に思い切り踏まれている……っ!

「ぜってぇ、今てめぇろくでもねぇこと考えていただろ? なぁ?」

 やめてぇ! イイ笑顔で、容赦なく足をぐりぐり踏みにじらないでぇ!
 ごめんなさい、ごめんなさい、ろくでもないこと考えましたごめんなさい!
 だから、足を、足をどけてくださいっ!


 ようやく解放された頃には、私はすっかり抜け殻のようになっていた。

 燃え尽きたさ……真っ白に、燃え尽きて灰になってしまったさ……。

 悪魔様は、そんな私を横目で見やって、ふんと鼻を鳴らす。

「……そういや、さっきてめぇ、俺のことを変な渾名で呼んでいやがったなぁ」

「っ!?」

 すっかり安心していたのに、じ、時間差だと!? しかも、お仕置き直後に、さらにお仕置き案件を出してくるだと!? お仕置きがさらに酷くなるのが目に見えているじゃないか。な、なんという鬼畜っ……!
 しかし、さっき、私は言いかけてやめた筈!
なんて言ったかまでは分かるまいっ! ならばきっと、最悪のお仕置きは防げる筈だ!

「確か『悪魔様』だったかぁ?」

 な、何故全部言っていない筈なのに、その渾名を!? 悪魔様エスパー!?

 目を剥いて驚愕する私に、悪魔様は呆れた顔を浮かべる。

「何だ、その驚いた顔。ハッキリ言ってたじゃねぇか。てめぇが気色悪ぃこと言いやがった時によ」


 ……へ? そ、そんな筈……。ない……よな?

 自分の発言を、改めて思い返してみる。


『だ、だって、悪魔様が、攻略対象どもに囲まれて、チヤホヤされたいって……』

『だ、だって、悪魔様が、攻略対象どもに』

『だって、【悪魔様】が』


 ………。

 …………あははは。言うてたね。私。ぺろっと。



 ――ピンチっ! 絶対絶命のピンチ!

 どなたか近くに、エクソシストの資格を持ってらっしゃる方、おりませんか!?
 おりましたら、今すぐ私を助けてくださいっ!
 
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