上 下
15 / 191
ルクレア・ボレアという女

エンジェ・ルーチェというヒロイン

しおりを挟む
 16年前。
 ルーチェ家に、愛らしい双子の赤ちゃんが生まれた。

 二卵性(ちなみにこの世界にはそういう概念はない。双子は単に双子だ。しかし、せっかくなので前世の知識も交えて分かりやすく説明させて頂こう)で、性別も違う双子だったが、二人はその髪の色を覗けば瓜二つであった。思春期を迎え、第二次性徴が起こり始めてもなお、その差は酷く微々たるもので広がる兆しもなく、良く似た愛らしい姉弟と評判だったという。
 ……別にルーチェちゃんは特別中性的なわけでも、背が高いわけでもないから、これはひとえに悪魔様の性別が間違……いや、成長具合があまり芳しくなか……いや、ちょっと成長期が人よりお遅れになっていたことが原因であると思われる。口を裂けても、本人には言えませんが。

 そんなある日、エンジェちゃんに転記が訪れる。そう、最初に述べた、介抱イベントである。王族を救っちゃって、失われた聖魔法の使い手だと判明し、学園に収集がかかるあれである。
 エンジェちゃんが、そのまま普通に学園に来てくれれば、全く問題は無かった。普通に乙女ゲームが始まっていた。しかし、ここで(私にとって)悲劇が起こる。
 エンジェちゃんは、転生者だった。しかも、こんなマイナー同人乙女ゲームをプレイしたことがあるような、前世の私同様ガチオタクであり、なおかつコミュ障と引きこもりであった。

 え、攻略対象とラブイベント?
やだ、二次元ならいいけど三次元の男怖い。イケメン怖い。周りの嫉妬の眼、怖い。てか、恋愛自体怖い。

 苛め? やだやだやだやだ。絶対泣く。ルクレアのいじめとか、まじきつい。怖い。

 てか、外出たくない。学園とか行きたくない。ずっと家に引きこもって、たまに怪我とか病気の患者さん癒やしてお金貰って、それで生きていきたい。ゲームとか、本気でマジいらない。ヒロインとか絶対嫌だ。怖い怖い怖い、外、怖い

 ……と、なったらしい。

 しかし、エンジェちゃんを学園にと、言ってきたのは王族だ。提案に見せた、命令だ。そこそこ裕福とはいえ、庶民のルーチェ家では逆らうことが出来ない。必死に周囲は説得するが、尋常でないくらい怯えるエンジェちゃんは何を言っても首を縦に振らず、ついに強硬手段に出た。
 聖魔法による、結界魔法の最上級、【異次元別離】を展開したのである。それは、別次元に特別な空間を使って中に閉じこもるという、最大の引きこもり魔法。聖魔法の使い手以外は、まず、どうやっても干渉が出来ない魔法だ。

 ……うむ。エンジェちゃん。家族はとても可哀想だが、そこまで突き抜けているとすごいな。なんという才能の無駄遣い……いや、ある意味では、天はものすごく相応しい人に聖魔法の才を与えたともいえる。引きこもりの鏡だな。

 さて、困ったにはルーチェ家の皆さん。こうなったら、エンジェちゃんを学園に通わせることは不可能だ。かと言って、王族に逆らうわけにはいかない。さて。どうしたものか。
 そこで白羽の矢が立ったのが、エンジェちゃんそっくりの悪魔様。鬘かぶせて、女装させれば、あら不思議。エンジェちゃんがもう一人、あっという間に出来上がり。

 そんなわけで、悪魔様が女装してこの学園に通うことになったらしい。

 ……うん、なるほど。なるほど。
 しかし、私は、本物のエンジェちゃんに言いたい。
 同じ転生者で、そういう事情だって知ったら、私エンジェちゃん虐めたりしないよ? 寧ろ全力で庇って、エンジェちゃんがイベントフラグ折るの全力で協力するよ?
 同じ転生者で、同じ同人ゲームをやった同志。きっとエンジェちゃんとは気が合う気がするんだ。うん、きっと心の友と書いて、心友になれるよっ!
 恋愛なんかそっち抜けで、二人で美しい友情で結ばれた青春の日々を送ろう?

 ――っだから、今からでもお願いします!

 チェンジでっ!

 この悪魔様と、今すぐチェンジでお願いしますっっっ!!!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

悪役令嬢が死んだ後

ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。 被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢 男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。 公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。 殺害理由はなんなのか? 視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は? *一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。 国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。 自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。 はい、詰んだ。 将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。 よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。 国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...