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選択の先1

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「……陛下のこと、好きになってませんよね」

「王妃様と言い、なんで開口一番で聞くことそれなの。初対面の既婚者、好きになるはずないでしょ」

 マリアさんとの面会が終わるなりセルドアの口から出てきた問いかけに、苦笑いが漏れる。
 ……私、そんな惚れっぽいと思われてるのかな。初恋もまだなのに、心外だ。

「陛下は中身は残念ですが、外見だけなら誰よりも魅力的なお方ですから。国一番の権力者ですし心配なんですよ」

 拗ねたようにそうのたまうセルドアに、思わずため息が出る。

「中身が残念で、外見が魅力的な権力者って……セルドアも一緒じゃん」

 私の周りには残念なイケメンが多すぎる。そう思っての嫌味だったのに、何故かセルドアは頬を染めた。

「……リッカは私の外見を魅力的だと思ってくれたんですね」

 見た目は嬉しそうに見えるけど、内心はどうかわからない。いつも見えてたハートは、もう見えないから。
 マリアさんにお願いして、ハートも選択肢もなぞのゲーム演出も全部消してもらった。

 ……うん。やっぱり、こっちの方がいいなあ。

「ねえ、セルドア。前、私、この世界がもとの世界においてゲームだったって言ったよね」

「? はい。聞きましたが」

「そのゲームでは、私が主役でセルドアは攻略キャラの一人……選択肢次第では脇役になりうるキャラらしいんだけど、どう思う?」

 セルドアは少しキョトンとした表情で考えたあと、小さく首をかしげた。

「……特に何も。誰かの視点の物語では、誰かが脇役になりうるのは当然のことでしょう?」

 まあ、私はリッカの物語ではヒーローでいたいと思ってますが。さらりとそう言ったセルドアに、自然と、口もとが緩んだ。


 そう。当たり前のことなんだ。誰かの物語では、自分が脇役になるのは。

 だって誰だって自分の人生では、自分が主役なんだから。

「ねえ、セルドア。もしこの世界がフィクションの世界だとして。描かれてない設定の先や、用意されてなかった選択肢の先には、一体何があるのかなあ」

「愚問ですね」

 私が欲しい言葉を当然のように口にしながら、セルドアは笑った。

「未来があるに決まっているでしょう。異なる世界でフィクションとして切り取られている部分は、あくまで無数の可能性のうちの一つに過ぎないのですから」
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