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ハルクイベント10

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 やばい。
 そう思った瞬間、暴れるマンドラゴラを火事場の馬鹿力で引き抜き、バケツに放り込んだ。
 念のため、しっかりとバケツのふたも締め、すぐに残った片耳の耳栓型魔具を外して、ハルクに向き直る。

「……っハルク! 大丈夫!?」

 ハルクは私の片耳を塞いだ体勢のまま硬直していて、焦点が定まっていなかった。
 マンドラゴラの叫び声の効果は品種改良の結果や生育環境によって違うと言ってたハルクの言葉を聞いて、唇を噛む。
 ……ハルクが一人で弱効果で試した後に、特に言及していなかったみたいだから、そこまで重篤なものではないと思うけど。

「……ハルク、ハルク! お願い、目を醒まして!」

 呼びかけながら、ぺしぺしとほっぺをはたくと、徐々にハルクの焦点が定まっていくのが分かった。

 ……ああ、よかった。本当、大したことはないみたい。

 焦点が戻ったハルクは、きょとんとしたどこかあどけない表情でジッと私を見据えたあと、こてんと首をかしげた。

「……お姉さんは、一体どなたですか?」

 --すごく大したことあった。



「……なるほど。マンドラゴラの叫び声の効果で、僕は一時的に精神が子ども時代に退行しているということですね。そのようなマンドラゴラの事例を聞くのは初めてですが、大人の僕がまとめた研究成果を見る限り、その可能性はとても高そうです。実に興味深いですね」

 ……この貴族的な優雅な物腰でお茶を啜る、見かけも中身も完全にショタは一体誰だろう。
 見た目にはぴったりなんだけど、普段のハルクとのギャップがひでぇ。

 私が預かっていた研究資料とハルクが持参していたらしき研究資料を見終えた彼は、静かに空のコーヒーカップを机に置いた。

「お茶、ごちそう様でした。とても美味しかったです」

「あ、はい。口にあったなら、よかったです……」

 ……ハルクはもう大丈夫だとセルドアを説得して、家の中にも入れるようにしてもらっててよかったな。こんな上流階級のご子息に、外でお茶させられない。
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