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「正しい」選択

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 ハルクはふんと鼻を鳴らすと、そのまま白い布を私の顔から取り除いた。
 そこで、それがハンカチだったことをようやく見てとることができた。

「……言っておくが、オレは泣いてるガキの慰め方なんか知らんぞ。だから変な期待はするな。そもそもオレは、お前の事情なんぞ何も知らないしな」

「…………」

「ただ……オレは、自分が選んだ道を後悔なんかしてないし、何度人生をやり直したとしても植物学者になるだろう自信はある。……けれど、それが必ずしも『正しい』道だなんては思ってないことだけは、お前に伝えておく」

 私の涙で濡れたハンカチを、気にする様子もなくそのままポケットにしまいながら、ハルクは難しい顔でそっぽを向いた。

「……オレがしたことは間違いなく親不孝な行為だし、ある意味では育ててもらった恩を徒で返したとも言える。植物を学術的観点から探求することは、その神秘性を失わせることでもあるからな。家族という観点から考えれば、オレがしたことは明らかに間違った行為だった」 

「……そんなことは」

「あるんだよ。オレ自身が誰よりそれをよく知っている。だからこそ、もっともらしく『植物学者だって人を救える』と主張することで、自分を正当化しているんだ」

 だからーーオレは自分がしたことと同じ行為を、他の誰かに強いるつもりはない。

 そう言って、ハルクは真っ直ぐ私を見据えた。

「オレは、何かを選択することに、正しいも間違っているもないと思っている。ただ、そこには選んだ行為と、その結果があるだけでな。見方次第では、どんな行為だって正しくなるし、間違っているとも言える」

「…………」

「だからこそ、何かを選択する時は自分が一番後悔しないと思う道を選ぶべきだし、その為に自分が納得できるだけ悩む必要があるんだ。ーーだから、せいぜいお前は悩めばいい。納得ができる答えが出るまで、とことんな」
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