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もっともっちゃ、もっともだよね
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セルドアに声を掛けたのは、くるりんとカールした鼻ひげが印象的な、高そうな衣服を身に纏った中年男性だった。
……あ、なんか嫌な予感。
私はさり気なく、あくまでさり気なーく、セルドアから距離をとって、そっぽを向く。
私は、その「氷の魔術師長殿」とは一切関係ない、通りすがりの一般人ですよー。ついでにいうと、先ほどそこの高そうなレストランから出てきたように見えたかもしれないのは、貴方様の目の錯覚ですよー、と。
「……そのような悪意ある渾名で人を呼ぶのは、やめて頂けませんか」
しかし、せっかく取った距離は、セルドアが私の腕を掴んで、引き寄せたことでリセットされた。
やめて、セルドア。私を巻き込まないで。この先の展開読めてるから。
男性はセルドアの絶対零度の視線をものともせずに、おかしそうに笑ってくるりんひげを指で撫でた。
「何故です? どれほど高位の貴族から目を掛けられようと、けして迎合せずに孤高を気取る貴方様には、ぴったりの渾名ではありませんか」
「……魔術師に、必要なのは魔術の腕だけ。貴族の後ろ盾は必要ありませんから」
それでは失礼とだけ短く言い放ち、私の背中を押すセルドアに、くるりんひげのおじさんは嘲りの視線を向けた。
「……高位貴族の誘いは断っても、そのようにこきたない庶民の少女とは交流するのですな」
ーーっほら、やっぱり、私巻き込まれたー!
だから、他人のふりしたのに、セルドアよ。空気読んでくれ……!
「私が誰と交流しようと、私の勝手でしょう? 貴方に指図される筋合いはありません」
「まあ、それもそうですけどね」
男性はくるりんひげを指でつまんで伸ばしながら、器用に片眉を上げた。
「高貴な者が集まる場には、その場に相応しい服装は必須だと吾輩は思っています。……氷の魔術師長殿は、金銭には困ってないのだから、もう少し彼女の服装を気遣って差し上げるべきでは?」
まあ……もっともと言えばもっともな言葉だな。
……あ、なんか嫌な予感。
私はさり気なく、あくまでさり気なーく、セルドアから距離をとって、そっぽを向く。
私は、その「氷の魔術師長殿」とは一切関係ない、通りすがりの一般人ですよー。ついでにいうと、先ほどそこの高そうなレストランから出てきたように見えたかもしれないのは、貴方様の目の錯覚ですよー、と。
「……そのような悪意ある渾名で人を呼ぶのは、やめて頂けませんか」
しかし、せっかく取った距離は、セルドアが私の腕を掴んで、引き寄せたことでリセットされた。
やめて、セルドア。私を巻き込まないで。この先の展開読めてるから。
男性はセルドアの絶対零度の視線をものともせずに、おかしそうに笑ってくるりんひげを指で撫でた。
「何故です? どれほど高位の貴族から目を掛けられようと、けして迎合せずに孤高を気取る貴方様には、ぴったりの渾名ではありませんか」
「……魔術師に、必要なのは魔術の腕だけ。貴族の後ろ盾は必要ありませんから」
それでは失礼とだけ短く言い放ち、私の背中を押すセルドアに、くるりんひげのおじさんは嘲りの視線を向けた。
「……高位貴族の誘いは断っても、そのようにこきたない庶民の少女とは交流するのですな」
ーーっほら、やっぱり、私巻き込まれたー!
だから、他人のふりしたのに、セルドアよ。空気読んでくれ……!
「私が誰と交流しようと、私の勝手でしょう? 貴方に指図される筋合いはありません」
「まあ、それもそうですけどね」
男性はくるりんひげを指でつまんで伸ばしながら、器用に片眉を上げた。
「高貴な者が集まる場には、その場に相応しい服装は必須だと吾輩は思っています。……氷の魔術師長殿は、金銭には困ってないのだから、もう少し彼女の服装を気遣って差し上げるべきでは?」
まあ……もっともと言えばもっともな言葉だな。
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