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冷たい卵

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「……ルートさん。お話を聞く限り、ずいぶん長いことここにいたみたいですが、その間ずーっとただ卵を見つめていたのですか?」

「ああ。……あんまり、俺が触れたり、話かけるともっと機嫌が悪くなるからな」

 ……いや、あんまり構われるのもウザいかもしれないけど、ただただ見つめられるのもそれはそれで怖いし気持ち悪いでしょう。特にルートさんみたいに、大きくて、強面なら、よけいに。

「……ルートさんは、きっと卵に構い過ぎなんですよ。王宮から卵が離れたのは、良いきっかけかもしれません。まずは、接触時間を短くしてみたらいかがでしょう」

 もちろん、そんなことを正直に言えるはずがないので、とりあえずできる限り本音をオブラードに包みながら、そう提案する。

 ……まあ、本音では、あんまり長時間ドラゴン舎に居座られても困る……というより怖いから、会いにくる頻度を減らして欲しいなんても思っているわけだけど。

 しかし私の言葉が納得がいかなかったのか、ルートさんは眉をひそめた。

「……だが、俺はこのやり方で、親ドラゴンに世話係として認められることに成功したんだぞ。火を吹きかけられようが、尻尾で叩かれようが、諦めずに愛を乞い続けた結果が、今の俺だ」

 ……ああ、うん。

 親ドラゴンーー恐らくはしつこ過ぎるルートさんに根負けしてしまったんだな。

 気持ちは分かるよ。私も昨日、ルートさんのしつこい懇願に耐えきれないで、ちょくちょく卵の様子見に来ること了承しちゃったし。

「……分別がある大人のドラゴンと、まだ生まれる前の卵を一緒にしては駄目ですよ。……ねえ、卵くん?」

 そっと手を伸ばして、ドラゴンの卵を撫でる。
 触った瞬間、昨日と全く違うひやりとした感触にぎょっとしたが、すぐに触れた部分から広がるように卵全体が温かくなり、どきんどきんと脈動しはじめた。

「……やっぱり、清らかな乙女が相手だと、全然違いますね」
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