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やむを得ない呼称

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「……そうか。リッカ。感謝する」

 私の言葉に、小さく微笑むルートさん。
 ……強制選択肢でハートの色が紫に変わるとは、まあ、随分とちょろい。
 いや、それだけ、ハートが紫色になることは簡単だということか。セルドアやパックさんも、あっという間だったしな。
 ハートの色が赤になるまで、あと何段階あるか分からないけど、とりあえず色に関しては気にしないでおくことにしよう。

「……それでは。ルート。リッカに町の案内をしなければいけないので、私達はこの辺で失礼しますね」 

「ああ。必要なことは伝えたから、問題ない。……リッカ。俺は一人でもう少し、卵と触れ合っていても構わないだろうか」

「……ドーゾ、ドーゾ」

「ありがとう」

 ……そして、許可を与えるなり、早速ドラゴンの卵に夢中で、こっち見向きもしねぇ。
 紫色が、いかにショボい変化なのか、よく分かるな。

「……それじゃあ、リッカ。町へ向かいますよ。着いて来て下さい」

「あ、はい。分かりまし……!」

 ……ちょっと待てよ。
 さっき、セルドアは町にあるお店まで、徒歩で30分くらい掛かるって言ったな。

 そして、さっきの流れのままなら、町に到着するまであの不自然な動きで、無言のまま移動することになる。

 ……それ、一緒に歩いている私、きつくない?
 30分も、あの状態の不気味なセルドアの隣にいるの、苦行過ぎない?

 気がついた頃にはセルドアは、既に扉から出てしまっていた。
 慌てて後を追ったものの、外に出る頃にはセルドア既に遠くをすたすたと歩いていた。

 ちょ、速い速い速い!
 これ、無言で変な動きをするセルドアが気持ち悪いとか、それ以前の問題だから!
 下手したら、このまま街に行けずに見失うから。

「ちょ、待って。待って下さい、セルドア様!」

 駆け足でセルドアの背中を追い掛けながら叫んだけれど、距離があるせいで全く聞こえていないようだ。

 ……くそっ、これだけはやりたくなかったけど仕方ない。

 私は大きく息を吸い込むと、両手を口元にあてて叫んだ。

「ーー待って! セルドアお兄様!」
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