転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

今世のお仕事

　……結論から言えば、新しい人生における両親も、前世の両親同様に、けして悪い人間ではなかった。すわ育児放棄かと怯えた身としては、ありがたい限りだ。

　ただ、儚げで美しい母さんは、見た目通り病弱で、姉と私を生んだ後に他の子どもを産むは難しいと言われていて。
　ゴリゴリマッチョな父さんは、自分の牧場を継ぐ、逞しい跡取り息子が欲しかったと言うだけで。

　ーー古い。古いよ。父さん。
　今の時代、男女同権。
　後継が女だって良いじゃないか！

　5歳上の母さんそっくりの美しい姉さんは、体の弱さまで母さんに似ちゃって、牧場の仕事なんてとても耐えきれない。
　
　つまり、父さんの手助けができるのは、私しかいないわけで。
　ええ。性別なんて、些細な問題ってことを両親に分からせる為に、私頑張りましたよ。



「……ふ。コッケよ。毎朝毎朝、こうも私に懲りずに立ち向かうとは、いい根性してるな。若手の中では、お前が一番だよ」

　殺意の籠もった視線を送るコッケに不敵に笑いかけると、魔力遮断ゴーグルをきつく締め直して、卵捕獲用の網を構える。

「ーーまあ、この私から、卵を守り抜こうだなんて、100年早いけどな!」

　ーーやりました!　リッカ選手。コッケの嘴による攻撃を華麗に避けました!

　しかし、案の定フェイントです。本命は尻尾の蛇による攻撃!　私のゴーグルを奪って石にする気です!　……考えることは、どの個体も一種だな!　もうこのパターン慣れっこだよ!

　反対の手で持った護身用の棒に、蛇の頭を絡めさせながら、ちょちょいのちょいで卵を奪う。

　……こいつら、そもそも先祖が、雄鳥の突然変異体から生まれた卵が、ヒキガエルの魔物の魔力に当てられて誕生したとかいう謎生物だから、雌雄関係なく卵産むんだよね。
　雄だって理由でつぶさなくてもいいのはありがたいけど、やっぱり雄の個体は、雌より乱暴で困る。

　卵を奪うなり、すぐに防御扉を閉めて、コッケ専用の個室から出る。

　……おおう。防御扉、めっちゃつついてる。つついてる。その内これ、穴あくんじゃないか?
　父さんにそろそろ、設備投資してもらうように言っておかないとなー。

「ようし。今日も、全卵逃さず回収完了!　……母さん、ご飯炊いてくれてるだろうから、小さめなの一個もらって卵かけご飯にして食ーべよっと」

　転生したのは、幻想生物やら、魔法やらが普通に存在するファンタジー世界。
　育てる家畜も、普通じゃありませんでした。

「……いや、やっぱり目玉焼き丼にしようかな。コカトリスの卵の、巨大目玉焼き美味しいんだよね。一個で何人前も作れる、ふわふわ卵焼きも捨てがたい」

　ーー今世の実家は、養鶏場ならぬ、養コカトリス場でした。

　毎日石化の危険と隣り合わせながらも、楽しくお世話させて頂いております!