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番の最期②
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「獣人の場合、生まれてすぐに高い身体能力を発揮するものもいるが、それにしても前兆がなさ過ぎる。敢えて力をセーブしていたわけではないだろうが……」
「た、大変だ! 今すぐアイルを探しに行かないとっ」
「落ち着け。エディ。チルシアが捜索よりも報告を優先しているのだから、既に居場所は特定できているはずだ」
「そ、そうなんですか?」
「はい。居場所もわかっていて、大きな危険もなさそうなのですが……その、お二人の許可なしには、追いかけにくい場所で」
「どこ? アイルは一体どこに?」
「……この部屋の、天井裏です」
「へ?」
慌てて魔力を探知すると、確かに真上からアイルの魔力の気配が。けれど、普段に比べても非常に気配が弱い。アストルディア由来の無属性の力だろうか。
魔力の気配を感じた辺りを注視すると、隙間からこちらを見つめる二つの黒い瞳と目が合った。
「……【アイルを、ここに】」
「きゅ~っ!」
対象の座標がわかれば、転移で呼び寄せが可能だ。
膝の上に現れたホコリまみれの黒い子犬は、さも「ママが恋しかった!」とばかりに、マズルを擦り寄せてきたが。
「……誤魔化されねーぞ。アイル、お前、俺達の行為を覗いてただろ?」
「きゅ?」
「というか、記憶あんのか? それとも単に性癖受け継いだだけか? どっちなんだ?」
問いただしても、とぼけるように首を傾げるばかりで、アイルは答えてくれない。……まあ、そもそもまだ人語話せないしな。隠してるだけかもだが。
「エディ? 記憶があるとは……?」
「また今度話すよ。結構長い話になるから。信じてもらえねーかもだけど」
そういや、前世バラしイベントとかすっ飛ばしてたな。まあ、正直してもしなくても同じだと思ってたしな。
「信じるに決まっているだろう。エディが言うことならば」
きっと、話した所でアストルディアは何も変わらないし、俺自身も何も変わらないと確信しているから。
衝撃の真実はもう互いに暴露し尽くしたから、前世要素はもうオマケみたいなもんだろう。
「今日はもう、親子で寝るかあ。……チルシアさん、申し訳ないけど、後10分くらいアイル預かっておいて。その、色々後始末しなきゃならないので」
「はい、もちろんです……久しぶりのお二人の時間なのに、本当に申し訳ありませんでした」
洗浄魔法をかけたアイルをチルシアさんに引き渡し、部屋を出たのを確認してから何とか出せるくらいのサイズになった瘤を引き抜く。アストルディア的には物足りないだろうが、文句は言わなかった。
「……アイル対策ができるまで、暫くは次のエッチはお預けだな」
「そうだな。既に無属性を使いこなしているから、結界も突破しかねん」
「がっかりしてるか?」
「してないと言えば嘘になるがな。親として、アイルを慈しみ大切にすると決めているから、多少の我慢は仕方ない。それに、老衰で共に死ぬなら、エディと過ごす時間はこれから半世紀以上あるんだ。それを思えば、我慢の期間も大したことはない」
「……ジジイになってもヤる気か。アスティ」
「嫌か?」
「嫌というか、さすがに生物的に無理がある気がする……」
まあ、でもジジイになってもイチャイチャできるのは、とても素敵な気がする。
アストルディアと自分、そしてベッドに洗浄魔法をかけ、亜空間ボックスの中の予備の寝間着を纏って、アイルを迎える体勢を整える。まだ完全には小さくなってないちんこを無理やりズボンに収めるアストルディアを生ぬるく見守りつつ、落ち着いた所でそっとその唇にキスをした。
「……まあ、毎日色々あるけど。それでも俺は、大好きなアスティの番になれて、愛の結晶であるアイルも生まれて。すごくすごく、幸せだよ。昨日より、今日。今日よりも明日、もっともっと幸せになろう。家族みんなで。そしたらきっと、数十年後には積もり積もった、でっかい幸せの中で死ねるはずだからさ」
「もう十分過ぎるくらい、幸せなんだがな」
「もっと、もっとだよ。そんで、俺達の幸せを、国のみんなにもお裾分けしてさ。国民みんなが幸せになれるように、頑張ろうぜ。きっと俺達ならそれができるはずだから」
人間と獣人の軋轢が消えたわけじゃないし、獣人内の種族間格差に至ってはまだ何も解決していない。まだまだ問題は山積みだ。
それでもきっと、俺達ならこの国の状況を変えられるはずだ。運命すら変えられた俺達なら、きっと。
「ーーそれじゃ、アイルに迎えに行こうか。俺達の可愛い息子を」
未知の未来への第一歩のように、アストルディアと手を繋ぎ、廊下へと続く扉を開けた。
第三代セネーバ国王アストルディア・セネバは、長いセネーバの歴史の中で最も偉大な国王と言われている。
人間の王妃であるエドワード・セネバと共に、当時は敵対関係にあった人間との和睦に尽力し、今日の種族間格差のない共生社会の基礎を築いた。
また、当時は被差別対象だった草食獣人の地位向上にも努め、その結果獣人の出生率が大幅に改善されたと考えられている。
愛妻家で有名だったアストルディアは、エドワードとの間に、セネーバの娯楽の発展させたことで知られる第四代国王アイルディア・セネバをはじめに、二男一女をもうけた。家族関係に恵まれないことが多い王族の歴史の中では珍しいことに、非常に良好な親子関係を築き、三人の子は両親が亡くなった際には皆声をあげて泣き、その死を惜しんだと伝えられている。
享年83歳。
公式の記録では、エドワードと二人同時にベッドで老衰で亡くなったと記されているが、あまりにも非現実的な亡くなり方の為、どちらかが、あるいは両方がデワリュセの樹液の毒を使用したのではないかと言われているのだが、その真偽はわかっていない。
「た、大変だ! 今すぐアイルを探しに行かないとっ」
「落ち着け。エディ。チルシアが捜索よりも報告を優先しているのだから、既に居場所は特定できているはずだ」
「そ、そうなんですか?」
「はい。居場所もわかっていて、大きな危険もなさそうなのですが……その、お二人の許可なしには、追いかけにくい場所で」
「どこ? アイルは一体どこに?」
「……この部屋の、天井裏です」
「へ?」
慌てて魔力を探知すると、確かに真上からアイルの魔力の気配が。けれど、普段に比べても非常に気配が弱い。アストルディア由来の無属性の力だろうか。
魔力の気配を感じた辺りを注視すると、隙間からこちらを見つめる二つの黒い瞳と目が合った。
「……【アイルを、ここに】」
「きゅ~っ!」
対象の座標がわかれば、転移で呼び寄せが可能だ。
膝の上に現れたホコリまみれの黒い子犬は、さも「ママが恋しかった!」とばかりに、マズルを擦り寄せてきたが。
「……誤魔化されねーぞ。アイル、お前、俺達の行為を覗いてただろ?」
「きゅ?」
「というか、記憶あんのか? それとも単に性癖受け継いだだけか? どっちなんだ?」
問いただしても、とぼけるように首を傾げるばかりで、アイルは答えてくれない。……まあ、そもそもまだ人語話せないしな。隠してるだけかもだが。
「エディ? 記憶があるとは……?」
「また今度話すよ。結構長い話になるから。信じてもらえねーかもだけど」
そういや、前世バラしイベントとかすっ飛ばしてたな。まあ、正直してもしなくても同じだと思ってたしな。
「信じるに決まっているだろう。エディが言うことならば」
きっと、話した所でアストルディアは何も変わらないし、俺自身も何も変わらないと確信しているから。
衝撃の真実はもう互いに暴露し尽くしたから、前世要素はもうオマケみたいなもんだろう。
「今日はもう、親子で寝るかあ。……チルシアさん、申し訳ないけど、後10分くらいアイル預かっておいて。その、色々後始末しなきゃならないので」
「はい、もちろんです……久しぶりのお二人の時間なのに、本当に申し訳ありませんでした」
洗浄魔法をかけたアイルをチルシアさんに引き渡し、部屋を出たのを確認してから何とか出せるくらいのサイズになった瘤を引き抜く。アストルディア的には物足りないだろうが、文句は言わなかった。
「……アイル対策ができるまで、暫くは次のエッチはお預けだな」
「そうだな。既に無属性を使いこなしているから、結界も突破しかねん」
「がっかりしてるか?」
「してないと言えば嘘になるがな。親として、アイルを慈しみ大切にすると決めているから、多少の我慢は仕方ない。それに、老衰で共に死ぬなら、エディと過ごす時間はこれから半世紀以上あるんだ。それを思えば、我慢の期間も大したことはない」
「……ジジイになってもヤる気か。アスティ」
「嫌か?」
「嫌というか、さすがに生物的に無理がある気がする……」
まあ、でもジジイになってもイチャイチャできるのは、とても素敵な気がする。
アストルディアと自分、そしてベッドに洗浄魔法をかけ、亜空間ボックスの中の予備の寝間着を纏って、アイルを迎える体勢を整える。まだ完全には小さくなってないちんこを無理やりズボンに収めるアストルディアを生ぬるく見守りつつ、落ち着いた所でそっとその唇にキスをした。
「……まあ、毎日色々あるけど。それでも俺は、大好きなアスティの番になれて、愛の結晶であるアイルも生まれて。すごくすごく、幸せだよ。昨日より、今日。今日よりも明日、もっともっと幸せになろう。家族みんなで。そしたらきっと、数十年後には積もり積もった、でっかい幸せの中で死ねるはずだからさ」
「もう十分過ぎるくらい、幸せなんだがな」
「もっと、もっとだよ。そんで、俺達の幸せを、国のみんなにもお裾分けしてさ。国民みんなが幸せになれるように、頑張ろうぜ。きっと俺達ならそれができるはずだから」
人間と獣人の軋轢が消えたわけじゃないし、獣人内の種族間格差に至ってはまだ何も解決していない。まだまだ問題は山積みだ。
それでもきっと、俺達ならこの国の状況を変えられるはずだ。運命すら変えられた俺達なら、きっと。
「ーーそれじゃ、アイルに迎えに行こうか。俺達の可愛い息子を」
未知の未来への第一歩のように、アストルディアと手を繋ぎ、廊下へと続く扉を開けた。
第三代セネーバ国王アストルディア・セネバは、長いセネーバの歴史の中で最も偉大な国王と言われている。
人間の王妃であるエドワード・セネバと共に、当時は敵対関係にあった人間との和睦に尽力し、今日の種族間格差のない共生社会の基礎を築いた。
また、当時は被差別対象だった草食獣人の地位向上にも努め、その結果獣人の出生率が大幅に改善されたと考えられている。
愛妻家で有名だったアストルディアは、エドワードとの間に、セネーバの娯楽の発展させたことで知られる第四代国王アイルディア・セネバをはじめに、二男一女をもうけた。家族関係に恵まれないことが多い王族の歴史の中では珍しいことに、非常に良好な親子関係を築き、三人の子は両親が亡くなった際には皆声をあげて泣き、その死を惜しんだと伝えられている。
享年83歳。
公式の記録では、エドワードと二人同時にベッドで老衰で亡くなったと記されているが、あまりにも非現実的な亡くなり方の為、どちらかが、あるいは両方がデワリュセの樹液の毒を使用したのではないかと言われているのだが、その真偽はわかっていない。
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