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いつか来る最期

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 予想外の、即答だった。

「い、いや、別にチルシアさんを不服に思ったとか、そう言うわけじゃなくてさ。俺なんかのお目付け役をやっているより、チルシアさんにはもっと相応しい役職があるんじゃないかと思って」

「アストルディア様が狼獣人である以上、番である貴方をお守りする以上の重職はありません。そうでなくとも、リシス王国とセネーバの橋渡しに尽力する貴方の仕事は、国の未来を左右する重大任務。どうか、お傍にいさせてください。剣の腕は、もっと鍛えます。次に同様のことがあれば、エドワード様を殴ってでも、お止めします。だから、お願いします」

 ……こんな風に言ってくれるチルシアさんだからこそ、もっと良い仕事があるんじゃないかと思ったんだけど。
 でも、そうだよな。アストルディアが王になる以上、セネーバの未来は番である俺が握ってるも同然だもんな。あの厳格な女王ですら業に抗えなかったことを考えると、狼獣人の番への執着は、もはや呪いだし。

「……わかった。それじゃ、これからもどうかよろしくお願いします」

「ありがとうございます」

「ーー俺はきっと、1日でもアストルディアより長生きしなきゃなんないだろうなぁ」

 今まで俺の中で、俺自身の命の優先順位はけして高くなかった。
 大切なものを守る為なら、命を投げ出す選択肢はいつだって頭の隅にあったのだけど。考えを変える必要があると、改めて実感させられた。
 ……だって、命を賭けて大切なものを守ったとしても、俺が死んで壊れたアストルディアが、絶望して全てをぶっ壊す可能性は0じゃないわけだろ? 守った意味ないじゃん。死に損じゃん。
 そもそもアストルディア自身も、俺の中の大切なものの上位に入っていることを考えれば、ますます絶望しか生まれない。
 けれど俺が生きている限り、アストルディアは俺ごと俺の大切なものを守ろうとしてくれる。人類最強のポテンシャルを持つ俺が絶対に勝てない最強の敵が、俺が生きている限り最強の味方であり続けるのだ。これ以上頼もしいことはない。

「よし、決めた! 俺は絶対長生きをするし、もしもの時はアストルディアも連れて逝く! 申し訳ないけど、その時はチルシアさん、後始末をお任せしますね」

「……堂々と国王暗殺の未来予告をなさらないでください。でも、そうですね。その時は、私は全力で遺されたアイル様をお守りし、お支えすることを誓います」

「ありがとう。……そういえば、チルシアさんはまだ、アイルを抱っこしてなかったよな。せっかくだから、会ってあげてください」 

「い、いいのですか?」

「アイルもきっと、喜ぶよ。……絶対チルシアさん、好みの顔だから」
 
 もしかしたらいつか、原作エドワードが望んだように、この手でアストルディアの命を奪う未来もあるのかもしれない。
 逆に、俺を置いて逝くことを恐れたアストルディアから、殺されることもあるかもしれない。
 でも、それは間違いなく、お互いにとっては幸せな最期なのだろう。
 いつか終わりの時が来るまで、今はただ共に生きられる喜びを、噛み締めていようと思う。



「……それで、人化したチルシアの姿を気に入ったアイルがべったり離れず、あいつが寝かしつけをすることになったのか」  
 
 こめかみに青筋を作ったアストルディアが、獣のように唸る。

「チルシアさんなら、アイルを預けても大丈夫だと思ったんだけど……まずかったか?」

「そう言う意味では、心配していない! まだ生まれたばかりなのに、アイルが番を見つけたのかと思っただけだ。……嫁入りも、婿入りも早すぎるだろう」

「いや、ただ単に中性的な美形が好みなだけだと思う」

 クリスやレオにもべったりだしな……にしても、驚異的な気に入りっぷりだと思ったが。明らかに、まなの嗜好が反映している気がするのは、考え過ぎだろうか。
 原作主人公は、重すぎる過去を持つ薄幸の美少年だったはずなのに、完全にギャグキャラ化している。
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