俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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真犯人は

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 翌日。少し不安もあったが、クリスも残ってくれると言うことだったので、辺境伯家にアイルを預け、アストルディアと二人でセネーバに転移した。
 アストルディアが予測した通り、何かの罠のようにあっさり検問を抜け、俺達は結婚の挨拶に出向いた時と同じように王宮の女王陛下の元へ通された。

「ーーよくぞ、戻りましたね。アストルディア。エドワードさん」

 檜の匂いが充満する王の間で、護衛もつけずに一人佇むエルディア女王が、艶然と微笑みながら俺達を出迎えた。

「戦争を回避できるかは、賭けでしたが。見事、レンリネドとリシス王国、二国の開戦派の声を封じ、我が国最大の危険因子であるヴィダルス一行を打ち倒しましたね。私の見る目は、間違ってませんでした。やはり、貴方達が次期王とその伴侶に相応しい」

 そう言ってアストルディアの前まで進み出た女王は、天井を見上げてその首を晒した。

「さあ、アストルディア。最後の試練です。母の首を斬り、王位を簒奪なさい。狂った女王を打ち倒し、王となって新たな時代を作る。それほど、貴方の門出として相応しい物語はない」

「……やはり、母上が父上を殺したのですか」

「ええ。ニルカグルの役目は終わりました。かつては救国の英雄の一人であっても、私怨で目を曇らせ、貴方の即位を邪魔する老害に成り果てた。生かしておく、意味はありません」

「っ貴女の番でしょう!」

「違います。首に噛み跡があっても、子を成しても、私がニルカグルが番だったことは一度もありません。あれは、父アルデフィアだけを愛していたし、私もあれに番としての愛を向けたことはない。心の繋がりなくして、番になれるはずがありません」

 僅かな動揺も見せることなく、女王は誇らしげに目を細めた。

「私の番は、セネーバです。私は、国の為に全てを捧げて生きてきました。愛するこの国の為なら、私は喜んで伴侶を殺しますし、息子だって陥れます」

「……俺のもとに送られてきた刺客は、人間でした。エドワードと手を組みレンリネドからやって来たと言う刺客の言葉を信じた俺の部下はエドワードを疑い、俺自身はエドワードがレンリネドに囚われているのだと思い込んでしまった。貴女はどうやって、獣人を憎むレンリネドの人間を取り込んだのですか」

「簡単なことです。彼らは、獣人は完璧な人化ができないと思い込んでいる。エドワードさんの差し金のふりをして、セネーバに入国する手引きをしてあげれば、彼らは簡単に私の駒になりました」

 次の瞬間、女王の姿は人化状態のアストルディアそっくりの、黒髪の美女に変わった。
 けれど、その姿は完全に人間そのものだ。

「愚かなことです。魔力が高く、人間の血が濃い私ならば、耳も尾も完全に隠すことができるのに。何も疑わないまま、憎むべき相手から良いように使われたのですから」

 女王は、人前では一度も人化した姿を晒すことはなかった。
 だからこそ、獣人でも、彼女が完璧に人化できることを知るものはいなかったのだろう。
 アストルディアも、信じられないものでも見たような驚愕の面持ちで、女王を見つめていた。

「さあ、理解したでしょう。ニルカグルを殺し、その罪をエドワードさんに着せて貴方達を陥れたのは私です。全ては、貴方達に試練を与え、その器を見定める為。女王である私からすればこのうえなく正当な行為ですが、貴方達にその理不尽を飲み込めとは言いません。さあ、私を殺しなさい。アストルディア。セネーバの新しい時代の礎になれるなら、女王としてこれ以上の喜びはありません」

 どこまでも、気高く。
 どこまでも、誇り高く。
 凛と胸を張る、エルディア女王の姿は美しい。

 ーー美しいからこそ、彼女の纏う強い檜の香が気にかかった。

「……貴女は、嘘をついてますね。エルディア女王」

 どこまでも、エルディア女王が美しく見えるのは、全てが嘘だから。
 彼女は、気高く美しい女王を、演じているに過ぎない。
 美しい、完璧な最期を迎える為に。
 ……醜く堕ちてまで、求めた存在を。彼女の理想を崩す唯一の相手を、隠す為に。

「魔力を隠す匂いが強過ぎてアストルディアは……もしかしたら、エルディア女王自身も、気づかれていないのかもしれませんが。俺は魔力感知ができるから、わかるんですよ。天井裏に、いるんでしょう? ーールルーさん」
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