俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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母と言う人

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「……さすがに、それは大げさじゃ」

「大げさなものか。言いたりないくらいだ」

 ……本当、アストルディアの俺に対する評価が、番フィルターかかり過ぎで困る。
 これも全て原作の強制力なのか。それとも狼獣人の業なのか。そういやヴィダルスも似たようなこと言ってたしな。

 ヴィダルスの時と違うのは、それを素直に嬉しいと思う自分がいること。
 アストルディアに、純粋な好意を向けてくれる相手なんか探せばいくらでもいるだろうに、最初にそれを成し得たのが自分だったことに、ただただ安堵している自分がいる。結局アストルディアのそれは、強制力や狼獣人の業を除いても、刷り込みみたいなものだっただろうから。

「エディと出会えて、初めて俺は自分を取り巻く環境や、王子としての役割に向き合った。エディの隣に相応しい男になる為に、他人との交流を避けるのはやめ、味方を集めて王族としての基盤を築いた。孤児院へ訪問し、種族間差別の解消を課題とするようになったのも、エディの影響だ。次期辺境伯として、領地の為に一人で戦い続けるエディが、眩しくて。俺も、そうありたいと思ったから。本音では全てエディと並び立つ為であっても、表向きだけでも、民や国を第一に考える、王の器を持った男になりたかった。そういう存在であれば、どれだけ周囲の反対があっても、戦争を止め、辺境伯領を守りたいというお前の願いを叶えられると思ったから」

「……アスティ」

「でも、それはあくまで、お前が傍にいてくれたからなんだ。傍にいられる未来を、作る為なんだ。エディがいなくなったら、俺はどこまでもどこまでも愚かな男になってしまう。あり得たかもしれない未来の、俺のように」

 鼻水を啜りながら、アストルディアが俺の体をかき抱く。

「傍にいてくれ。エディ。俺の番として、共に生きてくれ。エディが隣にいてくれるなら、俺は誰よりも優れた王になって、戦争が起きない国を築いてみせる。エディも、エディが大切にしてるものも、全部護ってみせる。だから……だから、お願いだ」

「傍にいるって、共に生きたいって、さっきからずっと言ってるだろ。俺は約束は守る男だぞ。俺を信じろよ。アスティ」

「エディのことは、信じている……ただ、あまりにも俺に都合が良さ過ぎて。これが現実だと信じられないだけだ」

「現実だよ。アスティ。ほら、この唇の感触は本物だろ」

 ちゅっと優しく口づけると、アストルディアは感極まったように腕の力を強くした。

 ……ああ、本当。可愛いなあ。愛おしいなあ。

 そう思ったら、自然と俺の目も潤んできた。

 こんなことなら、もっと早く、気持ちを伝えておくんだった。……でも、運命を変える前なら、もしかしたらアストルディアも受け入れられなかったかもなあ。

 多幸感に包まれながら、愛する男の抱擁を堪能していると、不意に扉がノックされた。

「なんかすごく騒がしいけど、エドワード、目を醒ましたのー? 息子ちゃん、連れてきたわよー」

 扉越しの母上の声に、慌てて体を離すと、返事をする前に扉が空いた。

「ああ、やっぱり。目が覚めて、良かったわねぇ。クリス王子が手伝ってくれたおかげで、可愛い可愛い息子ちゃんが無事生まれたわよー」

「あ、ありがとうございます。母上。その……母上も尽力してくれたと聞いたのですが」

「そうなのよ。みんな、獣人のお産なんて初めてだから、怖がっちゃって。私は聖属性だし、修道院時代は人間のお産も動物のお産も手伝ってたから、立候補したのよ。あの頃より、難しいことはあまり考えられなくなっちゃったけど、感覚は覚えてたみたいで良かったわー」

 ニコニコと無邪気に笑いながら、母上は愛おしそうに、おくるみに包まれて眠る黒い子犬に頬ずりをした。

「色はあの人と、レオナルド。見た目はお父さんそっくりの、可愛い赤ちゃんよ。……良かったわねぇ。私やエドワードに、似なくて。男の子だから大丈夫だとは思うけど、獣人は男の子でも出産できるから。よけいなことを考えないよう、お薬を飲まなきゃいけなかったかもしれないでしょう?」

「……何、を」

「金色の巻き毛で青い目の綺麗な女の子は、呪われてるのよ。だからよけいなことは考えないよう、大人になる前にお薬を飲んで、何もできないようにしなくちゃいけないの。よけいなことをしたら、国が滅びてしまうから。でもエドワードは男の子だから、大丈夫なんだって。お父様やお母様が亡くなる前に言ってたわ」

  
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