293 / 311
目覚め
しおりを挟む
その意味を理解するより早く、まなが体がほどけるように再び光の粒子に戻っていった。
「……そろそろ時間だ。行かなきゃ」
「嫌だ……行くな。一緒にいよう」
「一緒にいる為に、行くんだよ」
まるで風が撫でるかのように、光の手が俺の頬を撫でる。
「お兄ちゃんが命をくれたおかげで、遠藤まなの人生は幸福だったよ。たくさんの家族に囲まれて、老衰で死ぬまでずっと幸せに生き抜いた。あの時お兄に命を救われた男の子も、私が死ぬ前の年までずっとお兄の命日のたびにお墓にきて感謝してた。だからね、今度こそお兄には幸せになってほしいの。誰よりも、幸せになってほしいの」
「だから、俺は幸せだったって……」
「足りないわ。もっともっと、幸せじゃないと嫌。私はバッドエンドやメリバ萌の暗黒腐女子だけど、現実のお兄ちゃんの物語にはハピエン過激派なのよ。知らなかったでしょ? お兄が世界一幸せにならないと、萌えられないの」
どこか誇らしげに笑うまなの顔は、すぐに崩れて光に変わった。
「それじゃあ、またね。お兄ちゃん。先に行って待ってるよ」
「まな!」
「次会う時はーーお母さんって呼ばせてね」
光が消えていくのと同時に、大波に流されるかのように、体が何かに引き寄せられて行った。
……あぁ、この感覚も知ってる。
俺が、エドワードになった時、同じ体験をした。
すぽんと穴のようなものの中に吸い込まれ、転移魔法で障害物があった時のように宙に投げ出されて、真っ逆さまに落ちていく。
落ちれば落ちるほど、少しずつ体の感覚が戻っていくのがわかった。
ざぶりと光の海の中に落下し、底へ底へと沈んでいく。
『……ディ』
海の底から、声がする。
『……エディ……子は無事、生まれたぞ……』
俺を呼ぶ、アストルディアの悲痛な声が。
『だから、どうか目を覚ましてくれ。エディ……』
海の底へ手を伸ばすと、その手の先が濡れた温かい何かに触れた。
「……泣くな。アスティ」
次の瞬間、視界が切り替わるように、目の前にアストルディアがいた。
黄金の瞳からぼろぼろと流れ落ちる涙を拭いながら、驚愕の表情で固まるアストルディアに笑いかける。
話さなければならないことは、たくさんある。話したいことも、たくさんある。
それでも、まず。今、真っ先に伝えたいのは。
「俺、お前のこと、愛してるんだ」
あの時真っ先に伝えたかった言葉が、ぽろりと口から漏れた。
「だから、そんな風にお前に泣かれたら、辛い」
次の瞬間、アストルディアの顔がくしゃりと歪んだ。
「……誰のせいで、俺が泣いていると思ってるんだ」
「ごめん……俺のせいだな。子どもは無事だって?」
「辺境伯領に駆けつけたクリスと、エディの御母上のおかげでな。今は隣の部屋で眠っているのを、エディの御母上がついてくれているが、後で連れて来よう」
え、と。クリスが駆けつけてくれたことも意外ではあるけど……母上、が?
聖属性持ちではあるけど、脳内お花畑でお人形の母上が、え? え? え?
状況が飲み込めずに混乱する俺の体を、アストルディアが抱き締める。
「……罰が、当たったかと思った」
「罰?」
「醜い本質や身勝手な欲望を隠して、エディの為のように装って運命をねじ曲げたから。女神が怒って、その罰でエディが奪われるのかと思った……あいつの言うように、本当はヴィダルスこそがエディの番に相応しいと思われたのかと」
「……そんな、こと」
「愛してるんだ。エディ。……初めて会ったその時から、本当はずっとずっと愛していたんだ」
まるで罪を告白するように、アストルディアの言葉は震えていた。
「本来の運命を夢で見て……エディが本当に愛しているのが、弟だと知っても。本来俺は、無理矢理エディの体を暴いて征服するような身勝手な男であると、思い知らされてなお。諦めきれなかった。運命を変えて欲しいという女神の言葉を大義名分にして、お前と共に生きられる道を探し続けた。エディの為ではなく、俺自身の為に」
「……そろそろ時間だ。行かなきゃ」
「嫌だ……行くな。一緒にいよう」
「一緒にいる為に、行くんだよ」
まるで風が撫でるかのように、光の手が俺の頬を撫でる。
「お兄ちゃんが命をくれたおかげで、遠藤まなの人生は幸福だったよ。たくさんの家族に囲まれて、老衰で死ぬまでずっと幸せに生き抜いた。あの時お兄に命を救われた男の子も、私が死ぬ前の年までずっとお兄の命日のたびにお墓にきて感謝してた。だからね、今度こそお兄には幸せになってほしいの。誰よりも、幸せになってほしいの」
「だから、俺は幸せだったって……」
「足りないわ。もっともっと、幸せじゃないと嫌。私はバッドエンドやメリバ萌の暗黒腐女子だけど、現実のお兄ちゃんの物語にはハピエン過激派なのよ。知らなかったでしょ? お兄が世界一幸せにならないと、萌えられないの」
どこか誇らしげに笑うまなの顔は、すぐに崩れて光に変わった。
「それじゃあ、またね。お兄ちゃん。先に行って待ってるよ」
「まな!」
「次会う時はーーお母さんって呼ばせてね」
光が消えていくのと同時に、大波に流されるかのように、体が何かに引き寄せられて行った。
……あぁ、この感覚も知ってる。
俺が、エドワードになった時、同じ体験をした。
すぽんと穴のようなものの中に吸い込まれ、転移魔法で障害物があった時のように宙に投げ出されて、真っ逆さまに落ちていく。
落ちれば落ちるほど、少しずつ体の感覚が戻っていくのがわかった。
ざぶりと光の海の中に落下し、底へ底へと沈んでいく。
『……ディ』
海の底から、声がする。
『……エディ……子は無事、生まれたぞ……』
俺を呼ぶ、アストルディアの悲痛な声が。
『だから、どうか目を覚ましてくれ。エディ……』
海の底へ手を伸ばすと、その手の先が濡れた温かい何かに触れた。
「……泣くな。アスティ」
次の瞬間、視界が切り替わるように、目の前にアストルディアがいた。
黄金の瞳からぼろぼろと流れ落ちる涙を拭いながら、驚愕の表情で固まるアストルディアに笑いかける。
話さなければならないことは、たくさんある。話したいことも、たくさんある。
それでも、まず。今、真っ先に伝えたいのは。
「俺、お前のこと、愛してるんだ」
あの時真っ先に伝えたかった言葉が、ぽろりと口から漏れた。
「だから、そんな風にお前に泣かれたら、辛い」
次の瞬間、アストルディアの顔がくしゃりと歪んだ。
「……誰のせいで、俺が泣いていると思ってるんだ」
「ごめん……俺のせいだな。子どもは無事だって?」
「辺境伯領に駆けつけたクリスと、エディの御母上のおかげでな。今は隣の部屋で眠っているのを、エディの御母上がついてくれているが、後で連れて来よう」
え、と。クリスが駆けつけてくれたことも意外ではあるけど……母上、が?
聖属性持ちではあるけど、脳内お花畑でお人形の母上が、え? え? え?
状況が飲み込めずに混乱する俺の体を、アストルディアが抱き締める。
「……罰が、当たったかと思った」
「罰?」
「醜い本質や身勝手な欲望を隠して、エディの為のように装って運命をねじ曲げたから。女神が怒って、その罰でエディが奪われるのかと思った……あいつの言うように、本当はヴィダルスこそがエディの番に相応しいと思われたのかと」
「……そんな、こと」
「愛してるんだ。エディ。……初めて会ったその時から、本当はずっとずっと愛していたんだ」
まるで罪を告白するように、アストルディアの言葉は震えていた。
「本来の運命を夢で見て……エディが本当に愛しているのが、弟だと知っても。本来俺は、無理矢理エディの体を暴いて征服するような身勝手な男であると、思い知らされてなお。諦めきれなかった。運命を変えて欲しいという女神の言葉を大義名分にして、お前と共に生きられる道を探し続けた。エディの為ではなく、俺自身の為に」
436
お気に入りに追加
2,071
あなたにおすすめの小説
異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった
藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。
毎週水曜に更新予定です。
宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
転生悪役令息、雌落ちエンドを回避したら溺愛された?!~執着系義兄は特に重症です~悪役令息脱出奮闘記
めがねあざらし
BL
BLゲーム『ノエル』。
美麗なスチルと演技力抜群な声優陣で人気のゲームである。
そしてなんの因果かそんなゲームの中に悪役令息リアムとして転生してしまった、主人公の『俺』。
右を向いても左を向いても行き着く先は雌落ちエンド。
果たしてこの絶望的なエンドフラグを回避できるのか──……?!
※タイトル変更(2024/11/15)
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる